変態魔術師コ・コヤ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

変態魔術師はかく語る

「そもそもワシが魔術師を志した理由はのう! 透視の魔法とか使いたかったからじゃからの!

 透視! 街行くセクシーな方々の服とかスケスケになっちゃうとか、ロマンだと思わんか!?

 結局戦闘系魔法ばっかり適性があって、色気もへったくれもない魔物とのバトルに明け暮れとったがの!」


 さびれた酒場の片隅。

 ライスボールをほおばりつつ、ぐびぐび酒をかっくらって、変態魔術師コ・コヤはくだを巻いた。


 都市と都市の間。華やかな人の営みにも魔物はびこるダンジョンにも平等に道の伸びるこの町の、冒険者ギルドからは少々離れたこの区画。

 不便な場所にあっても安い酒を求めてそこそこの人は入るし、この近くの安宿はコ・コヤの所属する冒険団が半ば貸し切っている状態だが、その団員も今はいない。

 朝なのである。働け。


「だいたいワシみたいな老人がいまだ冒険者やっとるのがおかしいじゃろ!

 ワシゃもう八十八だぞ八十八! 東の国ならライスでお祝いする文化じゃぞ!

 そんな老いぼれがなんで働いとるかって、金がないんよ金が!

 人生順風満帆なら今ごろ貯めた金でプリチーな従者をはべらせて連日連夜娼館通いしとったのに!

 旅先で寄った非合法の娼館でだまされて、すってんてんのすっからかんよ!」


 おいおいと泣きまねをして、コ・コヤは酒を飲み干した。


「ま、それで仕方なく入ったこの冒険団も、なかなか見目のいいメンバーがそろってるがの。

 曲芸剣士のねーちゃんはセクシーじゃし、癒楽師のねーちゃんはグラマラスじゃし。

 双子は……あの歳に欲情するのは、さすがにマズイじゃろ……」


 酒の追加を注文し、それも早々に飲み干して。


「可能性狩人のにーちゃんも、地味だが悪くない顔立ちをしとるの。

 模倣騎士のにーちゃんも、陰気なツラしとるがあれはあれでそそるもんじゃ。

 団長は言わずもがなじゃし、あとは人腕フクロウな、本人談じゃがもともとハンサムだったというし、元に戻るときを期待しとるぞう」


 ニシシと笑い、それからコ・コヤはこちらに顔を向けた。


「男もイケるのか、じゃと?」


 年老いた顔は、不敵にゆがみ。


「むしろ、そっちが本命」


 ゆらりと姿がかき消えて。

 次の瞬間には、酒場の出入り口、変態魔術師コ・コヤは――すらりと背筋の伸びた老婆は、立っていた。


「覚えておくといい。女は化けるぞい。

 ま、ワシほど華麗に変態メタモルフォーゼする者はそうそうおらんじゃろうが」


 コ・コヤはたわむれに、右手をサラマンダーに変え――自身の肉体を媒介とした召喚術である――軽く火を吹いてみせた。


「ワシの実力ならもっと上位の冒険団でも通用するじゃろうがの、何せ素行の悪さが知れ渡っとって、仲間に入れてもらえん。

 それで流れに流れてたどり着いたのが、こんなに面白おかしなヤツらの集う冒険団なんじゃから、まぁ人生楽しいもんよ」


 老婆の見せる笑顔は、みずみずしく。

 背中で扉を押し開けて、日差しの中に溶け込みながら、コ・コヤは告げた。


「ようこそ、カザミド冒険団へ。

 ここは半端な者たちが集まる、最高に充実した集団パーティじゃよ」


 なお、コ・コヤ、無銭飲食である。

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