04 「そいじゃ、死ぬにせよ、生きるにせよ、楽しくな!」

 壱番街の外れ、弐番街入り口に立っていた悪鬼門番ゴブリン・ゲートキーパーは、なにやらスキルを使ったのか、僕たちの称札タグを指でなぞるとにこりと笑った。そうしてから意味深な嗤いを浮かべ、おそらく、ここを通る冒険者プレイヤーたち全員に言っているであろう言葉を言うと扉を開け、僕たちを建物の中に招いた。


 石造りの殺風景な狭い部屋には、床一面、大きな魔方陣があるっきり。


 悪鬼ゴブリンが作り上げたダンジョンは、位置的に言うと、この壱番街の上に広がっている。わずか5階建てだけど、その代わり横に広いタイプのダンジョン。第5階層、伍番街のどこかに、九鬼双子塔くきふたごとうへの入り口があって、そこまでを踏破する、って形式のダンジョン。

 当初、ダンジョン内は階段で上り下りしてたらしいけど、それだと2階、弐番街に入ってすぐパーティ同士がかちあってしまい、誰もロクに攻略をすすめられなかったそうだ。なので今はこうして、弐番街のスタートポイントに設定された100カ所のウチ、ランダムな場所に飛ばされる形式になっているという。なお帰りも、100カ所のウチどれかから転移で帰れるようになっている……けど、行き来しやすいポイントは格好の待ち伏せポイントでもあるので、そこら辺は常に気をつけてないとバカを見るって話。


「……それじゃ、最後の確認だ。誰か1人でも傷を負ったら速攻戻る。レベルが1でも上がっても速攻戻る。っていうか1戦したら戻る。それでいいね?」


 僕はみんなを見渡して最終確認。


「はいはーい、ほんとに心配性なんだから、竜胆はー」


 色葉は星空スターリー・スカイコーデにエクスカリバール二刀流。準備運動か、宙に向かって奇妙な軌跡でエクスカリバールを振っている。絶対また技名考えてるなこいつ……。


「ボクたち、まだ回復役ヒーラーがいませんものね……」


 ショップで買った、ジョギング用みたいにスポーティな服装のリサさんは、少し不安そうに。一応手には、こちらもショップで買った、護身用のカーボン・シールド……というとカッコいいけど要するに、機動隊の人が持ってる盾の、小さくて軽いやつ。スキルはないけど、ないよりはマシだろう。どちらも改造して、防御力は高めてある。


「ぐげげげ! なにを言っておる! 自分たちの力はすべて、敵を打ち倒すことに専念させるべきだ! 回復なんぞ臆病者スキルよ! かっこわるー! ぷっぷくぷー!」


 ナイフをくるくるともてあそびながら、スライ・スライ。いつものマフィアスーツに、今日はボルサリーノ帽まで。しゃべらなかったら、って限定つきだけどちょっとカッコいい。


「将来的にはとりたいけど……要求総SPがハンパじゃないからなぁ……当面はポーションでしのぐしかないよ」


 僕は家から着てきてるジャージ。とはいえこれも、改造してあるけど。なお僕は改造モディファイスキルの発動には両手が開いている必要があるので、基本は手ぶらでいく方針。まあ抜け道はあるし、いざとなったら残ってるバッテリー爆弾を投げる必要もあるし。


 回復魔法スキル、ってのもどうやらあるにはあるようだけれど……前提スキルの数が6つ、7つ、で到底まだ手が届かない。魔法じゃない医療系のスキルもあったけど、こっちもこっちで5つか6つ。応急手当ファースト・エイドスキルでさえ、化学ケミストリー生物学バイオロジー解剖学アナトミー人間ヒューマン、3つのスキルを最低練度3にしないと取得もできない。今度からお医者さんはもっと尊敬しよう……。

 とにかく、今は怪我をしないように立ち回っていくしかない。ポーションにしたって今の僕たちの手持ちじゃ、それぞれのサブウェポンをそろえたらもう無一文で、後々追ってきたハーグスさんが届けてくれた3本程度しかないんだから。


「じゃ、いくぞ……みんな」


 全員で魔方陣に乗り、輪になって手を繋ぐ。こうしないと、それぞれ別の場所に飛ばされてしまうらしい。腰にエクスカリバールを収めた色葉に右手を、盾を背中に収めたリサさんに左手を、そして、お正月に親戚の家を訪れ口には出さないものの体全体でとっととお年玉を寄越しやがれって言ってる小学生、みたいな顔になってるスライ・スライを見る。


「…………転移」

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