06 漢字の感じ
「おむ、んむ、うむ、八神はなかなか料理がうまいな」
「……それはただの缶詰だよ、僕は作ってない」
「そうなのか? なんだ、褒めて損したー。缶詰うまいうまい」
「……君は、どこでどうやってどういう日本語を習ったんだよ……」
「スキルだ、八神。しかしながら練度1だ。まあ許せよ、な?」
「……はあぁぁ……」
車の後部座席でむしゃむしゃ、シーチキンの缶詰を頬張るスライ・スライ。なんでこいつこんな上手に箸が使えるんだ……?
「私たちがやっといてなんだけど……なんかその、ゴブリン的にこういうの、だめなんじゃないの? 裏切り的な……」
旅用コーデに普通に着替えた色葉が、呆れた顔で彼を見ながら言う。
旅用コーデ……といってもセーラーワンピースに、ジャケットとコートで……いつもの感じ。いつもの感じというのは……いつもの感じだ。ワンピースの背中にレースアップがついてて、コルセット的に腰を締め付けている。そのせいで、ただでさえ豊かな胸が額縁に入れられているかのように強調されている。胸元のボウタイがくてっ、と、その膨らみに乗っているから、さらに。自分の体が好き、という彼女は、学校と寝間着以外はいつでもこんなテイストの格好だ。色々言いたいことはあるけれど、言うとぶっ飛ばされるので、言えるのは、まあ彼女らしいな、ってぐらい。
そんな彼女と、オシャレなスーツのゴブリンが並んで、しかもゴブリンはむしゃむしゃ、器用に箸を使ってシーチキンの缶詰をむさぼり食べていると、非現実感がものすごい。
「ゴブリンに裏切りは存在しない。オレたちの主はオレたちだけだからな。シャシャシャシャ! カぁッコイー!」
「で、でも……その……
ちなみに
決闘を終えた僕らはスライ・スライを仲間、パーティに入れることにした。
日本語が通じるならモンスターのことは、モンスターに聞くのが一番だ。彼もなんだか、妙についてきたそうにしてたし……これから先、生き残っている人間を信用するぐらいなら、モンスターの方がマシかもしれない、って気持ちもある。
スライ・スライはパーティに入らないかって提案を聞くとげらげら嗤い、ナイフを僕に差し出し言った。
「致し方なし、決闘の掟に従って……このオレサマがお前ら弱っちい人間を守ってやろう! よろしくね!」
……いやほんと、こいつ頭の中どうなってんだ? 彼が裏切ったと思われないように、一応、僕の家にミニコアは設置してきたけれど……大丈夫なんだろうか。まあ彼自身のユニークスキルがらみの契約だし、寝首はかかれないだろう。それになんというか……彼には……裏切りとかそういう複雑なことは……でき……るのかそもそも……? ……いやそんなやつパーティに加えて大丈夫……? まあでも、フルパーティになることはここから先を攻略していく前提条件みたいなものになるだろうし、気にしないようにしよう。
「そこなのだな、人間よ」
「そ、そこ?」
「
「おいおい、君らこっちに来てまだ1日も経ってないんだろ? なんでそんなすぐ政治的な問題が出てくるんだ」
「ふふふ、我らの領域、
「い、1年!? それは、いくらなんでも……!」
「ぐひひひひ、それだけ中と外の時間差が激しいと、1度外に出ると追放のようなものになってしまうがな。しかも我らの寿命はこちらの時間でも、短ければ1週間。そもそも我らゴブリンは、貴様らの数千倍の密度で時を過ごしておるわけだ」
「うそ! じゃ、スライ来週には死んじゃうの!?」
「スライ・スライだ! 次そう呼んだらムシするからな!」
「あ、ご、ごめん、でも、その……」
「短ければ、だ。長ければ万年生きる」
「はぁ? なにそれ? どうやって決まるの?」
「我々ゴブリンにはこういう言い回しがある。寿命は誰にもわからない……と」
いいことを言っている風で、よくよく考えると当たり前の文章では……? と思う言葉に僕らが戸惑っていると、ぶふーっ、とスライ・スライは吹きだした。
「ウシャシャシャシャ! 明日死ぬと思って1000年を生き明後日に死んだけどなんだかんだ生き返る、それが
「あーもー、君の言葉の翻訳マシンが欲しいよ……」
常に嗤っている彼だけど、ウケを狙っている、って感じが全然しなかったのが奇妙だった。他人よりも、自分が嗤うために生きている、他は知ったこっちゃない、そんな感じだ。寿命にしたって本当のところはどうなのか、聞いたら答えてくれるだろうけど、それが本当、事実なのか、というと……?
