第6話 Transform 鳥

 黒子の前に現れた半竜半悪魔の謎の生物から宣告された信じられない話。それは、黒子の前世が最強の悪魔だというとんでもない内容だった!


[我が名はミミック。偉大なるアスタロト様に仕えし悪魔だ]


「ミミック……?さんはどこをどうみてあたしをそのと判断したのですか?(美味しそうなお名前ですね)」


[アスタロト様だ。特段言い間違うような複雑な名ではなかろう……それは置いといて、貴様は何故アスタロト様はであるか。それでは三千年にも及ぶ我が変遷を説明してやろう]


 こほんと咳払いし、ミミックは粛々と話し始めた。


[昔、この世界には人間の王ソロモンに従えた七十二柱の悪魔王がいた。お前はその一人、アスタロト様の生まれ変わりだ]


「知らんねーですよ!あたしはではなく南條黒子です!」


[だから貴様はアスタロト様と何度も言っているだろうが!いいから大人しく話を聞け!]


「ふぁい……」


 興奮も冷めたのか、ようやく黙り込んで床に正座した黒子を一瞥し、ミミックは話を続けた。


[しかしソロモンは何を血迷ったのか、七十二柱の悪魔王を封印してしまったのだ。唯一封印から逃れた我ら悪魔王の側近達は、獄門召喚術や錬成術等々、時には禁忌と呼ばれる秘術を用いてまで各々の主君の復活させたのだが、“転生” という方法を取った悪魔王七柱のみが未だに復活を果たせていない]


「前半は何言ってるのかちんぷんかんぷんでしたが、なんで転生なんてさせようとしたのですか?」


[当時、悪魔は人間から敵視されていたのだ。事実、完全召喚で復活させた悪魔王は当時の人間の軍団によって殺されてしまった。なので、人間の姿で復活させることで人間には悪魔だと悟られることはなく、さらには不意をついて容易に人間を滅ぼせると我らは考えた!しかし、転生はより困難を極めてな。特に人間の器と悪魔の魂を結びつける儀が悪魔召喚より困難で……他の悪魔王の側近は三千年経った今でも主がこの世に転生できたのか不明なのだ]


「よく分かりません。質問するだけ無駄でした」


[ぐぬぬ……だが、聡明な我は転生の儀に確実性を持たせるため、運命の暗示をかけておいたのだ。アスタロト様は三千年後、人間の姿で我の元に現れると。即ち、悪魔の封印から三千年を経た今、我の前に現れた貴様こそがアスタロト様の生まれ変わりと言える!]


 そう言ってミミックは自信満々に黒子を指差す。

 だが、当の黒子は立ち上がり、スカートについた埃をパンパンと手ではたき落とすと、


「あたしじゃないですね。外にいる部長とかではないのですか?」


[いいや貴様だ。アスタロト様だと一眼でわかるように転生した瞬間にアスタロト様の愛蛇を傍に顕現させておいたのだから一目瞭然である]


「いや蛇なんてどこにも……」


 そう言いかけた黒子の足に何かヌルッとしたものが巻き付いた。悪寒を覚え恐る恐る足元を見る。

 そこには、額に独特な紋様が描かれた純白の蛇がいた。


「わぁ!いつのまにぃ!」


 ちょろちょろと舌を振動させ、こちらを見つめている蛇。


「ぎょばあああああああぁぁぁ蛇いいいぃぃぃぃ!!!!!」


 両足をドタドタと上下させながら、発狂する黒子。爬虫類は大の苦手であった。ちなみに昆虫は素手で触れる模様。


「だめええ!ヘビは無理!!離してええええぇぇぇ!!!」


 黒子の悲鳴も虚しく、蛇は巻きつきながらどんどん黒子の身体を這い上がり、遂には肩にちょこんと乗った。


「いひゃあああああああ!!!無理無理マジ無理!!!」


[よく懐いておるな。さすがはアスタロト様の愛蛇]


「いいから!そんなのいいからこの蛇離して!!!」


[何を恐怖しておる。アスタロト様は大変愛くるしく世話しておったぞ?貴様もよく見てみろ」


「あれぇ、よく見たらちょっと可愛ぃ……」


[ちなみにその蛇は猛毒持ちだぞ]


「びょぴゃああああああああ!!!!!!!!!!」


 その後、蛇をなんとか引き剥がそうとジャンプしたり教会内を走り回ったり、遂には地面を転げ回ったり……散々暴れ回り、息絶えた黒子は埃まみれの教会の床に大の字になる。それでも蛇は首に巻きついたままチロチロと黒子の頬を舐め回していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……だめ、全然離れてくれん……」


[諦めるのだな。アスタロト様がいつ何時も愛でていた結果だ]


 ボッサボサの髪で全身埃だらけになった黒子を滑稽とばかりに冷えた視線を送るミミック。


「……この蛇はペットか何かですか?毒蛇なんですよね?」


[いいやアスタロト様の武器だ。それとアスタロト様自身が毒を司る悪魔だからな。毒蛇一匹従えなくてどうする」


「武器!!!それと最後に聞き捨てならないこと聞いた気がするんですが」


[ちなみに、我はその白蛇をも超越した竜の姿になれるぞ。まあ転生の儀でその力は使い果たしたがな!]


「何の自慢ですか……」


[これでわかったであろう。貴様はアスタロト様の転生体。つまりはアスタロト様の生まれ変わりなのだ!!!]


 ふわふわと上下に浮遊しながら、宣告するミミック。 

 黒子はげぇと嫌そうな顔をしながらも、目の前の現実離れした光景に謎の納得を覚えてしまう。

 

[それでだ、我と再会したからには、貴様にはアスタロト様の記憶を取り戻すための修行、そして、我らに敵対した人間どもに復讐するため、残りの六柱の悪魔を探し出してもらう!]


「えぇ……嫌ですよ!」


[何故だ!?」


「人間を滅ぼすなんてマジ勘弁ですし、せっかく高校生活を満喫できるようになったのにそんな意味わかんないことしたくないです」


[意味わかんないとはなんだ!!アスタロト様という崇高な存在に昇華するための試練だぞ!!!]


「アスタロト様が誰か分かんねぇのに戻りたくねぇです」


[ぐぬぬ仕方ない……ここは一つ]


「へーんだ!あたしは悪魔なんかになりたくないですよーだ」


「貴様ァァ!!つべこべ言わず我が裁定を受け入れ……」


『シャアアアアア!!』


 黒子とミミックが先の見えないいがみあいをくり広げようとしていた瞬間だった。

 なんと、黒子の首に巻きつき空気と化していた白蛇が、それはもう吸血鬼のような勢いで黒子の首筋に噛み付いた。


「え?」

「へ?」


 その出来事に、黒子もミミックすらも唖然としてしまい、


「か、かかかかかかかかかか噛まれ、た……?」


 白蛇が噛み付いた罹患部からは、血液がだらだらと滴る……訳でもなく、何故か黒子の皮膚全体がボコボコと脈打ち、ボンっと白煙が黒子を包んだ。


 ミミックが小鼠にも満たない悪魔の羽で突風を起こし、白煙を晴らす。  

 だが、そこに黒子の姿はなく……


「ぴ?」


 代わりにちょこんと佇んでいたのは、両翼に炎が纏った小鳥だった。

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