ウィー・アー・プレイヤーズ! ~現代社会に突然レベル・スキル制なら、ダンジョンもどっかにあるんじゃないですか? ……だめ? ない? ……ある? ある感じ? ……魔石は?~
10 ゴブリンって何でできてるの? 焦がした砂糖とぴかぴかするもの、それと風呂桶いっぱいの血、あと、うひゃうひゃげらげら嗤い声。そういうものでできてるよ。
10 ゴブリンって何でできてるの? 焦がした砂糖とぴかぴかするもの、それと風呂桶いっぱいの血、あと、うひゃうひゃげらげら嗤い声。そういうものでできてるよ。
それから1週間。
弐番街に
ダンジョンはダンジョンで、仕事場じゃない。
……よし、こういういらない豆知識を挟んで、色葉成分を抜いていこう。あいつときたら、ダンジョンを稼ぎ場としてしか見てないんだから、失礼しちゃうぜ、ほんと。
さておき。
弐番街のモンスター、筆頭は
現代の地球文明に触れた
とはいえ実際のところは、2割が成功、8割は失敗、ってところらしいけど……その8割の失敗も、弐番街じゃ大きな意味を持っている。まあ成功作も成功作で、冷静に考えると失敗では……? ってやつが多いけど。
【クリア……です】
新たにとった探知系のスキル、〈
趣味で図鑑と地図を作るためにとっていた〈
「……スライ・スライ、においは?」
それなりに頑丈そうで、最近補修の工事をしたんだろうな、って風情の非常階段の踊り場。僕らはフロアの中に突入するかどうか、最後の判断を下そうとしていた。レベル上げと実戦訓練を兼ねて、
「……ゴブリンのにおいはせんな……いや、わずかに残ってはいる、が……」
真っ暗闇となっているフロアをくんくん嗅いで首を振るスライ・スライ。6割ぐらいの信頼度しかないけれど、彼はどうやら、同族のにおいを察知できるらしい。スキルじゃなくて種族的なものだそうだけど。
「色葉、行っちゃおう」
僕は
「……イグニタス・ライタス」
実力偽装はダンジョンで、かなり重要なファクターだ。
パーティーキラーが横行しているから、だけじゃない。
ここにはモブがいない。
今僕たちが倒そうとしている
「空っぽ……?」
色葉が周囲を警戒しながら一歩を踏み出す。腰につけてる、僕が作った専用の鞘に
「いや……誰かがいた気配はある……」
スライ・スライも横に進み出て、鼻をひくつかせる。こちらは変わらずのマフィアスタイルにいつものナイフ。お買い物ではサブウェポンを買った、ということは全然なく、壱番街の飲食街で
……まあどうやら彼のナイフは、何回無くしてもいつの間にか彼の手元に戻ってくる、という、むちゃくちゃなユニークアイテムらしいので、いいけどさ。
僕は彼の影になるように慎重に。かすかにリサさんの足音も背後に聞こえる。
「……先を越されたかな?」
色葉はフロア内に脅威がないことを確認し、呟く。
「にしては、部屋がきれいだ……っていうか、
フロア内はそこそこ綺麗に自動
新宿の街をテーマにダンジョンを作成した
「あんな運任せの下品な遊戯はやらん。我らの遊戯と言えば、逆さ吊り落とし転がしゴブリン大爆破おもしろゲームに決まってる」
それはなんですか、と聞いても多分、逆さに吊ったゴブリンを転がして爆破するおもしろい遊びです、としか帰ってこない気がして聞くのはやめた。
【相変わらず……生命反応はゼロ、です】
フロア中央まで進んできて、リサさんも。狭めの教室ぐらいのこのフロアなら、直径3メートルの感知範囲でも漏れはないだろう。ということは、本当に生物はいない。
「ブラフ……ってわけじゃなさそうだったけどな」
僕は呟く。リサさんも横で、頷いているのがなんとなくわかる。
弐番街の西の外れ、超職安通りとあほあほ甲州街道(看板にそう書いてあったので、ネーミングセンスを責めるなら
透明になれる彼女のユニークスキル、
今回の話の始まりはつい昨日のこと。
彼女がとある路地裏にいたところ、天井から降ってきた
「……すると……屋上?」
「かもしれない。もしくは……同じ名前のビルがあるか」
「ちょ、ちょっとスライ・スライさん……!」
透明化中のリサさんが実際に声を上げるほどのことをしでかしたのか、と思って慌ててスライ・スライを見ると……ドリンクバーに直接口をつけて、じゃぶじゃぶがぶがぶ、メロンソーダを飲んでいた。
「……うめええ! うめええ! うんめぇえぇ!」
粋なスーツが汚れるのもかまわない、欲望剥き出し。
僕と色葉は顔を見合わせて、大きくため息をついてしまう。
ゴブリンは甘いもの好きだ。
って言うとなんか、いかにもファンタジックでロマンチックな印象があるけど……そういうやつじゃ、あんまりない。
どうやら糖分はゴブリンにとって、ある種の
オレたちゴブリンは種族的に依存性がつかないし、耐性もできないんだぜ、ああうめえぇ、うめえェよゥ……! と、コーラの缶を切って中をぺろぺろ舐めながらスライ・スライは言ってたけど……うーん……本当、かなぁ……歴史によるとゴブリンの戦争の大半は、糖を求めてのことらしい。塩ならともかく、砂糖で戦争するな。炭水化物を噛み続けてろ。
そんな事情があるので、精製糖分(ゴブリンの言い方で言うと「混ぜモン無しの上等の白いヤツ」)を最も手軽に、一気に摂取できる清涼飲料水、ジュースには、ゴブリンは文字通り飛びつく。
そう言う意味では、ドリンクバーが動いているのは二重の意味でおかしかった。もしゴブリンがここを使っていたなら、タンクは空のはず。
でも、そうじゃないってことは……?
