第5話 火に焦がれた村

「止まれ! なぜ帰ってきた!」

「約束! 守った!」

「約束だぁ? 何も持ってないお前には無理だろ、嘘つくな!」

「ホント!」


 見えてきた村の外柵に近づくと、止まれと叫ばれた。藍毛の男獣人が槍をクーデに向けている。何とか視界に入った男の恰好は貧相な革鎧だ。ニヤニヤして、ひょろくて弱そう。

 クーデは何の約束かは知らんが守ったらしい。クーデが本当だと言い返している。何も持っていないとはどういう意味だろう。

 ソンジ村は、20人ほどが暮らす辺鄙な村だ。雪が融け切る事は無く、作物は地下で栽培し、狩猟や採集でギリギリ飢えを凌いでいるそうだ。年に一度俺のいた辺りに選ばれた村人を送り、火の精霊の怒りを鎮めるらしい。俺、怒ってないけど。


「……やっぱり聞かれた。雪融けて歩きやすいの、火の精霊様のおかげ」


 視野を広げただけなんだけどな。ソンジ村は積雪50cmを超える雪に覆われていた。毎日雪かきをしても積もるらしい。通った所くらいは雪が融ければ過ごしやすくなるだろうに、と考えた時。マッチの火程度の小さな火が地面に落ちていった。


 ■■□


 ゲージに変化は無い。ばら撒けるか? とやってみても視野に1つの火しか出せなかった。マーキングみたいだな……まぁ、雪が融けてるし良いか。


 10個ほど火を投げた所で、地下へ続く洞穴が見えてきた。今度は青い毛のみはりが立っている。村なのに住民や家が視界に入らなかった理由は洞穴これか?


「戻ったか、クーデ」

「戻った。おばばに報告」


 言葉少なに通り過ぎると、青毛が後ろで他の大人と話し始めた。火を投げとくか。


「良いのか? 通して」

「仕方ないだろう。見ろ、クーデが雪を融かして歩いて来たんだ」

「おい、それって儀式が成功したってことか?」


 儀式、ねぇ。幼女に薄着で雪山を歩かせる儀式か。洞穴の中は真っ暗だった。クーデは目を細め、壁を伝いながら歩いていく。

 ぽいっと火を投げると「明るい」らしく歩行速度が上がった。暗順応も獣人の差があるのか。


 いくつか分かれ道を進んでいくと、10人ほどの村人がいる空間に着いたらしい。縦穴がいくつか空いているようで、通ってきた道よりも明るいそうだ。俺見えないし。

 クーデの説明を聞いていると視界に雪が舞った。雪まで入ってきているのは頂けないなぁ。ここにもポイっと。


「みんな集まって何?」


 入口が明るくなったことに気づいた村人たち。クーデの周りの雪が融けていることにも気づいたようだ。


 ……なぜ武器を構える?






―――――

 獣人――獣に近い姿ほど、火の青色に近いほど階級(ヒエラルキー)が上

     クーデは人に近く、両親にも似ていない茶色なので下


 主人公の視野――10m

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