11 夢のような日々
ぼろぼろのヘルメットに、どでかいゴーグルをつけた
そして、数体のゴブリンヤクザ……
……改め〈
右腕が肘から、無骨で不格好な
元は鬼、
「オレちゃんのトラップ・ハウスへよォーこそ! 人間の死体がちょォーど足りなかったんだ、おとなしく五体満足で死んでってくれや!」
〈Lv.19
〈Lv.12
〈Lv.15
……etcetc。
「そうか、ここの屋上、上の地下1階だ……」
と、色葉が呟く。
そう、作りの見事さに時々忘れてしまうけど、弐番街は
……上から降りてくるのも簡単なはず。階層と階層の間に、
「かかれぇぇぇぇぇぇ!」
リサさんがそれぞれのスキルを覗く間もなく、発明家が指揮棒を振り乱し号令を飛ばす。ぎしゃん、がたん、ばたん、ぎぎぎぎ……! 機械からしてたら故障を疑うしかない音をたて、しかしそれでも
「ふっふーん……対策済みです……いっくぞぉ、
しかし。
色葉は喜色満面に、2本の
……まあ、要してしまうと、両手に
でも。
このバカみたいな技は、実際、効果的だ。
腰のあたりで振るわれる
少し前まで色葉は、
彼女の顔は、喜びではじけんばかり。
「くたばらおら!」
「どぐさらがら!」
「ざけなるだら!」
方言とヤクザ映画弁と
僕としてはその最中に、狙い撃てばいいだけだ。
「……Gモード起動」
"それをやるときはカッコよく、銃手形態と書いてガンスリンガーモードと言いなさい、いや絶叫しなさい"
って言ってくる色葉に対する最大限の譲歩案として編み出した、合図の言葉……それでも彼女は、起動はアクティベートって言ったほうが絶対カッコいいのに、なんてぶつぶつ言ってたけど。
杖を
どむっ、という曇った音が、2連。
専用に作った大きめの、鉛製ボールベアリングで500円玉大の穴を眉間に開け、2体の
「オレもやる!」
僕の後ろにいたスライ・スライは、土エレメントでかなり強化している僕の背中、肩を踏み台に空中に跳び上がり、残った1匹の眉間にナイフを、根元まで突き立てる。
発射予定だった3発の銃弾はそれぞれ、天井、雀卓、ドリンクバーを穿つ。雀卓が転がり、ドリンクバーは盛大な音を立ててメロンソーダとオレンジとコーラが混ざったアホの飲み物をそこらにまき散らした。
「あーーーーー! オレちゃん専用ドリっ」
胸から大きな刃をはやし、口をぱくぱくさせている。
「はい、おしまい」
楽しそうに呟くリサさんが、背後から突き立てたショートソードを、ひねる。
「…………いぇーーーい! 今のはかなり良かったんじゃない!?」
レベルアップ音声を聞きながら、色葉が回転を止めて嬉しそうに言う。三半規管まで強化されてるらしく、酔うこともないみたいだ。
「時間にして……1分もない、すごいな」
僕も僕で感心して言ってしまう。今まで散々読んできた、ちょっと強くなって調子に乗ってる中堅冒険者、にならないよう、ならないよう、気をつけているつもりだけど……事前に練習した連携、戦術が、ここまでうまく行くと、少しは天狗になった方がむしろいいかもしれない、なんて思ってしまう。
「……ドリンクバー」
が、お気に入りのおもちゃが自分のせいで故障してもう動かないと知ってしまった6歳児みたいな口調で、スライ・スライが呟く。リサさんはようやく姿をあらわし、くすくすと笑う。
「大丈夫ですよ、スライ・スライさん、壱番街に帰ったら
「……うむ! そうだな! 冒険帰りは茶とお菓子と決まっている! コーラと来たらやはり、お菓子がいるしな!」
「 あー、むしゃむしゃ、ばくばく!
おー、ずるずる、ごくごく!
ちらせ、ちらかせ、くいちらかせ!
テーブル のってる お菓子たち!
まみれ、まみれて、こなまみれ!
ぜーんぶ、ぜんぶ、おれのもの!
さあさ、さあさあ、なにから喰おう!
人間どもから奪ってやった 甘くてさくさく
エルフどもから盗んでやった とろーりとろりの
ドワーフどもからもらってやった しっとりふわふわ
ドラゴンどもからくすねてやった 神様びっくり
だけど忘れちゃいけないぜ
母ちゃん手製の
父ちゃん手製の
げろまずお菓子のなつかしみ……………………!」
とぼけたメロディに歌詞が収まりきらなくて、ちょっとラップみたいになっている、調子っぱずれな歌声にリサさんはまたくすくす、おかしそうに笑う。僕と色葉はそんな2人を見ながら少し笑った。
「私ら、結構イケるんじゃない?」
色葉が興奮気味に言ってきて、だよな! と返しそうになり……
……なんとか、難しそうな顔を作って言う。
「……ってなるとここら辺で、最初のやらしい関門をぶつける頃じゃないかな」
古今東西、ゲームってのはそういうものだ。
ゲームの仕組みが理解できて、あ、今自分はこのゲームをちゃんとプレイしてる、って楽しみ始める時、そこでようやく、ゲームがゲームとしての牙を剥いて、プレイヤーに真の挑戦、クエストを投げかける。赤い悪魔、状態異常、物理反射の敵、1発即死の危険性、etcetc……。(用語解説※2)
「もー、あんたは本当に……でも顔、嬉しそうだよ」
でも……僕はどうやら、本当に浮かれてるみたいだ。色葉には僕の嘘は、絶対バレるってことを忘れてしまうなんて。一体全体なんの超能力だよ、とも思うけどたぶん、家族がたくさんいると足音で誰が来るかを聞き分けられる、みたいなもんだろう。
「……それぐらい見逃せよ、君は、ほんとに」
「ふふ、やれやれって言ってみたら?」
「やーれやれ」
「あ、ちょっと照れた」
「うるさいな」
「ね、ね、もっかい言ってみてよ」
「……やれやれだぜ!」
雀荘の中に僕の叫びがこだまして、悪鬼たちの死体が消え、ドロップアイテムの落ちる幸福の音と重なった。
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※用語解説
※1 馬場は回るから馬場
正確には「ばばだから回るのではない、回るからばばなのだ。」。多くのフォロワーを生んだ、ハック&スラッシュジャンルの代名詞的なPCゲーム、個人攻略サイトが初出か? 馬場はゲーム内のジョブ、バーバリアンの略称。回る、はWhirl Wind(WW)という馬場のスキルの一つ。武器を振り回しながら戦場を駆ける。
なお発売当初から最強スキルとされていたWWはパッチによる弱体化や仕様変更が重なり、一時期は最弱とされていたこともあった。
※2 赤い悪魔、状態異常、物理反射の敵、一発即死の危険性、etcetc……。
「ゲームに慣れ始めたプレイヤーの目を覚まさせ、新鮮みを保つ仕掛け」は古今東西、枚挙に暇がない。読者各位それぞれに、思い出深いものがあるだろう。感想欄でお聞かせいただければ幸いである。
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