03 Baby,It is a star,Soooo shiny and bright!

※※※※※※〈一丸色葉のクローゼット〉※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 《コーデ02 武装コマンドロリィタ 流法モード 星空スターリー・スカイ 》


 ・ヘッドドレス 月光と北極星(ネイビー)

 ・月光淑女 姫袖ブラウス(オフ)

 ・星空MerryGoRoundコルセットJSK(ネイビー)

  ・(フレーバー)星空MerryGoRoundニーソックス(ネイビー)

  ・(フレーバー)スカラップリボンシューズ(モカ)


 ☆筋力強化STRフォーカス体力強化STMフォーカス敏捷力強化AGIフォーカスにプラス練度レベル

 ☆任意の戦闘系スキルにプラス練度レベル→棒戦闘スティック・ファイティング

 ☆全ダメージをコーデが肩代わり

 ★服装破損率10%で修復まで行動不能

 ★服装破損率20%で不可逆的に全能力値1低下

 ★服装破損率30%で死亡


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エクスカリバール!!」






 鋭い叫びと共に姫袖が舞い、色葉の手の中にあらわれたバール。


 いや……ただのバールだ。ウチの納戸に転がってた、1メートル弱でL型の。古いヤツだからかなり重いけど。ボックスのアイテムを呼び出すときは、結構融通が利くらしい。ネーミングセンスはさておき(用語解説※1)、自分でそれと思っていることが重要なようだ。

 ユニークスキル、コーデの効果でとんでもないレベルになっている、今の色葉の筋力で振るわれるバールは、名前はどうあれ、すさまじかった。




 軌跡がほとんど、見えない。




 玄関をこじあけようとしてたゴブリンたちと、それを指揮するために少し下がって門のところにいた、指揮官らしい若頭ゴブリンの間に着地した色葉は、爆発音がするんじゃないかって勢いで駆け出し、若頭の頭にバールを振り下ろす。


 だが、くかかっ、みたいな声をあげた若頭は意外な機敏さを見せて後ろに跳ぶと、軽トラの荷台に着地。




「#$%&#!!」

「「「「#$%#カシラ&%$#!!」」」」




 号令で一気に、玄関のゴブリンたちが振り向き、色葉に武器を向けつつ距離を詰め、彼女を取り囲むように広がっていく。拳銃を持った3体は完成しつつある輪の後ろから、色葉を狙う。


 ……こいつら、ザコじゃない。


 ゴブリンたちのレベルは6から12。プレイヤー、僕たちと同じシステムで動いていると仮定するなら、25から55のSPが、スキルに注ぎ込まれているはず。言語で会話、指示を受けているところからしてかなりの知性があるし、色葉の無双タイムだと油断はできない。


 でも。


 色葉はにやにや笑いながら肩にバールをかつぎ、ふふん、と鼻で笑った。




「命がけのカワイイだ……」




 開いた左手で、くいくい、と挑発までしてみせる。




「……死にたいヤツからかかってきな!」




 ……ぉんっっ!!




 目に見えない速度で上段に構えられたバール。

 姫袖が遅れて、ふぁさ……と可憐な音を立てる。

 言葉の意味は僕もよくわからなかったので伝わっていないだろうけど、そこに込められた感情だけは伝わったんだろう。ゴブリンたちの、緑鬼みたいな顔にあからさまな困惑が走る。


 2階から見下ろしている僕は少し、彼女の役者っぷりに息を飲んだ。


 まるきり、かわいい格好をしたかわいい女の子が殺傷力の高いいかめしい武器を持って戦う作品(用語解説※2)の登場人物だ。それっぽいのばっかり読んできた彼女にとっては、朝飯前なんだろう。僕がよく読んでるなろうの、昼行灯系主人公をマネしてもイキりオタクVer.2.21.09みたいな感じにしかならないっていうのに……。


