第3話
2人の言ってた村に着いた。 やっとだ。
村の人口は1200人ほど、ネオ東京向けに食料出荷してる山間の村。
昔は箱根と呼ばれていた地域らしい、温泉と魔物肉が名物なんだと。
事情を話したら、村長は俺の滞在を許可してくれた。
「 心配要らん。 肉がなくなって困るのはアイツラじゃ 」 だそうだ。
村長は第2世代の能力者。
親が初代の能力者で、ここに住み着いて村を作ったそうだ。
近隣の
夕食には魔物の肉と、新鮮な野菜! と 香辛料! がタップリ使われてた。
大食堂で西条とサチコと食べたが、実に美味かった。
歓迎会? んなもの在るか。
村について2日目。
村の中を案内してくれた。
大量の肉は近くにあるダンジョン産、温泉は昔から有ったんだと。
温泉を利用した温室があり、バーブや香辛料を作ってた。
まともな動力源が無い現代じゃ、香辛料は非常に貴重だ。
あと温泉、初めて入ったがアレは良いものだ。
村に着いて3日目。
狩りに同行させられた。
「 ゴブリンなら弱いから大丈夫 」
確かに弱かった、俺でも倒せたからな。
問題は俺もゴブリン並みに弱かったことだ、
記憶の捏造じゃない、『 貴方にこそ必要 』 って言ったのは聖女だ。
和也も言ってた気もするが。
良いんだよ、信じたいものだけ信じていれば。
村に着いて4日目。
ネオ東京向けの出荷を見送る。
「 一番多いのはオークの肉だな 」
荷車の荷台には、ガチガチに凍った大きなブロック状の肉がギッチリ積まれてる。
雨が降ったら、魔物の皮で濡れないように覆うんだと。
1台3トンとしても5台で15トンか。
西条も、サチコも出掛けて行った。
『 5日に一回ネオ東京に来てる 』 は、西条やサチコが所属してるグループの話だ。
他にも、数グループあるんだと。
俺は今日も狩りに同行だ、死にかけた。
御守の治癒魔法に感謝だ。
村について7日目。
連日狩りに同行してる。
夜中に悪夢で、飛び起きるようになっちまった。
ゴブリンに切られそうになる夢だ、切られる直前で目を覚ます。
生まれて初めて命を奪ったトラウマ、なんて事はない。
俺の身体は、他の命を奪って食わないと生きちゃいけない仕様になってる。
今更だ。
ゴブリンは食べない、血の臭いが気持ち悪かったのは認める。
無能力者の俺でも魔物は倒せるし、レベルアップはする。
なかなか成果が出ないのは、俺が無能力者だからだ。
それにしても、何で剣や槍で戦うんだ?
ココは温泉地だ、硫黄なら捨てるほど有る。
村について8日目。
眠れない。
気分転換に夜の温泉へ。
ここの風呂は元々混浴の大浴場だ。
家に風呂があるのは上位者だけ。
村長とか輸送隊のリーダーとか、ダンジョンアタッカーのリーダーとか。
だから、ラッキースケベなんて存在しない。
観ようとおもえば、いくらでも観られる。
んでも、俺は腹筋が割れてる女性には興味が無い。
料理を担当してる涼子さんのほうが良い。
亮子さんが太ってるって訳じゃない、今の世の中、太ってるのは上級国民様だけだ。
村について11日目。
西条とサチコが戻ってきた。
ネオ東京の情報を仕入れてきてた。
国の発表じゃ、停電の被害は海外にも及んだんだと。
だろうな。
国内の死者は2名様、死因は心臓発作。
上級国民様がビックリして、お亡くなりになったと笑ってた。
海外の被害は集計中、死者は出たらしいが上級国民様だけらしい。
一般市民に被害が出なくて良かった。
『 本当の死因は暴飲暴食による肥満 』 ってのが、世間一般の認識なんだと。
被害金額は 『 膨大で甚大 』 らしい。
知ったことか。
「 まだアンタを探してるわよ 」
「 匿ってくれて、助かってるよ 」
「 気にしなくて良いんじゃない? 村長が良いって言ってるし、そんなこと誰も気にしてないわよ 」
西条もサチコも気楽だな、早く自分の身は自分で守れるようにならないと。
それにしても、俺や部下達の命だけじゃ損害と釣り合わない。
誰が何のために仕組んだのか、上級国民様の考えは判らん。
村について16日目。
西条とサチコが出掛けていった、2回目のお見送りだ。
今日やっとレベル5になった、パワーレベリングで。
最大瞬間魔力は1、最大貯蔵魔力量は3、ここの能力者の3才児の平均と同じ。
ちょっと悲しい、これが無能力者の限界か。
最大貯蔵魔力量だけが多くても、最大瞬間魔力量が小さいと意味は無いんだと。
最大瞬間魔力量が小さいと、魔法の威力が小さくなるからだ。
大きなダムの水を、小さな水鉄砲で何十万発撃ったってゴブリンは倒せない。
そう言うことだ。
この村で、魔物採取に行く奴らの単純平均はレベル30なんだと。
俺は村の中で生活しよう。
村について18日目。
昨日も今日もお休みだそうだ。
雨が降ったからなのか、別に俺がサボってる訳じゃない。
俺は戦闘じゃ役に立たない、足を引っ張って周りに負担を掛けてる。
自分に出来ることは何なのか再確認が必要だ、せめて自分の食い扶持分は稼がないと。
村について24日目。
西条とサチコが帰ってきた。
ネオ東京じゃ、まだ俺の事を探してるんだと。
ご苦労なこった。
俺はレベル上げを中断して、村の中で仕事をやってる。
掃除とか道具の手入だ、手先は器用だからな。
掃除は掃除でも便所掃除は免除されてる。
俺には聖女から御守が在る、病原菌があっても問題無いんだが。
村について35日目。
西条とサチコが帰って来た。
何か連れてきた。
「 で、これは何だ? 」
「 和也の妹だな、15才だそうだ 」
「 そうか。 で、コレは何だ? 」
「 あんたに感謝してるんじゃない? 」
「 ”コレ”扱いは酷いと思います! 」
俺にしがみついてるのはカヤ、和也の妹で15才。
ソレは判った。
「 俺に追いつける奴はネオ東京には居ない。 跡なんかつけられてないから心配ないぞ 」
西条のドヤァ顔がウザい。
「 つける必要も無いからな 」
毎週、毎週、肉を収めてるんだ、ココの場所は奴らも判ってる。
追っ手がいないなんて、威張って言うほどのことじゃない。
んで、奴らって誰だ?
勇者を引っかけるエサに使われた子で、勇者の身内。
奴らは、俺よりカヤを放置しておかないだろう。
危険が危なそうだ。
「 何心配してんの? あいつら弱っちいから、手出しどころか村にも入れないわよ? 」
ほぼ毎日ダンジョンで魔物と戦ってる村の人と、たまに壁外の魔物を駆除してるネオ東京じゃ戦力が違うんだと。
「 この村が出来て114年になるが、許可を得ないで村に入れた奴は居ない。 魔物も人間もだ 」
「 そりゃ凄いな 」
「 夜も交代で見張ってる。 前哨拠点もあるからな 」
村の壁からだけじゃ無く、外にも前哨拠点があるんだと。
ここは平原じゃなくて見通しの悪い山間部だ、安全のためには必要な措置か。
4人で夕飯を食べ始めるころ、カヤがソワソワし始めた。
トイレかと思ったんだが違った。
「 夜が怖いんです・・・・・・ 」
カヤは心臓が悪かったらしい、心臓の移植だったのか。
毎日、翌朝、目が覚めるか判らない状態で、震えながら眠りについていたと。
つまりカヤは、病気のせいで夜が怖くなったと。
「 もう病気は治ったんだろ? 」
風呂で見たけど傷は見えなかった。
ポーションと治癒魔法って、傷に対しては効果が凄いな。
「 はい、もうスッカリ元気です。 でも・・・・・・ 」
心の病は、ポーションでも魔法でも治らないか。
幸い身体の方は治った、心の方もじっくり治すしかないな。
今の時代じゃ絶対に安全は無い、大体安全、ほぼ安全、くらいだ。
警報で目が覚めたら目の前に魔物が! ってのはあり得る。
そうなったら諦めるか戦うしかない、誰にとっても夜は警戒すべき時間帯だ。
「 裏杉さんは、夜が怖くないんですか? 」
「 夜は怖くないな、見えないのは怖いけど 」
「「「 ・・・・・・ 」」」
なんじゃコイツら、人を変な目で見やがって。
隣でご飯を食べてたカヤの目を手で塞ぐ。
「 これで、目を開けても周りが見えないだろ? 」
「 はい 」