「寿命はさておいて、
慎重に裏道をたどりながら、僕は言った。
今向かっている場所に、どんなヤツがいるのか。
問題はそれなんだ。
「
スライ・スライは珍しく、苦々しい顔で重苦しく言った。
「なにか……問題が?」
「
大きくため息をついて苦い顔……を、しながら、シーチキンの缶詰に残った油とかけらを直接ぺろぺろ舐める。
僕は彼の言葉を待ったけれど、いつまでたってもぺろぺろ、缶詰に残った油と切れ端を舐めている。
「…………問題って?」
「ん、待って」
ぺろぺろぺろ……ずーっ! ぺろ……ぺろぺろっ!
まるきり、ご飯だからゲームはセーブしてやめなさい、と言われた子どもみたいな口調。ああそうか、母はこんな気持ちだったのか、これはたしかにムカつくな……と妙な感じがする。
「……それ、舌切」るよ、と言おうとしたところでスライ・スライが「いてっ」と言って顔をしかめ、僕は吹きだしてしまった。
スライ・スライを仲間に加え、すぐに僕らが聞いたことは1つ。
君らはどこから来た?
ややこしい彼の話を要約すると……
……異世界から、となる。
まあ、そうなるよな、って感じだ。
レベルとスキルと剣と魔法のお馴染み異世界で、最悪の種族として恐れられていたゴブリンたち(スライ・スライ談)。そんなゴブリンたちが住処としていた穴に、ある日、人間にしか見えない男があらわれた。
〈Lv.00 転生者
それまで転生者などという職業は、誰一人として聞いたこともない。だが九ヶ島は不思議なユニークスキルを使うと、ゴブリンたちと同じ姿になり、ゴブリンたちに馴染み、周囲の信頼を勝ち取っていった。彼は巧みにゴブリンを強化し、教導し、数十の
そして、自らを王とし、異世界に攻め入ろうと提案する。
彼が言うには、自分がこの世界にやって来たのはそのためだとか。地球、と呼ばれる世界に、数百の異世界が攻め入り、勝った異世界が地球の支配権を得る。そういう契約を、自分を転生させた相手と結んだのだと。九ヶ島、改めゴブリン・キングは、ゴブリンが主人となる世界を地球で実現してやる、と、すべてのゴブリンに約束した。
そうして、彼は新宿にやって来た。
10万のゴブリン軍を率いて。
と、ここら辺はまだ家にいるとき聞いていた部分だ。ここら辺りで僕らは、新宿に向けて移動することを決めた。
たとえて言うなら、今はサーバーオープン初日。
ランキング入りなんて興味はないけど(色葉はあるけど)、知らないパーティがボスに挑戦しているのを部屋の外で待つようなかったるいことは、あまりしたくない。だから大通りを避け、裏道を通りつつ、
そういうわけで、ワンボックスカーに3人と1匹……面倒くさいから人で数えよう、4人で、乗って移動中。
「……でも、いい話に聞こえたけどな。実際
地球を、それぞれ別々の異世界から召喚した軍勢による
頭の中にいわゆる “女神様” “大精霊様” 的な連中が浮かんだけど……まあ、気にするのはやめよう。わかりようがないし、あまり関わり合いになりたくはない。人の命を弄ぶ傲慢な神々を倒す! みたいなルートは……その……ノット・フォー・ミー(用語解説※2)というか……。
僕はそのまま話を続けた。
「新宿の中、都庁から1キロ圏内で、もう生きている人間は誰もいなくて、モンスターしか歩いてないって話だよ、ネットの情報だけど。王を侵略戦争の司令官って考えたら、1日で敵の首都を占領して自軍を展開なんて、超有能なんじゃないか?」
「大問題だ。そんな有能な
「…………たしかに、って言っても怒らない?」
「シャシャシャシャ!」
道すがら聞いたところによると。
そもそもゴブリンには、王という制度がない。
というか、制度、という概念自体が、ない。
ついでに言うと概念、という言葉もない。
言葉、という言葉はゴブリン語にはあるけれど、それは、排泄物を投げること、喧嘩をしようと誘うこと、ウチに来て弟を食べないか、という意味にもなるらしい。なんなんだこいつら?
