08 エスコート・ミッション
「ったく、オレもオレでとんでもねえユニークスキルで、こりゃ無双だぜって思ってたのによ……」
茶色の、ウルフヘアー? とか言うのだろうか、なんだかよくわからないけどおしゃれだとされるであろう髪型の金谷先輩は、渋い顔で言った。身長180はあって、制服を着崩して、手には金属バット。ワル、な感じのイケメン……っていうより昔風に2枚目、って言った方がいいような感じの人。
「先輩、他の人たちは?」
油断なく周囲を見回しながら、1階の踊り場を通り過ぎる僕ら。色葉が先頭に立ち、ちょうど1人分程度の間を開けながら、僕。
「全員1-Cの中だ」
「嘘だったら、竜胆、死んでもスキルは解かないで」
「……了解」
僕はなるべく、感情のない忠実な
「先輩。向こうから下りてきた人から聞いてたらもう知ってると思うけど、私も」
「足技格闘技のスキルを、かなりのレベルでとってる、だろ? ったく……お前、何人殺したんだよ」
「……先輩たちより少ないと思いますよ。こっちは2人ですけど」
「こえーこえー。とっとと行こうぜ、送ってやるよ」
金属バットを引きずりつつ、金谷先輩は僕たちの横をとる。
「……先輩たち、どうするつもりなんですか?」
1階廊下は、死んだように静まりかえっている。
そろそろ夜になりつつある、紺色の混じり始めた寂しげな夕暮れの色が、廊下を染めている。色葉の声、少しかすれた、低い、よく通る声がそこに響く。
「ま、当面はここで籠城だ。避難してきたやつを喰えば経験値には事欠かねえだろ、水も食料もある。お前らもどうだ? 歓迎するぜ」
へらへら笑いながら。
僕はこの先輩のことをなんにも知らないけれど、たぶん、意図的に頭の悪いフリ、ガラの悪いフリをしてる、って直感的に思った。成績はかなり良い方のはずだ。言っていることは外道でも、論理は成り立っている。集団を鎮めて、言うことを聞かせて遠い教室に押し込めておけるような人望……なのかどうかはわからないけれど、その力は、甘く見ないほうがいいだろう。
「遠慮します。せっかくですから自由にやってみたいんですよ」
「自由、ねえ……いまいち、ピンと来ねえな」
1-Bを通り過ぎ、あと数歩で職員室、その前の、職員玄関。
「よし、そこで止まれ」
僕たちは歩みを止めた。
「……え?」
体が、動かない。
「質問に答えろ。ヴァシリッサと一緒にいるな? 1年の、
先輩はにやにや笑いながら、金属バットを振りかぶる。
「な、あ……は、はい……」
色葉が信じられないような口調ながらも、答えてしまう。
「それだけ聞けりゃ十分だ。ったく、隠すならもうちょっとうまくやれよな。ここに誰かがいますよ、って言ってるようなもんだぜ」
振りかぶった金属バットが、殺人的な勢いで、僕と色葉の間に振り下ろされた。
僕はただ、1ミリも自分の思い通りにならない体を、なんとかして暴れさせようとしながらも、ただ振り下ろされるバットを見ていることしか、できなかった。
マジかよ、本当に、洗脳系のユニークを持ってるやつがいるなんて、みたいな顔を、なんとかして……
……
ごぃぃぃぃぃぃんん……!
「……へ?」
ぶん、ぶん、と、間抜けにバットを振り回して、僕と色葉の間を探る金谷先輩。その拍子にようやく、僕の体が動くようになる。
すると。
「開いた!」
色葉の先頭、僕たちの5メートル先で先行していた、透明少女リサさんは職員玄関の鍵を開け、ドアを大きく開け放して叫んだ。
「ハッ!」
ぎゅんっ、とコマみたいに回転した色葉が、金谷先輩に下段回し蹴り。が、先輩はこれをサルみたいにジャンプして躱す。
「竜胆!」
「ボックス!」
後ろ向きに走りながらも、僕は単一乾電池を振りかぶる。金谷先輩は思わず職員室の中に隠れようとしたけれど……。
「……勃った!! 勃ったぞおおおおおおおおおおお!!」
「やべ、ばれたっ!」
「逃げるよ竜胆!」
「しんがりは任せろ!」
玄関に駆けだした色葉の背後を守るように、僕は迫り来る金谷先輩に連射。距離5メートルなら、スキルのある今、外さない。金属バットで打ち返されたらどうしよう、って一瞬思ったけど、イチローだってピッチャーが5メートル先にいたらどうしようもないだろう。肩口、腹、数発当たってのけぞって、腕とバットで急所をガードしながらじりじり距離を詰めようという作戦にスイッチ。
「先輩意外とアホなんすねー! うっひょー! ごちでーす!」
いかにもアホな感じで叫んで、180度回転。脱兎のごとく逃げる。行きがけの駄賃でこっちに向かって来る数人に数発。
「てっっめぇぇぇ~~~~!」
と、構えを解いて叫んで僕を追いかけだしたところで、急旋回。
予想通りバットを振りかぶっていたので、がら空きの股間に1発。乱戦中に金的を狙うのは格闘技を数年やってるような人でも難しい、とは知っていたけれど、今の僕は投擲スキルのおかげで、時速100キロ以上のボールをストライクゾーンに入れられる。相手は数メートルの距離。らくちんだ。
「#$%&%$”!?!?」
日本語のどこにも属さないような声をあげ、がらんがらんとバットを落としその場にうずくまった先輩に、少し同情の気持ちがわいてしまう。けどかまわず走り、僕は駐車場に抜け出した。上履きで地面を踏む奇妙な感覚も、今はかまっていられない。見ると、渡していた鍵でリサさんが先生の車のドアを開けている。色葉がそこに飛び込むのが見える。
「早く、早く!」
「最後にもっぱぁぁぁぁぁつ!」
と叫びながら、ありったけの電池を玄関で詰まりそうになっている追っ手たちに投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます