第4話 火に代わるモノ

「あれ、捕まえる」


 クーデが白い小さな動物うさぎを見つけたようだ。小声で報告してくる。2mほどの視界では見えていないんだよなぁ。まぁ、近づくまでは何もできないな。

 近くの木の影に座ったクーデが足元の雪で雪玉を作って投げた。2mほど飛び落ちたようだ。「あっ、逃げられた」と勢い良く立ちあがったクーデの声が聞こえ、前のめりに転んだ。捕まえられる気がしない。


「わぅ……次、頑張る」


 いやいやムリだろ。しょうがない、視野を広げていこう。視野を1mずつ増やし、隠れていた白樺しらかば様の白い幹の木を燃やす。1本まるごと燃やす間に視野が10mに広がった。


 ■■■

「火の精霊様、えっと……怒った?」


 クーデには俺が怒っているように見えたか。火の精霊がいきなり周りの木を燃やし始めたら誤解させてしまうな。言語も仕草も無しでは意思疎通できない。少しずつ燃やそう。

 あ、クーデの膝すりむいてる。癒しの炎をもう一回。


「またあったかい。ひざ痛くなく、なくなった?」


 うん、無くなってないな。首を傾げるクーデの周りの雪は融かして良いだろう。雪が融けて水が流れて乾いた地面をイメージすると、クーデの周囲の雪が湯気を上げ消えていった。


 ■■□

「わぅ、火の精霊様すごい、歩きやすくなった」


 歩き始めたクーデから10m以上離れた雪を融かそうとした時、■が減り始めた。木を間引くように、ちょこちょこ燃やすと■を維持できそうだ。クーデも歩き始めは燃え上がる木にビクッとしていたが、ウサギを見つける頃には驚かなくなっていた。


「投げる物、投げる物……」


 クーデが手に取った3cmほどの石ではウサギを狩れないだろう。筋力を強化するイメージでクーデの全身を覆う火を強めてみる。手に持った石も青く光った。


「お肉――!」

 ズドン! ……ドガァァァアアアン!


 気の抜けた掛け声で投げた瞬間、衝撃波が発生した。0.01秒

 衝撃波にビクついたウサギがこちらを振り返ろうとする途中で、石が頭部を爆散させた。0.02秒

 遥か彼方の山の中腹に激突。1秒

 ウサギの胴体がきりもみ回転の後、木に衝突した。4秒

 反響音がクーデの耳に到達。鳥たちが逃げ惑う。6秒


 辺りに静寂が漂った。あ、あるぇ? そこらの石でここまで強化されるのか。クーデは全身の毛が逆立ち、尻尾はピーンと伸びている。


「びっくりした。まだ耳がキーンって鳴ってる。」


 クーデがクシクシと耳を掻いている。至近距離で耳がやられていない事は不幸中の幸いだ。もっと小さな強化で良かったのか、調整が難しいな。

 とりあえずイイ感じに血抜きの終わったウサギ肉が落ちていたので毛を焼き、肉をあぶってやる。


「おいしそうなニオイする! 何で焼けるの? 火の精霊様すごい!」


 何で? 火を出せば焼けるだろ? と当たり前の事を思っていたが、この世界の『火』に代わるモノを知るのはもう少し後だった。

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