スライ・スライは100年に1度の天才なので(本人談)、ゴブリンの常識にはないものを理解はできるけど、本来ゴブリンというのは、制度、概念、ほとんどの時には言葉、そういったモノが
面白かったらやるし、面白くなかったらやらない。
ただそれだけで動くのが、
もっともゴブリンにとって「面白い」というのは、礼拝中の教会に火をつけたり、赤ん坊をボールに球技をしたり、王家の秘宝をお尻の穴に詰めて一発芸をしたり、手足が千切れても頭だけで戦ったりすることだから、邪悪そのものと考えられていたそうだけど……まあ、あれだ、多様性だ、裏庭にいたら戦争しかないけど。
そんなわけで地球侵攻にもかなり反対意見があったらしいけど、転生者、王となった九ヶ島は、元の世界にいたときから、いわゆる “改革” を推し進め、その支持を受けて押し切ってしまった。しかし、地球に来てから彼がゴブリンに新たな名前をつけたことで、不満は爆発した。
「名前って……ゴブリンはゴブリンじゃないの?」
「あー、リンド、ばっかでー、わかんないのー?」
「……竜胆。次リンドって呼んだら無視する」
「一丸、話が違うぞ! リンドと呼ばれると喜ぶんじゃなかったのかこいつ!」
色葉は、ぷーくすくす、という擬音の使用例そのもの、みたいな感じで笑っている。この野郎、ハンドルネームにしてたのは小学校、それも低学年までだぞ。ちくしょう、あのコメント欄への書き込みをこいつに見られたのは、人生で一番の間違いだった。
……ともかく。
「まあいいから、なんで? 今も君はゴブリンだろ? 違うの?」
「当たり前の話だが、ゴブリン語に漢字はない」
……え。
そっちもちゃんとやる感じなの……?
ちょっとだるくない……?
と自動的に思ってしまったけど、あるものはある(この場合、ないものはない)んだからしょうがない。ちゃんと話を聞こう。
今、スライ・スライの頭の上には〈Lv.12
ところが元の世界でゴブリンに、漢字があてられたことはない。
というか、彼がいた世界には漢字のような表意文字(用語解説※3)はなく、ステータスの表記は大陸の共通語、聖なるシンボルである三角と四角と矢印を組み合わせる、42文字の表音文字ですべてをあらわしていた。
しかし九ヶ島は地球に来ると、ゴブリン種族全体に効果のあるユニークスキルと、転生時に契約したという相手からもらったコアの力を借りると、ゴブリンに、悪鬼、という漢字をあてた。10万のゴブリンたちは晴れて、ゴブリンではなく、
「それで、オレたちは悪じゃねえ! って良いもののゴブリンが離反したのか」
「あほー、良いもののゴブリンなんて、いないよー。ゴブリンはゴブリンだ。王に対抗できるユニークスキルの持ち主が運良く1匹いてな、そいつが、全部ぶっ壊せー、って、新宿の中の、なんか地下に行った」
「……あ、そいつがつけた名前が、愚かに嗤う鬼か! 君のユニークスキルの!」
僕はスライ・スライのユニークスキル、ゴブリン・ファイト・クラブの漢字を思い出す。愚嗤鬼花道喧嘩道。大昔の暴走族かよ、って思ったヤツ。
「うむ。スキルシステムは真、謎よな。向こうではただ、ゴブリン・コマンド、ゴブリン・ファイティングだったものが、こちらに来て名付けを経ると、見事に変わってしまった。当初はオレも、王に、心からというものではないが賛成していた。面白そうだったからな。が……ユニークの漢字がああなったのは、心根では地下の連中に惹かれているからだろう。まったく、面倒でかなわんよ」
悪鬼と、愚嗤鬼。
どちらがゴブリンっぽいかと考えると……。
…………いやゴブリンはゴブリンでよくないすか?
って気がしたけど、黙っておく。
「地下の連中って…………あ、そうか。つまり今新宿は……」
悪鬼と愚嗤鬼が相争う、魔界になっている。
想像すると、少し震えた。
「都庁にいるのが
面白くて仕方がない、みたいな感じで言う色葉。たぶん、彼女の頭の中は今、新しいFPSのゲームモードを試す時と、おんなじ感じの働き方をしてるだろう。
「
「って、なんであんたは生きてられるわけ?」
「それが名前の力、ユニークの力だ」
節くれ立った緑色の指で、自分のウィンドウを指さすスライ・スライ。
「ユニークであれば、名前があれば、生きていく世界を自分で選べる。
「……よくわかんないけど」
「ま、オレはスゲーから外でも平気! で、そんなオレのスゲースキルがあれば、名前のない下っ端どもでも外で生きてられるってことかなー」
「…………ユニーク、名前のあるゴブリンって、今何人いるんだ? こっちの世界でも新しく生まれることはあるの?」
ゲームバランスが気になって、僕は口をはさんでしまう。
「通常なら、我々は1年もあればその数を10倍に増やせる。多産でな。資源が足りずに死んだとて、それもゴブリンの道。我らは欲望に身を任せるだけよ。だがユニークは常に、1万人に1人と決まっておる……だがこれは以前の世界での話。ミニコアからはおそらく……違う」
「まさか、無限に湧いて出てくる?」
「王はそう言っていたが……さて、どうだろうな。なにかしら、王の力に依るところがあるのかもしれない。最も違うのが……ミニコアからは、ゴブリンらしからぬゴブリンが出てくる。この世界のものと入り交じった、新たなゴブリンが」
僕はヤクザやチンピラみたいな格好だったゴブリンたちを思い出す。っていうか、今でもスライ・スライはそんな格好をしてるけど。
「そして……その中でまた1万のゴブリンが生まれれば当然、名前を持つ者も生まれてきたとしても、おかしくはないだろう」
どういう理屈で当然なんだろう、とは思うけど、こういうルール、お約束に突っ込むのはあんまり好みじゃないので、僕はただ考える。ルールがあるならそれに突っ込むよりも、
「ふむ……大本のコアの方からは、こっちに来てからユニークは生まれないの?」
「そのようだ。理屈はわからんが、王はそう言っていた」
「となると結構、いいバランス、か……?」
頭の中で整理してみる。
異世界モンスター地球侵略ゲームの大目的。
それは地球を
まずコアが地球のどこかに置かれ、そこがその世界のモンスターの本拠地となる。ここに異世界からやって来た軍団と共に、総大将が配置され、地球征服を目指す。そのためにミニコアを各地に設置していく。
ミニコアはユニークモンスターの率いる部隊でなければ扱えないが、ゲーム開始当初、それは1万匹に1匹の割合。
ゲーム後半になればミニコアから生まれたユニークモンスターが、さらにミニコアを設置して拡げるだろうから2次関数的な速度で拡張してくだろうけど、ゲーム序盤、今みたいなときはじりじりとした速度でしか拡げられない。
プレイヤーはこのユニークモンスターの数と質を考えながら戦略を練りいかに効率的に、あるいは趣味的に……って考えたところで、今は別にゲームのレビューを書いてるんじゃない、って気付いて思考を打ち切った。ゲームと現実の区別がつかない最近の子ども、なんて、カビのはえすぎた老害ワードを笑えなくなってしまう。
「
「あるにはあるが……あいつら頭悪すぎ。マジなに言ってるかわかんね」
「君が言うわけ!?」
「……! 傷ついた! 今のはオレは傷ついたぞリンド!」
「…………! だからって人を傷つけるのかスライ!」
「あー! そっちが一回多いからそっちがわーるいー! 謝罪ー!」
「いーから! で、地下の連中、呼び名はない感じなの?」
色葉が言うとスライ・スライは軽く息をつき、シーチキンをもう1缶開ける。
彼が口を開こうとしたところで、リサさんの声が遮った。
「竜胆さん」
そのただ事ならない口調は、いったん名前のことは忘れてしまうほど。僕らの視線が、助手席の彼女に集中する。