「……拳銃持ちのスキルに、能力値強化系はありません。身体構造も人間と似通ってます……いける、と思います」


 リサさんも横から、ちょこん、と顔だけ覗かせて呟く。彼女は管理視点サイトを使ってゴブリンたちのステータスを読み解き、サポートに徹している。

 僕は頷き、せっかく色葉が逸らしてくれた注意をこちらに引きつけないよう、慎重に立ち上がり、ボックスから出したものを、そっと、そーっと握った。




 使い古しのリチウムイオンバッテリー。

 膨れ上がって、お餅みたいになってるやつ。




 ノートパソコンやDVカメラなどを、ものによっては5時間近く作動させられるだけの力(色葉みたいにルビを振るならここは、エナジー、とするべきか)。




 爆発すればそれが、一瞬で解放される。




 家庭の事情・・・・・で僕の家には、長時間の使用に耐えられなくなってしまったバッテリーがたくさんある。マジで、腐るほどある。捨てる手順が複雑なゴミは、困るまで放っておく、というあいつらの悪癖に、今は感謝すべきか?


 もちろんこういうバッテリーは、メーカーの方々が日夜、安全で長持ちする商品を作るため様々な努力を重ねているだろう。現代生活はかなりの部分、このバッテリーに寄りかかっているし、とんでもない額のお金が研究に使われているはずだ。100万個に1個の不良品をつかんでしまったか、正規品をコピーしたパチモノを素人が再現しようとした粗悪品の未完成品でもない限り、ふざけて遊んでいた程度じゃ爆発しないようになってるんだろうけど……。




「……ふっ……」




 僕は軽く息を吐きながら、狙いを定めて銃を構えるゴブリンの頭に投擲スローイング:03。




 回転がかかって少し狙いがそれて、胸辺りにぶつかる。




「”#$%&’()~(’&%#!!!!!!」




 絶叫。




 時速100キロ超のスピードの物理的なエネルギー、その衝撃を一身に受けたバッテリーは、中に火薬が詰められているみたいに、飛んでいる最中から猛烈な火花を噴出していたかと思うと……


 爆発。




「%$$%%$?!?!」




 ゴブリンたちが一斉に色めき立つ。浮き足立つ、なんて言葉の意味が少しわかったほど。実際、飛び上がって驚いてるやつもいた。大昔、戦争での鉄砲の役目は威力と同じぐらい音が大切で、轟音で戦線に混乱を招くのが効果的だった、なんて豆知識を思い出す。さらに昔は弾丸が出ないてつはう・・・・(用語解説※2)っていう音だけのやつが使われていた、なんて日本史授業知識も。


 業務用DVカメラのバッテリーとはいえ、ハリウッド手榴弾みたいな爆発が起こるわけじゃない。体に触れるぐらいの至近距離で爆発してようやく、肉がえぐれて骨に異常が出て内臓にも損傷があるだろう、ってぐらい。でも、身長1メートル程度のゴブリンにはそれで致命傷になるみたいだ。胸の真ん中をえぐられた上、内部の化学物質をまるごと受け止めることになり、すごいことになっている。化学熱傷ってやつだろう。リサさんが思わず喉で、ひゅっ、と息を飲んでいる。


 ……自分で開発しといてアレだけど、ちょっと引くぐらい非人道兵器になっちゃったな……人間相手に使うことがないよう、強く祈りたい。




「やった、うまくいった!」




 僕が小声で叫ぶと、リサさんは少し怯えた顔をしながらも頷いた。

 バッテリー爆弾は彼女との共作だ。管理視点サイトボックスのアイテムに使うと、その内部構造を見ることもできたのだ。なろう基準で考えるとこのスキル、いわゆる鑑定に近いものがあるのかもしれない。昨日の夜、色葉をサポートすべく遠距離スキルに磨きをかけなきゃ、と思っていたところそれを発見し、製作に至る。


 リチウムイオンバッテリーの中で、爆発を妨げる役割もあるセパレーターと呼ばれる部品を見つけ、そこに改造モディファイ。水エレメント、変化の力を付加する。変化の力は管理視点サイトによると、原子構造さえ変化させることもできるらしいけど……今の練度だと部品を変質、劣化させるのが精一杯。


 でも、この場合はそれでよかった。


 セパレーターを、少し力を込めて殴ったら壊れてしまうほどにする。作ってる間にボックスがぶっ飛ぶんじゃないかとひやひやしたけど。で……時速100キロの投擲スローイングで目標にぶつかったバッテリーは、内部に蓄えられた力を一気に解放してしまうこととなり……といった具合。


 この機にたたみかけるべく、僕はなるべく銃を持っているやつを狙いつつ、バッテリー爆弾を連射した。




「せいやっさー!」




 今度は、なるべく人目を引くべく、大声で叫んで銃持ち2匹に向けて2発。叫んだことで力んでしまったのか、隣の日本刀ゴブリンの股間と、ドスゴブリンのお腹辺りに当たる。2連続の爆発。




「#$#!!$%&$!!」

「「「……!! ”#$%&!」」」




 だが若頭が叫ぶと、今度はそこまでうろたえなかったようだ。2階の窓に僕を発見して、拳銃が向けられる。






 そこで色葉が跳ぶ。






「はっっっ!」


 パニエで膨らんだスカートをはためかせ、リボンを揺らめかせ、ツインテールを輝かせ、ゴブリンの円陣を華麗に跳び越える。オリンピック選手を軽く超える跳躍力だ。彼女のユニークスキルがSSRだというのは、なるほど、たしかに頷ける。能力値、スキルボーナスがえげつなさ過ぎる。


 そして、コンクリートの壁でも切断・・できるんじゃないかって速度のバール……






 エクスカリバール一閃。






 華麗なクラシカルロリィタ(用語解説※3)スタイルの色葉が、お嬢様のようなスカラップシューズの、たんっ、という小気味よい音を響かせて着地すると同時。




 どうっ、と音を立て、頭のなくなったゴブリンが、地面に倒れた。




「色葉、後ろっ!」




 拳銃持ちのゴブリンはもう1体。今まさに色葉に向けて発砲するところ。僕は慌ててバッテリー爆弾を投げるけど……爆発音より先に、銃声がした。


「あたっ!」




 がきがきがきんっ。

 からん。

 ころころ。




 ……なんの音かというと、土のエレメント、強固を使って改造しまくったロリィタ服の、ジャンパースカートに拳銃の弾がはじかれ、はじかれ……地面に転がった音。どうやらスカートの表面は貫通したけれど、その下に潜み、スカートを膨らませて端から豪奢なレースを覗かせている内部のパニエに阻まれたらしい……いや……テストではたしかに、カッターナイフも効かなかったけど……まじ……?


「……あ~あ」


 色葉は穴の開いてしまったスカートを、白シャツにできたフライドチキンの油染みのように見ている。修復できるんだからいいだろ、ったく。


 拳銃で撃たれてもぴんぴんしてる色葉を見て、うやろ、という顔で口を開け放したゴブリンの、口の中にちょうど、バッテリー爆弾がホールインワン。






 南無。






「#$%#&!!!!!!!」


 絶叫と共に色葉が、くんっ、と沈み込む。まるで体全体が水になったようにかがんで駆け出し、だんっ、と地面を強く蹴って飛び上がる。




 狙いは荷台の若頭。




「#%$&!!!」




 若頭が叫ぶと、配下のゴブリンたちは我に返り、一斉に門に向かう。色葉は慌てず、バール一閃、若頭のナイフを手からたたき落とすと、圧倒的な身体能力、機敏さで背後に回り込み、両手とバールを使って彼の首を抱え込む。




 ゴブリンたちから見れば、若頭を人質にとっているような姿だけれど……




 ……僕と色葉は目を合わせる。

 彼女が頷く。僕も頷く。




「リサさん、耳、塞いでたほうがいいかも……」




 と言うが早いか彼女はかがみ込み、目を閉じ耳を塞ぎ、いつか学校の戦争物映画で見たように、口まで開けている。


 亜空筺ボックスから取り出すのは、バッテリーパックを数十個、数珠つなぎにつなげたやつ。収束手榴弾をモチーフに作ってみた。


 色葉はひらり、しとやかにスカートの裾を翻らせ、若頭を抱えたまま軽トラックの荷台から飛び降りる。これで彼女は、軽トラと若頭、2つの遮蔽物をとれる上に、あの無敵のロリィタ服を着ている。






「FIRE IN THE HOLE!!」

(用語解説※5)






 ……ゴブリンたち、英語スキルもとっておけばよかったのに。


 そんなことを思いつつ叫んで、僕は、収束バッテリーパック爆弾を、門に詰まっているゴブリンたちの中心めがけて思い切り投げた。










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※時間のある人向け用語解説

※1 ネーミングセンスはさておき

聖バールという当て字はさておき、エクスカリバールという呼称自体は、FPS文化圏においてよく見られる呼称。銃での戦闘がメインとなるFPSやTPSにおいて近接武器はゲームシステム上、数発殴れば敵が死ぬ威力であることも多い。このことからバールを讃えるようなミームが発生し、日本語圏ではエクスカリバーと合わせて、エクスカリバールという呼称が生まれた。竜胆はFPSに疎いので以上の流れを知らず、色葉が独自に考え出したものと思っている。


※※この用語解説の没案

聖バールの英語名は CBoHR.(Crow Bar Of Holy Relic)。理論物理学の守護聖人、聖ゴードン・フリーマンさん(Ph.D.St.Mr.Gordon Freeman 1998~?)がその生涯片時も離さなかったという愛用のバールが、2004年、続編を祈るバチカンミサの中、当時の法王ヨハネパウロ2世により公式に聖遺物認定された。



※2 かわいい女の子が殺傷力の高い厳めしい武器を持って戦う作品

思い当たる例は数多くあれど、オタク的な文脈の中でその発祥はどこだろう、いや、ひょっとするとこれはオタク文脈の外、オタク発生以前からある普遍的なモチーフなのかもしれない、と考えていくと無限の迷宮に迷い込んでしまう題材。



※3 てつはう

1274年、文永の役に際して、モンゴル帝国軍が用いたとされる炸裂弾のような兵器。轟音で敵陣に混乱をもたらすためのものとされていたが、2001年、長崎県の鷹島海底から「てつはう」の実物が2つ回収され、鉄錆の痕跡が確認された。このことから内部には火薬だけでなく鉄片もあったとされ、爆発によって鉄片を飛散させる、それなりに殺傷力を持った兵器だったのではないか、と推測される。しかしおよそ4kgという重量を考えると、どんなに力自慢であったとしても20~30m程度を投げるのが精一杯であり、当時の日本軍主力武装であった長弓に比べ軍事的アドバンテージは薄い。投石機のようなものを使って飛ばしたとしても、当時のテクノロジーでは、1.2kgの弾を80m飛ばすのに指揮官を含め41人を必要とし、攻城戦以外ではあまり有効な兵器ではなかっただろう。正確にはどのように使われ、どのような戦果があったのかについては、今後の研究が待たれる。



※4 クラシカルロリィタ

ロリィタファッションのサブジャンルの1つ。ヴィクトリア朝の貴族やその令嬢をモチーフに、一般的なロリィタと比例して、華美すぎない、甘すぎない、落ち着いた雰囲気を持ったロリィタのスタイル。



※5 FIRE IN THE HOLE

爆発するぞ、という、危険を知らせる英語でのかけ声。元々は大砲を発射する際、導火用の穴(HOLE)に火(FIRE)をつけることに由来する、という説もある。

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