南條黒子編

第1話 悪魔ちゃんは青春がしたい

 こんにちは。あたしは南條なんじょう黒子くろこ、都内の中堅高校に通っている高校二年生です!


 ちょっぴり病弱なこと以外これといった特徴はないんですけど、何分不良っぽい見た目なのでクラスメイトや周りの通行人によく誤解されます。ですが中身は至って清純な女子高生です!信じてください!!清純派でごく普通の女子高生……でした!


 何故不良っぽい見た目なのかは……別に長くなることもないしょうもない理由なので追々話すとして、普通が取り柄と自負していたあたしですが、つい昨日、その普通という肩書が外れてしまうような摩訶不思議な出来事に遭遇しました。


 えっと、そうだな……これは本当に信じてもらわなくて結構……ていうか信じる人こそ、それこそスピリチュアル系とかUMAとか大好きな人しか信じてもらえないかと思うのですが。


 あたし、なんかすごい悪魔の生まれ変わりらしいっす!!!


 自分でも何言ってるか分かりませんね。ですがこれは嘘なんかではありません。本当の話だそうです。なにしろ情報元ソースがもう全てを物語っているので。


[おい依代よ。さっきから何一人でぼそぼそと呟いておるのだ?]


「今の気持ちを誰かに伝えたかったんです」


[誰にだ?]


 とりあえず紹介しときますね。念話か何かであたしに話しかけているのはミミック。顔は竜、胴体は悪魔という謎の生物UMAです。

 

 どうやらあたしの前世は魔界でもトップを争う悪魔王(アスタロト)だったらしく、ミミックはその側近だったようです。


 ですが、アスタロトはなんやかんやあって、彼女たち大勢の悪魔王を従えていた悪魔王の主、ソロモン王によって封印されたらしく、なんとかしてアスタロトを復活させようとしたミミックが復活のための転生の儀にミスったらしく、今に至るそうです。


 正直、何言ってるかわかりませんよね。話半分で聞いといて大丈夫ですよ。


[ミスってなどおらんわ!」


「ていうか当たり前のようにあたしに話しかけてますけど、どうやって教会抜け出してここまで来られたのですか?」


[貴様は我を地縛霊か何かだと思っているのか?]


「まさしく」


[悪魔と幽霊を混同させているのは地球上で貴様だけだ]


 こんな感じで長年人間社会を彷徨ってきただけあって、人間の言葉に深く精通しています。


 と、呑気な会話していますが今は平日の朝の八時頃。あたしはまごうことなき学生なので現在登校中です。急がないと電車逃して遅刻しちゃいますね。


[貴様、何故遅刻するというのに惚気ておるのだ?もっと急ぐ姿勢でも見せたらどうだ?]


「ダイジョブでぇーす。南條黒子は遅刻常習犯なのですよ。お母さんのせいで」


[よもや自分で語るか……]


「でもそーですねー。せっかく悪魔の生まれ変わりが判明したんなら何か悪魔の力を使って悪魔的遅刻回避はできないんですか?」


「その力の封印を解くために我が同行していることを忘れたのか……」

 

 忘れてましたテヘペロ(*´ω`*)。


[くっ!!!ならばこの際教えてやろう!貴様がアスタロト様の記憶を取り戻すために乗り越えねばならぬ試練を!!!]


「あっ、確実に遅刻するのでダッシュしながら聞きますね」


[危険であろう!!走る時はちゃんと前を向け!!……って息切れ早!!!]


 走ったはいいものの、あたしは案の定数秒足らずで息が切れ、その場に停止しました。


「ぐへぇ……」

「家を出てから10十秒も経っていないが」 


というわけで、なんやかんや駅につき、あたしは電車に乗りました。あたしの通っている高校があるのは中宮市。あたしの住んでいる東本宮市の隣、東京の西側に位置する小都市。三十分くらいで最寄りの中宮駅に着いたのはいいのですが、やはり朝のHRには間に合わなそうですね。諦めて駅前通りをゆったりと歩きましょう。


[それでだな……貴様が挑むことになる悪魔の試練……それは……]


「あっ!人気のケーキ屋さん!!今日空いてます!」


[話を聞けぃ]


 駅前の閑静な通りを進んだ先、こじんまりとしたケーキ屋さんがありました。


 実はこの店、地元の食べログや東京のスイーツの名店二十選にも選ばれた有名店なのです。そもため、いつもは行列でなかなか買いに行けないのですが、朝早くだからか、ケーキを買いに来るお客さんはいませんね。


[お主……ケーキを買って何処で食べるつもりだ?]