「……はい?」
「SP、まだ振ってないですよね」
「…………振ったほうがいい感じ?」
答えず、リサさんは窓から顔を突き出す。なにも聞こえないけれど……。
「うそ」
絶望が、声に
「リサさん?」
「……うそ、うそ、うそ……」
「ちょ、危ないって」
窓から身を乗り出し、ただでさえ狭い塀に頭がぶつかりそうになってしまっている。僕たちがいるのは裏道、車が1台、通れるか通れないかぎりぎりの場所で、周囲には古いアパート。なんの変哲もない住宅街……。
「こ、このまま、バ、バック、できません……?」
きっ。
思わずブレーキを踏んでしまう。
周囲には、なにも……あるようには、見えない。
「ど、どうして……?」
声が恐怖にかすれている。僕は改めて前方に目をこらす。けど、やはり、裏道の住宅街以外、なにも変わったものは見えない。大通りまで出れば、遠くの方に、魔王城と現代的なビルを混ぜた外見になってる新宿が見えるけど……ここからはそれも見えない。
「あ、あれ、あの、アパート」
リサさんがかたかた震えながら指さすのは、かなり古めのアパート。一応コンクリートの壁だけど、あちこちひび割れている。
……そういえば、彼女は
「中に、モンスター? ……待ち伏せ?」
「む? そのような気配はせぬが……?」
「スライ・スライ、君、同族の気配とか読めるのか……!」
「半分は外れるけどねー!」
「もー、そういうのいいから! リサ、
色葉が尋ねても、彼女は首をぶるぶると振るだけ。
森の中で、血を流してる熊に会ったらこんな顔と態度になるかな、って感じ。
「どういうこと?」
色葉はいぶかしそうな顔
「あれ、あれ、あれが……」
リサさんの声が引きつっている。
悪い予感がして僕は、ギアをバックに。
けど、前方から目をそらさないように。
「あれが……あれがゴブリンなんです……っっ!!!!」
と、彼女が叫んだ瞬間
ずしん。
アパートに足が生えた。
ずしん。
アパートに手が生えた。
ずしぃぃぃぃぃぃぃぃん。
立ち上がり、こちらに向かって1歩、巨大な歩を進めた3階建てのアパート。
サンライズ・レジデンス、という小さな看板の上、ウィンドウが表示された。
頭上数十メートルにあるはずのそれは、僕たちに見やすいようにか、わざわざ下向けに表示されている。
〈Lv.157
「
妙に間延びした声が、まるで雷鳴みたいな大きさで轟いた。
「
体、建物の中央には、真っ黒い球。
僕は全速力で車をバックさせた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※時間が豊富に使える人のための用語解説
※1
ストラテジー・ゲームのサブ・ジャンルの一つ。
eXplore→探検
eXpand→拡張
eXploit→開発
eXterminate→殲滅
この4つの性質を兼ね備えたゲームを指す。文明を発展させ惑星全土を支配する、といったものが多い。元々は、XXXという単語が北米文化圏においてポルノを指す用語でありそれをもじったジョークだったが、その言葉を使ったゲーム紹介が普及したことにより、人口に膾炙した。大手ゲームプラットフォームでもジャンル分けの言葉として使われている。
※2 ノット・フォー・ミー
not for me。直訳すると「私向けではありません」。好みではない作品を貶さず、コミュニティに波風を立てず、しかし自分は好きではない、と主張するために生み出され、日本語にも伝播し、ネット上で使われるようになった言葉。
※3 表意文字
意味を形に置き換え表現した文字の集まり。必ずしも言語の発音をあらわさない。数学記号や、日本語の書記に用いられる漢字などが当てはまる。対義語として、1つの文字が音素、音節をあらわす表音文字。こちらはハングルやアルファベットなどが当てはまる。
※4
ゲーム攻略の文脈においてハックと言うと、バグや基盤への直接アクセスなどをフル活用し最短時間最高効率でクリアする、という意味になる場合もあるが、ここでは竜胆は、ガチでやる、程度の意味で使っている。
※※※※※※※※衒学おじさんクソ長コラム hackとhacker※※※※※※※※※
hackerは元々、コンピューターの扱いに長じた人、というだけで、コンピューターの犯罪者、という意味合いはなかった、とは、衒学おじさん界隈では頻出の語源うんちくだ。しかしこれらの言説は主に1980、90年代ハッカー側からの説明が元である。真摯な衒学的にhackerという単語を考察していくのなら、このような説明もあるが真相は不明である、とすべきだろう。
hackという動詞について確かなことは12~13世紀頃から、
(斧などで乱暴に、乱雑に)たたき切る、ぶった切る(って、細かくする)
の意で使われている、という点だ。転じて(森林などを)切り払って進む、等の意味として、言葉が拡張されていく。その他、同音異義語と思わしきものがいくつか見受けられるが、ここでは考慮に加えない。
推測になるが、いつしかここに(手段は乱暴だが、勢いよく片付ける)→(うまくやる)というニュアンスが発生したのではないだろうか?
だからこそhackが近現代パーソナルコンピュータ黎明期にたどり着くと、コンピューターの中身を開け(ソフト、ハード、両面において。黎明期、それらは現代ほどはっきりとした区別がつけられるものではなかった)、自分好みに改造する、という動作にhackが当てられ、そんな動作を好む人々がhackerと呼ばれるようになっていった……。
この筋書きは一見まっとうに思える。
ここに犯罪のニュアンスは、たしかに存在しない。
しかし、少し立ち止まって考えてみて欲しい。
彼らはhackerだから、当然hackした。
うまく、やったのだ。
パーソナルコンピューター黎明期においてはしばしば、法律なるもの、とりわけ知的財産権は存在しなかった。
海賊版業者ROM工場の扉を法務部が蹴り破る際、パーソナルではないコンピューター大企業に若者がOSを売りつける際などにはたしかに存在した。
しかし別の若者が研究室で見たOSをパクって自分たちのクールなコンピューターに搭載する際には存在しなかった。後にさらに別の若者がこの若者のOSをパクる際にも存在しなかった。このような若者達はわんさかいて、若者でなくなると出世伝を出す。そんな出世伝を数冊読めば絶対に一つか二つは真偽はさておき「頭の固い老害が間抜けに使っているダサいコンピューターをハックしてクールなオレサマの都合の良いようにしてやったぜhehehe(ハッカー笑い)」という話がある。
そんな調子だから一般ユーザーの間にも知的財産権は存在していなかった。
数万円、数十万円する、厳重にコピー対策が施されたソフトウェア(現代風に言えばアプリ)を、パソコンに詳しい先輩から聞いたやり方で違法コピーする際には、完璧に存在していなかった。まったくおかしなことだが当時、ソフトウェアの9割以上は小売店の店頭で売っていた。インターネットは影もなく、認証という言葉はISOにしかついていなかった。気の狂った時代であった。ゼロ年代初頭までこのような混沌は、秋葉原で死んだ目をしながらビラを配る人員のバックヤードなどに引き継がれていた。彼等はやがてネット上に放逐されしばらくは生き延びたらしいが、現代での行方は杳としてしれない。億単位の賠償金をコツコツと支払うため、地下労働に従事しているのかもしれない。
当時、社会にはまだデジタルという概念を受けいれる準備が整っていなかった。特に人類初の、劣化とは無縁に無限複製可能、デジタル・ソフトウェアについては、どう扱えばいいのか見当もつかなかった。現代でもまだ、あまりよくわかっていないのでは、というフシはあちこちに見受けられる。
なにはともあれ、実に混沌とした時代だった。
おおらか、と書けばとてもおおらかだし、未成熟と書けば、ただの未成熟の時代。
「うまくやる」には「法を出し抜く」というニュアンスを含む場合がある。
