第7話 なんやかんやあって契約


「フェニクスにしおった!まだ魔力もないただの燃える小鳥だがな!!」


「ピギイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」


 黒子は、あまりの事態に鳥類らしからぬ絶叫を教会内部に響かせる。その後、バタバタと羽を動かし、口をパクパクさせ何とか意思の疎通を試みる黒子鳥。最初はぴよぴよとテンプレートのような小鳥の鳴き声しか発せなかったものの、なんでかは理解不能だが徐々に人語を話せるようになる。


「あ、話せる……ちょっとー!戻してくださいよ!こんな姿部長に見せたら……!!」


「ほれほれ、愛らしい姿だな」


「一気に立場が…いたっ、ちょ、やめ、悪魔の槍で体を突くな!愛らしいならせめて撫でるくらいで……」


 と、背後からただならぬ気配を感じ、ゾクっと鳥肌が立つ思いをする黒子。

 ガクガクと背後を振り向くと、そこには眼光を尖らせ、ちょろちょろと舌を動かす白蛇の姿。それはまるで、獲物を狙う獣──


「ていうか蛇には絶好の餌食だしいいいいいい!!!」


 黒子は肉食獣に標的とされた小動物のように、脱兎の如く逃げ出す。だが必死の逃走劇も虚しく、ものの数秒で白蛇が身体に巻きつき拘束されてしまう。


「捕まったあああああああああ。死ぬうぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 しかし、蛇は黒を丸呑みにするわけでもなく、すりすりと頭を黒子になすりつけ始めた。甘えているのだろうか。それでも硬い鱗をなすりつけられている心地はあまり良くない。


[ふむふむ、どうやら其奴は貴様が同類と化したことに喜々としているようだな]


「同類って……同じ動物ってこと……?」


[アスタロト様は変身能力も会得してなさったので、よくそれで其奴を喜ばせておったのだ。それより……元に戻りたいというのなら、その先はわかるっておるな?]


 くいくいと手首を動かし、身動きのとれない黒子に対し脅すミミック。


「典型的で姑息な脅し方ー!」


[悪魔には褒め言葉だ]


「くそっ」


[ほれほれ、いくら鳥頭でもこの状況を考えれば答えはわかっておるじゃろ?]


「うっっっっっっっっっっっざ!!!」


 しかし、人間に戻れないのならと、黒子は半ば諦めモードで、


「やりますよ。やりゃーいいんでしょぅ?」


[良き判断だ。では契約の下に──白蛇よ戻してやれ]


「他人任せ!!!」


 すると黒子に巻き付いていた白蛇はその胴体で黒子を覆いつくすと、白く発光する。光が途切れる頃には、元の黒子に戻っていた。


「え?元に戻ったけど、なにこの紋様……刺青?」


 黒子の左手の甲には、謎の紋様が刻まれていた。


[それは契約印じゃ。もし貴様が我との契約を破るような真似を致せば、その印に刻まれた術式が発動し、貴様に災いが降りかかる]


「ふぇーこわー。ていうかこれのせいでますます不良だと思われるんですけど」


[安心せい。悪魔の眼を持つ者にしか見えん。それこそ人間と悪魔を嗅ぎ分ける便利な道具となろう]


「それならよかったけど……よかないわ!!!」


[なんじゃ?いきなり叫び出して?]


「はぁ……あたしの光り輝く高校生活が……青春の一ページが」


 その時だった。教会の裏側から、爆発のような轟音が聞こえてきた。


「ななななんか教会の裏から声が聞こえません!?」


[ふむ、後に知ったことだが、この教会の裏にはかつて吸血鬼の王が眠る洞窟があるらしい]


「ここ日本ですよね?」


[吸血鬼どもめ。主である悪魔王が封印されたからと知っては悪魔との主従契約を勝手に放棄したうえ、悪魔王の最高称号である‘‘七つの大罪”を勝手に名乗っては悠長にこの世界をのさばっておるのだ、身勝手なやつらには悪魔王の復活をその醜悪なる眼で見届けさせねばならん]


「……とりあえず、夜も更けてきたのであたしそろそろ帰ってもいいですか?」


 黒子はもう両瞼がくっつきそうなくらい眠たかった。


[何を言っておる!悪魔の活動の相場は夜!これからだ!まずはこの町にいるであろう悪魔の生まれ変わり探しから!!」


「パワハラ上司!ブラック企業!労組に訴えてやる!!]


[……まあいいだろう。今日はこれでお開きだ]


 その瞬間、眠そうだった黒子の顔がパァッと明るくなった。


[その代わり、また明日ここで悪魔探しを……]


「あざした!さよならー」


[お、おい待て!話聞いていたのか……]


 ミミックの最後の言葉も聞かず、黒子は教会を抜け出す。扉の前には、目がぐるぐるになって気絶した酒崎の姿。


「あっ、ぶっ飛んだイベントが連続したせいでこの人の存在忘れてました」


 そう言うと、黒子は近くにあった木の棒で酒崎のカサカサな頬をつつく。


「起きてくださーい部長。こんなところで寝てたら風邪ひきますよ?」


「な、何だ……ここは……どこだ?」


「教会ですよ。部長、いつの間にか、寝ちゃってましたよ」


「そうだ!キミは平気なのか!?確か、悪魔に操られたかのように……」


「なっ、なんのことですかぁー?さっ、もう夜中だし帰りましょうよ!」


「あっ、あぁそうだな。というか、俺たちはなぜこんな場所に来たんだっけ?」


「単なる肝試しですよ」


                    オカ研、廃部確定──!!

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