第30話 昇格クエストを受ける事に

「いらっしゃいませ! 『ミリアム』の冒険者ギルドへようこそ!」


 毎度の如く、俺達は受付嬢の快活な声に出迎えられる。そう言わなければならない決まりなのだろう。


「あなた達は先ほどクエストに出たEランクの冒険者パーティーの皆様。どうでしたか? 初めてのクエストは? スライムと言ってもなかなか侮れないかったでしょう。可愛い見た目をして、中々に難敵なんです」


「まあ……確かにその通りでした」


 ドスン。


 俺達はスライムがドロップした『スライムの結晶』×5をカウンターに置く。


「おおっ! これは『スライムの結晶』ではありませんかっ! ちゃんとクエストをクリアしてきたのですねっ! えらいですっ!」


「ははっ……」


 俺は苦笑。


「当たり前ですっ! 私達を誰だと思っているのですかっ!」


 メルティは胸を張る。


「この『スライム』の結晶はクエストのクリア報酬とは別に、1個100Gで買い取る事ができます。買い取りを希望しますか?」


「希望します」


「それではクエストのクリア報酬に500Gを上乗せして、600Gをお支払いしますね」


 こうして俺達は『600G』を受け取った。


「はぁ……良かった」


 ちなみにGとは紙幣である。以前は金貨が使用されていたが、金には生産量に限りがある為、紙幣制度が世界的に取り入られるようになった。

 

無論、金には普遍的な資産価値がある為、以前使われていた金貨も紙幣に交換可能だ。


 前みたいに地下迷宮(ダンジョン)での生活と違って、街での生活というのは如何せん金がかかる。食糧を得るにも、装備を買うにも、ポーションなどの消耗品を買うにも、そして宿に泊まるのも……。やはり金はなくてはならなかった。


 だからこうして多少なり手元に金が入るとほっとするものだった。無論、今あるというだけで出て行く事も多い金ではあるが……。


「……よし。これだけ金があればしばらくは生活できそうだな。今日はどこかおいしいレストランに食べにでもいこうか」


 勿論、大切なお金ではあるが今日は初クエストをクリアした記念すべき日だ。少しくらいハメを外したって良いだろう。あまりに節制ばかりするのもストレスになりかねない。


「良いのですか! ロキ様っ!」


 メルティは目を輝かせる。


「ああ……構わないさ。行こうか。食事の後は宿屋に一晩泊まろう」


「わーい!」


 メルティは無邪気に喜ぶ。


 こうして俺達はレストランへ向かうのであった。


 ◇


 俺達は冒険者ギルドから近くにある、適当なレストランに入った。


「ご注文はいかがでしょうか?」


 ウエイトレスが俺達のテーブルにやってきた。


「フレイアもメルティも遠慮なく食べて良いんだぞ」


「ほ、本当ですか!? だったら遠慮なく! この海鮮パスタ! それから牛肉のステーキ! それからこのショートケーキに! この当店自慢のドリア……それから、それから、それから、それから!」


 メルティは相当な食いしん坊のようだ。躊躇なく様々な料理を注文しまくる。


「はははははっ……」


 俺は苦笑いを浮かべた。遠慮するな、と言ったのを軽く、いや、激しく後悔している。前言撤回する事は出来ないだろうか? ……うむ。


「……このパスタを」


 フレイアも注文する。


「良いのか? ……フレイア。遠慮していないか?」


「え?」


「遠慮しなくていいんだぞ。好きなだけ食べて。あれだけ激しく戦闘すればお腹も減るだろうしな」


「良いのですか! ロキ様!」


 フレイアも目を輝かせる。


「それでは私もメルティ様と同じものを同じだけお願いします!」


 フレイアは注文した。


「は……はははは、はははははは」


 俺は苦笑した。大飯食らいはメルティだけではなかったようだ。俺は再度の後悔をする。二人とも戦力としては申し分ないのだが、如何せん燃費が悪いようだ。

 前言撤回はできないようだ。


「はぁ……」


 仕方がない。俺は諦めた。またクエストをクリアしてお金は稼げばいい。今日の宿代と合わせると殆ど金がなくなってしまうだろう。明日からまた頑張らないとな……と思う。


 こうして俺達は食事を終え、宿屋に向かうのであった。


※スライム退治のクエストをクリアし、600Gの資金を得た。しかし、食事代と宿代で消費し、0Gになった


 ◇


 俺達はそれから、破竹の勢いでEランクのクエストをクリアしていった。その結果得た資金の大部分は彼女達の食費へと消えていったが……とほほとしか言いようがない。

 実績を積み上げた俺達にはついにこの時が訪れたのである。


「ロキさんのパーティーは昇格クエストを受ける条件を満たしましたが……いかがしますか?」


 受付嬢がそう言ってきた。


「昇格クエストですか……」


「はい。昇格クエストです。このクエストをクリアすればDランクの冒険者パーティーとして認められ、受けられるクエストの選択肢も増えていきます」


「ちなみに昇格クエストの内容を聞いてもいいですか?」


「勿論です。昇格クエストは『キラービー』の討伐です。先日行った南の湖の先にある森……そこに『キラービー』の女王蜂が巣を作って、近隣の住民たちが大変困ってるみたいなのです」


「へー。その『キラービー』を倒すって事ですか?」


「はい。その通りです。クリア報酬は1000Gになります。昇格クエストを受けられますか?」


「勿論です。是非受けさせてください」


「わかりました。手続きは済ませておきます。それでは、気を付けて昇格クエストに向かってくださいね」


 俺達は受付嬢に笑顔で見送られた。


 そして、Dランクへの昇格クエストに挑むのであった。









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