03-02 ウィー・アー・プレイヤーズ
「……スライ・スライ、その…………」
半ば喧嘩別れのような形で(小学生の、という形容詞がつくけど)ギルドを出てからというもの、あからさまに、今はスネてます、って態度で歩くスライ・スライに、しばらく声をかけられなかった僕らだけど……どうにも居心地が悪くて、僕は口を開いてしまった。
なんというか、ゴブリンの、種族としての事情があるのはわかった。
スライ・スライは本当に、英雄、なんだろう。
……たぶん。
ゴブリンを
「おまえらはなにも、気にするな。当面レベル上げだろう。オレも、一朝一夕で王を倒せるとは思っていない。それに付き合うのみだ。ただ……」
ぴたり、少し人気のない、路地の入り口でスライ・スライは止まった。
「もし……とんでもない強敵に挑みたい、命を捨ててでも叶わない相手に挑みたい、となったら、そのときはオレに言ってくれ。案内しよう」
今まで見たことがない、弱々しい笑い。
冷静に考えれば今、彼は、決闘で負けたから僕たちと一緒にいるだけなんだ。ひょっとすると、今すぐにでも王を討ちたいと思っているのかもしれない。たとえそれが、蟻と象どころか、ミジンコと神の戦いに等しいほど、絶望的なものであっても。
僕は大きくため息をついた。色葉は息をのんで、リサさんは唇を噛んでいる。
だから、言った。
「そこまで強敵じゃ、ないと思うけど」
「…………は?」
「いや、強敵ではあると思うけど。でも仮にレベルが1000でも、倒せない相手じゃないでしょ。レベルがあるってことは結局、僕たちと地続きの存在なんだから。本当に倒せないのはレベルがない……たとえば、そこの石ころみたいなやつだろ」
スライ・スライが僕を、まるっきり、雨が降っていても全部避ければ濡れない、って言い張る子どもを見るような目で見ている。
でも。
「いや、これは、そういうことだと思うよ。もし
言おうと思っていた言葉がちょうどつっかえてしまって、手をぐるぐるとさせてしまう。けど、そこで色葉が吹き出し、後を続けた。
「おいしい獲物、逃すわけないもんね……レベル300って、倒したらどれぐらい経験値あるかな?」
それを聞くとリサさんも笑って言った。
「いつまで放っておくのが経験値効率的に最大か、ちょっと検証したいですね」
スライ・スライはそんな僕らを数秒の間、不思議そうに見ていた。
けど、徐々に、いつもの嗤いがそこに戻ってきた。
他人なんて知ったこっちゃない。
世界がどうなろうと関係ない。
自分の将来だってどうでもいい。
今楽しいのがすべて、っていう嗤い。
これから数百、数千時間を費やせるゲームを見つけた、僕みたいな。
あと数時間で世界最強プロチームとの連戦だって時の、色葉みたいな。
更地にしていない場所をひょっこり見つけた、リサさんみたいな。
ゲーマーの、狂った嗤い。
「ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
地球の裏まで届くんじゃないかってほど嗤って、スライ・スライは言った。
「おまえら、イカれてるな!」
「ふん、僕らはゲーマーさ。イカれてるに決まってるだろ」
「世の中にクッキーを焼くより重要なことなんてない(用語解説※1)とか言ってる竜胆と一緒にしないでもらえる? 私はちゃんと社交的なので」
「屈伸煽りは社交って言わないんだぜ、一般的にはね」
「あはは、どっちもどっちじゃないですか」
「リサこそあんたね、今まで整地したのが地図25枚分って、私が親ならちょっとカウンセラーに相談するからね、全部手掘りでしょ?」
「な、なんですか、いいじゃないですか、精神修養ですよ」
「ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
そうして僕たちは、王を倒すための一歩を踏み出した。
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※用語解説
※1 世の中にクッキーを焼くより重要なことなんてない
狂ったゲーマーの狂った言葉。あるいは真理。類語として
・MODを入れて起動確認は1つのゲームなので、お得(竜胆)
・世界で唯一ノーベル平和賞に値するのはMick Gordon(色葉)
・手掘りによる温かみのある更地 (リサ)
などがある。読者のみなさんもこういった言葉を聞いた経験があれば是非、感想欄に投稿をいただきたい。
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