07 ピー・ケー

「私の趣味で作った毒でな、体内に入ると少々おもしろいことになるぞ」

「おい蛇怪じゃかい! 手ェあげさせろって! てめぇはいっつもツメが甘いんだよ!」

「と、そういうことだ坊主、メニュー操作されても面倒だ。おとなしく手を上げててくれ。見えるところで、はっきりと、開いてだ」


 そろりそろり、僕は手を上げる。


 スライ・スライはなにが起こったのかわからない、って顔で僕を見つめてる。わからないどころか、なんか楽しそうなことやってる! みたいな顔でもあるから、こいつは本当に無敵だな、なんて思ってしまう。色葉ときたら真っ青な顔で今にも、エクスカリバールを取り落としそうになってるってのに……。


「……殺さないの?」


 不思議になって尋ねてしまうが、3人はそろって笑った。


「おいおい、おまえらぐらいレベルが下だとな、殺したところで経験値なんざ、小兎のケツの骨よ。だったら、なんだ? おまえらの言葉で言う……カツアゲ? した方がいい、って蛇が言うんだよ、オレはぶっ殺した方が手っ取り早いって、お前らが転移部屋から出てきたときから言ってんのに」

「まだわからんのか灰丸。殺したら亜空筺ボックスのアイテムは消えるんだぞ」

「そんな新人がたいしたアイテム持ってるわけねえって」

「にしても魔石とポーションぐらいはあるだろう、RMTリムトも渡してもらえれば、こいつらの経験値よりはウマいさ」

「やれやれ、蛇はしみったれでいけねえや」

「我々は鬼と違って知性的なものでね」

「ま、殺すのは後でもいいしねー」


 妖精が言って、ふわり、宙で1回転。

 固まっている色葉の顔の周囲を飛び回り、くすくす笑う。




【竜胆くん。仕掛けるときはいつでも言ってください】




 リサさんからのメッセージ。




 そう。

 これぐらいの状況・・・・・・・・、僕と色葉がいて、想定しなかったわけない。




 システムの穴を突く方法。

 人の不意を打つ方法。

 どっちも僕たちの、生まれついての得意アップスキル。




 僕は発明狂界系テスラ・システム無言起動・・・・

 あいつのジョブスキルは発声が必要なヤツだ、と、モンスターとの戦闘中パーティを観察するハイエナたちに思わせるためのブラフも、役に立つもんだ。練度2あたりから、思念だけで操作が可能になっている。テストは十分に重ねた。


「あー……その、僕ら、ほんとに、なんにも、持ってないんですが……」

「次嘘ついたら、毒を塗ってない方のナイフで」


 きらり。亜空筺ボックスから取り出したのであろう2本目のナイフを、尻尾の先端がぐるぐると巻いて握り、僕の耳に突きつける。


「まず耳を削ぐ。次は鼻を落とす。その次は目をくりぬく。だから計5回嘘をつけるぞ、良かったな」

「ん? 6回じゃねえの?」

「……そうか、鼻を削ぐときも左右に分割できるか、やってみよう」




 みぢ。




 耳に当たったナイフが数ミリ、付け根を切りつける。

 十分だ。


「…………色葉、リサさん、スライ・スライ」


 僕はそれぞれの顔を見つめ、言う。






「ごめん…………さよなら、君たちだけでも、逃げてくれ」






 刹那。


 土エレメントを最大限まで、自分に付与。


 同時に思い切り、首をナイフの方に倒す。






「なっ、アホウかっ!?」


 慌ててナイフを引く蛇怪だけど、もう遅い。

 今できる最大限のところまで防御力の高まった僕は、ちょっとしたナイフ程度なら傷一つつかない、鋼鉄の体。肩と頭でナイフを挟み込み、そのまま彼に倒れ込む。妖精はなにか、僕の意図に感づいて詠唱を始めたようだけど、灰丸の方は、おもしろいことやるじゃねーの、みたいな顔。その隙に色葉が群青色ネイビーブルーの風となって、一直線に灰丸へ跳ぶ。


 リサさんは姿を隠したまま、爆弾を僕らとは逆方向に投げ、彼らの気を散らす。

 スライ・スライは1つ嗤うと、妖精フェアリーを押し潰さんばかりに両手両足を拡げ飛びかかる。




 仲間を思う主人公みたいな台詞が、人質に取られた時の合い言葉。

 これを合図に、全員が戦闘開始。

 ……だって竜胆が一番言いそうにない台詞じゃん、と、色葉が決めた。

 まったく……これを生き延びたら、思う存分やれやれって言うぞ。




 僕はまだ状況を把握できていない蛇怪に向かって倒れ込み、彼に馬乗りになる。ナイフを振るうけれど、おそらくサブウェポンらしいそいつじゃ、今の僕の肌には傷一つつかない。良かった。ここが一番の賭けだった。僕の攻撃手段もまだないけれど……。


「ボックス!」


 最後に残ったバッテリー爆弾を手の中に出して、そのまま彼に抱きつく。下半身が蛇でも、上半身はほぼ人型。脳はしっかり、そこに収まってるはず。

 爆弾は彼の後頭部、首筋に、思い切り、叩きつける。


「なんだぁ、おい! やるじゃねーの!」




 灰丸が叫んだところで、閃光と爆音が僕を包んだ。

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