第6話 消えない炎 前

「クーデ、あんたまさか……精霊様に、お会いしたのかい?」

「うん。火の精霊様、これ、お婆」

「精霊様が、いらっしゃるのかい?」

「ん? ここにいる。目悪くなった?」

「精霊様は気に入った者にしか姿を見せないと言われているからね」


 クーデが俺を紹介するも見えないらしい。クーデの体表でメラメラ燃えてるんだが。後ろで燃えている小さな火が住民に踏まれている。火が足の甲から出ているのに熱くないのか。火の勢いを強めても住民たちは見えていないようだった。


「ふむ、クーデの融かした雪を見るに、お会いしたのは事実だね」

「さっき言った」

「ほっほ、今までウソで誤魔化そうとした輩もいたからね」


 ババアの目は笑っていない。さっきの青毛以外の住民もクーデを歓迎しているようには見えない。ひそひそと何を話しているのだろう。

 クーデはまるで意に介さずババアの言葉を受け、手に持っていた枝を頭の上に持ってきた。


「火の精霊様。葉っぱ燃やして?」


 燃やせば良いのか? ■が減るわけではないので葉っぱを1枚もやしてやった。ボゥ、と火が付く。住民がザワめいた。

 数秒で葉が燃え尽きると、火が消えずに浮いていた。ババアは火を見て口が閉じられずにいるようだ。


「何と、火じゃ、火が……精霊様が目覚められた! 急いで薪を用意せい! 急がんか!」


 ババアが号令をかけると、ババアとクーデ以外の全員が走って行った。マッチ程度の火で騒ぐなんて、変な村だな。

 ババアの引率で少し大きめの家に入る。地下の家は簡素な物で朽ちたプレハブと評する程度。地下だから雨風も雪も気にならないか。天井は採光のためか一部穴のあいたモノで、調度品は水がめと10畳ほどの敷物、机は無く奥に祭壇のような台があった。


「少し待ってておくれ。祭壇の前は薪を置くよ」

「うん、お婆」

「何だい?」

「おなか減った」

「……待ってな」


 クーデは家に入るなり奥へ進み、祭壇に供物くもつを食べ始めた。食べながら言う腹減った発言をスルーするババアを二度見しつつ、クーデの落とした食べカスを燃やしていく。

 けぷっと可愛らしい曖気あいきが聞こえた後。住民たちが薪を持って帰ってきた。クーデの拾っていた白樺しらかばの幹ばかりか。まぁ、薪だもんな。


「クーデ。薪を組んだら精霊様に火をお願いしておくれ」


 ババアが住民たちの組む薪を指差して言う。クーデの返事を待たずに、住民に「用意は?」と聞いていた。薪以外の要件があったのか。こちらをチラっと見た住民の目は凄味があった。不躾に値踏みするような視線は嫌いだ。

 何か雰囲気がおかしい。儀式というより何かを狙っているような……クーデは何か感づいたかと伺うと、カクンカクンと船を漕いでいた。お腹一杯だものな。


 薪に小さな火を投げると、薪に引火することなく地面に達してしまった。


―――――――――

 曖気 あいき ――― げっぷのこと

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