第38話 勇者ロベルトとの突然の再会

 俺達は順調だった。あの地下迷宮(ダンジョン)『ハーデス』での苦闘が嘘であるかのように……何もかもが順調に物事が進んでいった。


怖いくらいであった。何か落とし穴があるのではないかと……。順調に進んでいる時程、何かあるのではないかと恐ろしくなってくる。


 故に俺は慢心せずに、気を引き締めて物事に取り掛からなければならない。そう思っていたのだ。


そしてその矢先に、想定していたように、良くない出来事が起こったのであった。


冒険者ギルドから宿屋へ向かう、夕暮れ時の事だった。俺達は人通りの少ない路地に入る。


 ――そこで、あの男が現れた。そう、あの男——。俺が入っていた勇者パーティーのリーダー。勇者ロベルトの姿はそこにあったのだ。奴は俺と最後に会った時と同じような、陰湿な笑みを浮かべ、睨みつけてくるのであった。


「へっ……こいつは驚いたぜ。ロキの奴、まさか、本当に生きてやがるとな」


「ロベルト……お前……」


「あの男は……勇者ロベルト」


 フレイアも俺も突然の再会に、驚きを隠せなかった。


「ロキ様、あの方は誰ですか?」


 メルティが聞いてくる。メルティだけはこのロベルトと面識がなかった。フレイアは一時的とはいえ、ロベルトのパーティーに入っていたのだから面識はあるはずだった。


「かつて俺が入っていたパーティーのリーダー格……勇者ロベルトだ」


 勇者ロベルトの事はメルティには特別言った事はない。奴との思い出など、良い物のはずがなかった。故に極力話したくなかった。思い出したくなかったのだ。


「……そうだったのですか」


「——まあいい。どうやら噂通り、てめーは本当に生きていたようだからな。クックック。喜べ、ロキ」


 ロベルトが俺に発してきた言葉は予想外で、とんでもないものであった。


「俺様のパーティーに戻ってこい……仕方がねぇ……てめーの存在に俺様は僅かばかりの意義を感じるようになった。特別に俺様の勇者パーティーに戻ってくる事を許可してやるぜっ!」


 俺を殺害し、遺棄しようとしたロベルトは、あろうことか、そのような事を平然と言い放ってきた。


「な、何を言ってるんだ! ロベルト! お前が俺に何したのか! まさか忘れたわけじゃないだろ!」


「貴様! ロキ様に向かってなんという口の利き方だ! 何をしたのか忘れたとは言わせぬぞっ!」


 俺もフレイアもロベルトの余りに酷い態度に憤りを隠せなかった。


「へっ……そうだよな……そういうと思ってたぜ。だから俺はそうなる事を予想して、切り札を持ってきたんだぜ! やれっ!」


「「「はっ!」」」


 暗闇から突如、黒装束の男達が俺を取り囲むようにして現れてきた。間違いない。闇の住人である、外道者(アウトロー)達だ。ロベルトは手段を選ばない様子だ。


「わっ! なんですかこの人達っ!」


「中央にいる鍛冶師ロキが標的(ターゲット)だ。いいから『洗脳』の魔法をかけろっ!」


 俺達の周りの男達は俺に向かって魔法をかける。


「はははっ! 俺の人形になりやがれ! ロキッ! てめぇをボロ雑巾のように使ってやるぜっ!」


 しかし、俺にはその洗脳魔法は効かなかったのだ。


「だ、旦那!」


 外道者(アウトロー)達は慌て始めた。


「……なんだ!? どうしたんだ!?」


「こ、こいつには俺達の『洗脳』魔法は効きませんぜ!」


「な、なんだとどうしてだ!」


 どうやら俺に『洗脳』魔法が効かない事に驚いている様子だった。


「悪いな……ロベルト。俺に状態異常変化は一切効かないんだ」


 俺はあの地下迷宮(ダンジョン)のラストボス『ハーデス』がドロップした『冥府の護り』を見せる。


「あの地下迷宮(ダンジョン)で入手したアクセサリだ。状態異常変化を無効化するアクセサリなんだ。こいつがある限り、俺にそういった類の小細工は効かないんだ」


「な、なんだと! ちっ!」


「覚悟してくださいよ。あなた達」


 メルティはパキパキと指を鳴らした。


「ま、待て! 俺達は金で雇われただけで、悪いのはあそこの依頼人なんだ!」


「だからと言って、お前達に非がないわけではないだろう!」


 フレイアは言い放つ。


 俺達は外道者(アウトロー)達を取り押さえる。


「ふう……これで何とかなったか」


 外道者(アウトロー)達は拘束され、身動きが取れなくなった。


「は、放せ! 放せ!」


「く、くそっ! ちくしょう!」


「ロキ様、こいつ等はどうするのですか?」


「警備兵に引き渡そう」


「そうしますか」


「い、嫌だっ! ブタ箱はいやだ! 臭い飯を食うのはっ!」


「大人しくしていろ……お前達はそれだけの事をしたんだからな」


「ロキ様……」


「なんだ?」


「あの男……ロベルトとかいう男が逃げていなくなりました」


 メルティはそう俺に報告してきた。ドサクサに紛れて逃げ出したようだった。


「ちっ……あいつめ。今度会ったらタダじゃおかないからな」


 ともかくこうして俺達は外道者(アウトロー)による襲撃を防いだのであった。


 しかし、問題のロベルトは逃す結果となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【一章完結】世界最強の鍛冶師~闘えない無能はいらないと勇者パーティを捨てられた鍛冶師、SS級の危険ダンジョン『ハーデス』で装備を鍛えて最速で最強の冒険者に成り上がる〜 つくも @gekigannga2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