「 周りに知ってる人間が居ても、チョット怖くないか? 」
「 そうですね、少し不安になります 」
手を離して食事に戻る。
「 そう言うことだ 」
「 判らないわよ! 」 サチコは気が短い。
人間は情報の70%~80%を、目から仕入れているらしい。
触覚とか聴覚何かもあるけど、殆どの情報は目から仕入れてる。
急に情報が入ってこなくなったら、そりゃ不安になったりするだろう。
夜か昼かは関係無い、重要なのは見えるか見えないかだ。
「 ココとココ。 何が違うと思う? 」
箸を持った手を上げて、テーブルに影を作る。
食堂に限らず村の灯りの殆どは火だ、影も揺らめく。
警備の中には灯りの魔法を使える者も居るらしいが、こんなとこで使ってる場合じゃ無い。
「 ココは影ですよね? 」
「 そうだな。 じゃあ周りとの違いは判るか? 」
「 えっと、”暗い” ですか? 」
「 その通りだ。 ”暗黒” とか ”闇” なんて
空間には、様々なものが存在している。
地球上では、酸素、窒素なんかの”大気”、チリやホコリもあるだろう。
匂いの元の微粒子もある。
クオークも在るかも知れないが、あいつらはアッという間に通り過ぎてくから捕まえるのは難しい。
電磁波や引力もある、他にも検出が出来無い色んなモノも在るだろう。
時間が在るかどうかは知らん。
それでだ。
テーブルの上の水滴に指をつけ、横に引っ張る。
「 人が ”暗い” って感じるのは、明るいって感じる電磁波、電波が少ないからだ 」
テーブルの上の水の線を指差す。
「 これが電磁波の周波数全部だと仮定する、この中で人が見える範囲は・・・・・・ 」
箸で示すつもりだったが止めておく、不衛生だ。
「 たったこれだけだ 」
「 見えないじゃない! 」
サチコがお怒りだ、お怒りなんだがソレが事実だ。
「 それくらい狭い範囲しか、人間は見えてないんだ。 しかも、
涼子さんの料理は今日も美味い。
ブラックホールなら光も吸い込むらしいけど、影じゃ光は吸い込めない。
「 他は何も変わらない。 モロモロ沢山ある内の電磁波、そのほんの一部が
「 裏杉、それは当たり前のことだろう? 」
「 まぁ、当たり前だな。 だからだ、夜は怖くないけど見えないのは怖い 」
「 何となく言いたいことは判るわ。 闇魔法とか影魔法なんて聞いたことも無いし 」
探すだけ無駄だな、存在しないんだから。
影魔法は、電磁波が周りよりチョット少ない魔法。 どんな魔法だそれは。
暗黒魔法は光が無い魔法になるのか? 光成分が無いだけ威力が落ちないか心配だ。
何かを無くして窒息させるのか? 酸素を無くしても光は無くならないけど、確かにやり方は黒いな。
「 違うんです。 こう、深淵の闇から黒い闇的なものが出てくるんです 」
「 出てくるのか。 じゃあ、暗黒魔法じゃ無くて召喚魔法だな 」
「 そうじゃなくて、闇を創り出すんです 」
「 創り出すのか、そりゃ凄い! 」
カヤが俺に説明してくれるんだが、マルッと全部意味が判らん。
コレが世代ギャップってヤツか。
「 創り出すってことは、神に匹敵する力なんだな暗黒魔法って。 そんなヤツを見かけたら、速効で逃げるよ 」
俺は食事を続ける。
神は 『 光あれ 』 って言って、この世界に最初に光を創ったらしい。
呪文で闇が創れるなら、神の言葉も呪文だったんだろう。
神と同じ能力を持ったやつか、単に黒色が好きなやつか。
俺の経験上の統計では、黒色が好きってヤツはナルシティズムが入ってる可能性が高い。
そんなヤツからは逃げるに限る、どっちにしても友達にはなれそうもない。
「 夜が怖かったら、サチコにしがみついて寝れば良い。 少しは安心できるだろ? 」
「 はい! 」
サチコは細身の筋肉質、抱き心地は良く無さそうだ。
チョット騒ぎすぎたか、周りは笑ってるけど涼子さんの視線が痛い。
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