現代の例で考えてみよう。
(なおこれは作例であり、事実ではないことに注意してほしい)
①あるスマートフォンのOSを改造し、ハードウェアに2つ3つの配線を加え、電池寿命を2倍以上に伸ばした青年がいた。青年はこの改造方法をネットに公開し、幅広い賞賛を得た。
この青年がこんなことをしたのは、青年が改造したスマートフォンの会社には、意図的に電池寿命を短くし、買い換え費用、修理費用をユーザーに支払わせ儲けている、という噂がまことしやかに囁かれていたからだ。これに対抗するのは青年にとって当たり前のことだった。
テクノロジーを悪用するヤツは悪なのだ。テクノロジーは万人に開放されなければならないのだ。青年は高らかに宣言するだろう。
オレはこのスマホを「ハック」したぜhehehe(ハッカー笑い)。
②気をよくした青年は、今度は課金用カードの仕組みに目をつけ、それをハックしようと試みた。なぜなら課金は人々をリボ払いの奈落に突き落とす悪しき文明であり、青年の愛するテクノロジーがそんな悪の文明に付き合わされていることは、まったくもって我慢がならなかったからだ。立ち向かうのは当然のことだ。さて、まずはネット通販サイトの5000円プリペイドカードを4000円程度で手に入れられる言語の怪しげな通販サイトから……。
黎明期においてハッカーたちがやっていたのはつまるところ、こういったことである。もちろん②の様なケースに至る場合はほとんどなかったが(コンピューターを使ってお金を儲ける手段が、そもそもとても少なかった)、現代に生きる人々なら①の段階で、この青年が後々泥沼の訴訟地獄にたたき込まれれ、個人で払えるわけがない額の賠償金を負わされることは、予見できるだろう。
ただし。
この青年が犯罪者に該当するか否かは、判決がない限り、決めてはならない。それが法治国家だ。人を裁くのは人ではなく法である。それは近代社会の最も根本的なルールだ。違法、合法は本来、恣意的な解釈など決して許されてはいけない。故に、hackは犯罪か、ということもまた、我々が気軽に決められるモノではない。
とはいえ。
人々がなにを違法と
hackerという言葉はそんな我々の認識と、現実に追いつこうともがく法の歴史が詰められた、デジタル時代の木鐸とも言える言葉なのではないだろうか。
※※※※※※衒学おじさんクソ長コラム hackとhacker おわり※※※※※※※
※5
不動産の世界においては、物件の不備やその他欠点のこと。
物理的な瑕疵:建物が傾いている シロアリがいる
権利的な瑕疵:又貸しの又貸しぐらいの契約である
環境的な瑕疵:隣に暴力団事務所がある
心理的な瑕疵:部屋で殺人事件があった ゴブリンでできている
※6 告知
上記のような瑕疵が不動産物件にあった場合、貸主・売主はそれを告知する法的な義務をおっている。ただし心理的な瑕疵に関しては、自然死、事故死、事件死、特殊清掃が必要だったか否か、報道されているか否か、それは瑕疵とするべきなのか、するとしたらいつまでなのか、一概には判断できない。
人が死んだ部屋に住みたくないという感情は現代日本において、さほど特異なものではないだろう。だがその感情が何らかの法によって正当化されるなら、高齢単身者が新たに部屋を賃借することはほぼ不可能になってしまう。あるいは既に居住している高齢単身者に、心理的瑕疵となる可能性があるため退去を迫る事案が発生しないとも言えない。とはいえ貸主・売主の資産である不動産は、法の下、国によって保護されなければならない。
国土交通省では以上の事情を鑑み、識者による検討会やパブリックコメントを経て、ガイドラインを策定している。詳しくは「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取り扱いについて」を参照のこと。
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