「もちろん、学校ですが?」


[正気か!?]


「嘘ですよ。あたしも馬鹿ではないのでこの暑い時期、常温でロッカーに保管していては昼休みまでにケーキはもたないと知っています!!!なので店内で食べるとします」


[登校中ではなかったのか……?]


 というわけで、店内に入ってみました。なかなかに小洒落た店内ですね。この店は女性に特に人気があるようですが、この内装なら納得です。


「ふむふむ、どれも美味しそうで迷います」


[今は登校中……今は登校中……]


 あたしは沢山のケーキが並べられているショーケースに目を走らせます。

 迷いに迷った末、あたしは季節のフルーツタルトの紅茶セットを注文しました。

 数分後、あたしはケーキと紅茶をのせたお盆を持ってテラス席の一角に座りました。


「うんうん!今の女子高生らしい洒落乙なメニューです!」


 とりあえず写真を撮りましょう!これはイソスタ映え間違いなし!といっても機械音痴なあたしはイソスタなんてできません。


[貴様は病弱なのだろう……?何故こんな早朝にスイーツなど……]


「今は別に糖質は制限されてないからいいんですよー」


[ま、まあいい。ケーキを食べながらならば我の話を聞けるであろう。いいか、貴様が挑む試練は合計で……]


「う〜ん。季節のフルーツの甘みと生クリームのコクがマリアージュしてとても美味」


[まるで聞く気がないわ。というか貴様は言葉の意味を分かって使っているのか?]


 本当はこのままタルトを贅沢に味わうために長居したかったのですが、さすがに昼食までに間に合わないとまずい……と、悪魔に注意されてしまったので数分で店を出ました。


 というかこの悪魔、3000年以上も人間の世界を渡り歩いていたためか、口調もマイルドになっているだけではなく人間社会の知識も豊富にあるようです。小賢しいですね。


 あたしは駅前通りに戻ると、ちょっぴり早足で歩き始めました。学校はこのまま通りを突き進めばやがて正面に見えてきます。公立といえど、中宮市には高校が少なかったので、駅近のかなり立地の良い場所に建てられたようです。


 おっと、そうこうしているうちにお次の寄り道ポイントが見えてきましたね。


[いいか?その試練は岩窟の最奥に存在する伝説の……]


 ケーキ屋を出てから、ミミックは試練について説明していたようですが、イヤホンをしていたので全く聞こえませんでした。


[我は貴様の心に話しかけているのだが?]


「ちょっと寄り道しますねー」


[ま、また寄り道か。てっ……げ、ゲームセンター!?]


 この地域には一つしかない、駅前の大型アミューズメント施設です。


 ですがシャッターが閉まっていますね。現在時刻は八時五十分。営業開始が九時からなのであと十分くらい時間があります。


「仕方ありません。何処かで時間潰しますか」


[学校は!?]


「なぁに、ちょいとUFOキャッチャーやるだけですよ。学校前の一キャッチ!あたしの憧れだったんですよねぇ」


[憧れがしょうもない]


「しょうもないとはなんですか!?」


 一回だけですよ!一回!今月のお小遣いもそんなにありませんので。昼食の分も考慮するなら一回で十分です。


 あたしはクレーン台が軒を連ねる店内を練り歩き、お目当ての台を探します。まだ朝早くなのでお客さんも少ないですね。


[当然だろ。このような時間帯に制服姿でゲームセンターに寄る者など貴様くらいしかおらんからな]


「ツッコミが長いですね……あ、あれは……!!」


 あたしはゲーセンの奥の奥に存在した台の景品、人気幼児アニメ「とらたろう」に出てくる熊のキャラクター、クマッピィの二分の一スケールフィギュアが目に止まってしまいました。


[ぬいぐるみではないのか……]


 最近若者に話題のアニメ!あたしも数話見て独特な世界観にハマってしまい、グッズも買ってみたいと思ってたんですよねぇ!


 クマッピィはキャラクター性や立ち位置が面白く、インターネットで色んな意味でネタにされがちなのですが、あたしにとっては一番のお気に入りキャラクターです。


「ちょうどいいです。これをゲッチュしましょうか」


[平気か?フィギュアだけなあって、難易度もそこそこ高いようだぞ]


「ばっちぐーです!あたしのセンスを舐めないでください」


 というわけで、あたしはそれはもう高層ビルの間を綱渡しているかのように、集中に集中を重ねて、たった一回だけのクレーンゲームに──トライしました!

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