第31話 キラービーの退治

 俺達は『ミリアム』を出て、南へ向かった。そこは大体、スライム退治をした湖と同じ場所だった。

 少し奥に行ったところにある森に、『キラービー』の女王蜂が巣を作ったようで、その駆除を俺達が任されたのだ。


 ギルド側からすれば、女王蜂が作った巣を駆除してくれるのならありがたい事この上ないのだが、現実問題としてそこまでは望んでいないらしい。


 キラービーを5匹倒す事が昇格クエストの条件として設けられたのだ。それだけでも周囲への被害を抑える事ができる。大本となるキラービーの巣の駆除はもっと高いランクの冒険者パーティーに任せよう、という冒険者ギルドの方針だった。


「……今日も良い天気ですね。前来た時と同じです。まるでピクニックみたいです」


「そうだな……」


「ふぁぁ……なんだか眠たくなってきました」


 メルティは欠伸をする。そんな緊張感にかけた状態が、この後、一変する事になる。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 突如。悲鳴が聞こえてきた。


「……な、なんだ!」


「あ、あそこです! ロキ様! あそこに女の人が倒れています」


 フレイアは指を指す。


 俺達は急いで向かうのであった。


 ◇


 女性が倒れていた。手には桶のようなものを持っている。恐らくは近隣で生活している住人であろう。湖に水を汲みに来ていたようだ。


『『『ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!』』』


 小刻みに羽ばたくような音が聞こえてくる。女性の周囲には、複数の巨大な蜂がいたのだ。間違いない。あれが『キラービー』だ。


「ロキ様!」


「ああ……間違いない。あれが標的(ターゲット)の『キラービー』だ! 行くぞ! メルティ! フレイア!」


「「はい!」」


 こうして俺達は倒れている女性を助けるべく、『キラービー』との闘いを始めるのであった。


「……気を付けろ! メルティ! フレイア! 『キラービー』の針には……あの針には猛毒が仕込まれているんだ! 話によると人間は愚か、大熊だって即死させてしまう程の猛毒らしい!」


「ううっ……それは怖いですね」


 メルティは身震いをしてきた。


『『『ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!』』』


『キラービー』の群れが小刻みに羽ばたく。どうやら、不幸なのか、幸いな事なのかはわからないが、標的(ターゲット)を女性から俺達の方へと変えたようだ。俺達に猛然と襲い掛かってくる。


「獄炎!」


 メルティは襲い掛かってきたキラービーを炎により一瞬で燃やし尽くす。どれほどの猛毒を持っていようが、キラービー自体の防御力は決して高くない。メルティの攻撃が当たれば簡単に倒せてしまう。


「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」


 俺とフレイアは剣を以って、キラービーを退治する。物の数分でキラービーの群れは悉く打ち落とされた。


 キラービーの群れは朽ち果て、アイテムをドロップする。黄色に輝く、輝かしい結晶石だ。


『キラービーの結晶』×5個を入手した。

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『キラービーの結晶』。

キラービーを倒した証である。換金用アイテム。

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「はぁ……」

 

 ほっと一息つけた。


 これでとりあえずは、昇格クエストの条件は満たせたのだ。この『キラービーの結晶』を以って、冒険者ギルドまで戻れば俺達のパーティーはDランクに昇格される。規定の報酬を貰えるはずだ。一歩前進できた。


 だが、心残りではあった。確かに昇格クエストはクリアできたのだが、根本的にキラービーによる被害は解決していないのである。やはり、女王蜂の作った巣を叩かない事には。だが、それももっと上位の冒険者パーティーが討伐する手筈になっているのだから、余計な心配と言えるかもしれないが……。


「大丈夫ですか!? 怪我はありませんか?」


 今はそんな事を気にしている場合ではない。キラービーに襲われていた女性を介抱する事の方が先だった。


「大丈夫です……おかげ様でどこも痛い所はありません」


 襲われたのは10代半ば程の少女だった。派手さはない、清楚な印象の少女だが、顔立ちは整っており、美少女と言っても差支えはない。


「あ、あの……あなた様のお名前はなんとおっしゃるのでしょうか?」


「ロキだが……」


「ロキ様……。私の名はクラリスと申します。この湖の近くに住んでいるんです。あなた達は命の恩人です。このまま手ぶらで返すわけにもいきません……大したお礼はできないかもしれませんが、よろしければ私の家までいらしてくれませんか?」


「……だ、そうだけど、どうする?」


「行った方が良いです! そうに決まってますっ!」


 メルティは食い気味に言ってきた。


「な、なんでそんなに必死なんだ?」


「だ、だってきっとお礼に美味しい食糧をくれるに違いないですよ!」


 メルティはそう主張する。


「……はぁ」


 俺は溜息を吐く。食い意地が張っていて困る。


「フレイアは?」


「お邪魔するくらいなら問題ないでしょう……特別冒険者ギルドに戻らなければならない理由もないですから」


「それじゃあ仲間もこう言っているし、少しだけお邪魔させて貰おうか。君の家はどこにあるんだい?」


「は、はい! こっちです!」


 クラリスに案内され、俺達は彼女の家まで向かう事になる。



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