……ここを公共のジュースバーにでもするつもりだったのか……?
僕は肩の力が抜けて、近くにあった雀卓の椅子に、どっかり、腰をおろしてしまう。エアコンの音もうっすら響いていることから、ここにはちゃんと電気が来ているようだ。たぶん、魔石に風と土のエレメントを入れてやる、魔石発電によるものだろう。ジュースバーのついでにいじったのかもしれない。
エレメントをいじるのは
「電気を来させてるってことは、やっぱここ、使ってるってことだよね?」
色葉も僕の対面に座る。麻雀風に言うと、トイメン、って言うんだろうか? ……そういえば川島くん、ネットの麻雀にはまって、ほとんどプロ級だぜ、とか言ってたな……って思い出してしまって少し感傷的になってしまう。対戦ゲームってことで食わず嫌いせずに麻雀のルールを覚えてたら、もっと違う未来もあったのかもしれない。
そこで、とす、と僕の右手側で音。リサさんも雀卓に座ったようだ。
「…………4人目が座ったら発動する罠とか……?」
思いついてしまったのでなんとなく言ってみると、途端にありそうな気がしてくるから不思議だ。雀荘フロアの中央に位置するこの雀卓は、なぜか、他の雀卓から少し離れていて、一段高い位置にある。さながらここが配信席かなにかみたいに。いや、配信席のある雀荘ってあるのかな? ……あるか、たぶん。
「もしくは……」
色葉が、あ、という顔をしながら続ける。
【やって……みます……?】
リサさんも。
「あ! ずっけー! オレも座る!」
と、僕らが心の準備をする前に、メロンソーダを飛び散らせながらスライ・スライが椅子に飛び乗って来た。壱番街には大きなお風呂やさんもあるし、
かちり。
同時に、僕たちはその音を聞いた。
「100
かちかちかち……かちり、かちり、ごろごろごろ……
みたいな音がフロア中から響く中、椅子から飛び出し、雀荘の壁を背に、
「……乗った。これは悪い感じの音」
僕は彼女と隣合わせ、杖を構えてあちこちを照らす。
僕と色葉は生まれてからずっと、こんな賭けをしてきてる。
もちろん、こういう風に賭けるのってなんか洋画みたいでカッコいい、って色葉のストレートな中二病によるものだから、実際にお金をやりとりしたことはないけど。
でも……フロアのどこにも、変化した様子は見られない。ただフロア全体から、ゼンマイ仕掛けの機械が続々と動いていくような、そんな音が響き続けている。
「オレ様は魔石がたんまり詰まった宝箱が出てくるのに賭けるぞ!」
スライ・スライは僕の近くの雀卓に飛び乗り、目をらんらんと輝かせる。
「…………やっぱり、
リサさんが呟く。弐番街は罠に関して、かなり緩いらしいって情報があったので、対生命体を優先させている。とはいえ……こういう状況になると、やっぱりどうしてもSPをもうちょっとくれ、あるいは、一個で数スキル分の効果があるスキルをくれ、みたいなことは思ってしまう。
「全員外れーーーーーーーーーーー!!!」
知らない
数体の成功作、そして十数体の失敗作と共に。
…………この野郎、魔石、もう使いやがったな。
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