第37話 (勇者視点)ロキがまだ生きている事を知る

「……くそっ。何でこんな事になったんだ。ロキがいなくなってからって事、良い事が何もないじゃないか」


 その時。勇者ロベルトは一人で嘆いていた。彼は一人で寂れた酒場にいたのである。酒浸りになり、鬱憤を晴らしていた。その様子はもはや勇者などとは程遠く、ただのやさぐれた浮浪者のようですらあった。


 外道者(アウトロー)達に残る二人を洗脳させ、辛うじてパーティーの崩壊を食い止めたが。もはや物言わぬ人形のような存在でしかない。仲間とは到底呼べないような存在だった。実質的にはパーティーは崩壊しているようなものだった。


「なぁ……聞いたか?」


「ああ……何でも今、凄い勢いの冒険者パーティーがあるらしいぜ」


 その時。その酒場には数人の冒険者達がいたのだ。


「鍛冶師ロキが率いるパーティーが、最速でBランクの冒険者パーティーに駆け上がって、破竹の快進撃を続けているって噂だ」


「へぇ……とんでもない冒険者パーティーが現れたもんだな」


 今なんと言った? こいつら? 耳を疑うような言葉が聞こえてきた。『鍛冶師ロキが率いるパーティー』だと……。


 あいつはあの地下迷宮(ダンジョン)『ハーデス』で死んだんじゃないのか。外道者(アウトロー)達を使って、そうするように指示をしたのは何を隠そう、このロベルト自身である。


「……今の話、本当か?」


「だ、誰だ? ……あ、あんたは勇者ロベルトじゃないか」


「どうしたんだよ? 最近随分と音無しだけどよ……随分と大人しくなっちまったじゃねぇか」


「うるせぇ! 黙ってろ!」


 冒険者達に煽られ、ロベルトは分かりやすく激昂した。


「それより……本当なのか? その噂は?」


「ああ? 何の事だ」


「鍛冶師ロキが率いてるパーティーが躍進してるって話だ……嘘じゃないんだよな?」


「……噂だから確証はないけど。根も葉もないところから噂なんてのは出てこないさ。ある程度の信憑性はあると思うぜ」


「……そうか。ありがとよ」


 ロベルトは冒険者達の元を去った。一人、酒場の隅っこで考え始めた。


 どういう事だ? あのロキの奴が生きているって事か? あいつがどうして生きている? 外道者(アウトロー)達により、処分されたはずなのに。まさか、処分し損ねたと言う事か? それ以外にないだろう。


 どういうわけかはわからないが、あのロキの奴は生きているのだろう。死んだと思っていたのだが……。だがいい。これは好都合だ。


 死んだと思っていたからどうしようもなかったのだ。だが、生きているのなら、反って都合が良かった。外道者(アウトロー)達を使用し、『洗脳』をかける事でセリカとルナリアと同じ、自身の傀儡にしてしまえばいいのだ。そうすれば自分達のパーティーは元通りだ。自身の有能さを見せつける事はできなかったが、ロキが戻ってくれば元通り、勇者パーティーとして順調に活躍していける事だろう。


 ロキが戻ってくるのが癪だが、ボロ雑巾のようにコキ使ってやる事で多少なり鬱憤は晴らせる……、そうロベルトは考えたのだ。


 へっ……あのロキの野郎生きてやがったのか。特別に俺様のパーティーに戻ってくる事を許可してやるぜ。


 こうしてロベルトはロキの居場所を突き止めるべく、情報を集め始めたのであった。


 そして間もなく、ロベルトはロキと再会する事になるのであった。

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