第21話「家族で潜入!」

 時刻は、まだ宵の口ではあるが……

 表はもう、真っ暗となっている。

 リュウが言霊ことだまを詠唱し、握った手を「ぱっ」と開くと、魔法の発光体が「ゆらゆら」と出現し、空中でともる。


 いよいよ、リュウ達3人H・S・W・P、天界特別遊撃隊が出発するのだ。


「で、ではご無事で、皆さま……」

「冒険者様、お願いします」


 村長フロラン、そして村民達の不安そうな視線、そして淡い期待を背に受けながら、リュウ達は歩いて行く。

 村を守る頑丈な木製の正門は、リュウ達が村外へ出ると、すぐに「がっちり」閉められてしまった。

 普段、いかに不死者アンデッドを含めた人外に、酷く苦しめられているのかが良く分かる。


 ふと、リュウは前世を思い出す。

 上司の無茶振りで、夜の仕事も良く振られたものだと。

 リュウの目が少し……遠くなった。


 村を出て少し歩くと、リュウは魔法光をすぐに消した。

 もう人目を気にする必要がないから、消したのだ。


 リュウ達は神。

 

 人間とは全く違い、灯りなど不要なのである。

 完全と言って良いくらい夜目が利くので、暗闇でも昼間のように見通せる。

 まるで現代の軍隊が装備する、暗視装置の肉眼版だ。

 

 その3人が歩く先には、道がふたつに分かれていた。

 右手に曲がってすぐに、先程浄化した墓地がある。

 左手に曲がり暫し歩けば、目的地の古城に着く。


 当然リュウ達は左への道を選択した。

 更に約30mほど歩いたところで、メーリが、リュウとグンヒルドに呼び掛ける。


「グンヒルド、パパ、ここからは念話で話すわ、少し歩きながらね」


『了解です、副隊長』

『了解! メーリ課長じゃなかった、副隊長』


『宜しい! じゃあ、ふたりとも良い? ざっくりと、今迄にゲットした情報の整理をするわよ。まず私達が天界の情報部から貰った内容と、村長が話した内容はほぼ一致、間違いないわよね』


『うん、そうです、副隊長』

『確かに!』


 先程から、3人の意思疎通はスムーズだ。

 皮肉にも、『愛の家族ごっこ』をしたせいだと、全員が気付いていた。


『ええっと、これから行く古城は、元々歴代の領主一族が住んだ居城。ちなみに現在の領主はとても評判が良くって、村民に恨まれるどころか、凄く慕われていた』


『それなのに?』

『何故、いきなり住民に害を為すようになったかっていうのが……謎ですね、メーリ様』 


 会話が弾んだところで、突如メーリが色っぽい声を出す。


『うふん、パパ』


『な、何でしょう? い、いきなり! メーリ副隊長』


 リュウの問いかけに対し、メーリは不満そうに口を尖らせる。

 頬も、いつの間にか、栗鼠のように膨らんでいた。


『嫌! パパならぁ、いつもぉ、メーリって呼び捨てにしてくれないとぉ! 敬語や役職を付けたりしたら、全然娘らしくないでしょ?』


 メーリの、こだわりがさく裂した。

 と、なればグンヒルドも、同じ理由で黙ってはいない。


『な、なら! 私もグンヒルドと呼び捨てにしてくれ! そしてタメ口で行くのだ。世間にはいろいろな夫婦が居るだろうが、私は夫から、呼び捨てで呼ばれたいからな』


 リュウは唖然……理解出来ない。

 先程の親子ごっこが楽しく、まだまだ継続したいのだろうが、今はもう仕事中……

 天界の女神達のノリは、独特だと思う。


『でも、おふたりとも……今は仕事中なのに……良いんですか?』


 よくよく考えてみれば、村長宅で親子ごっこを行った時も仕事中だったのだが……リュウには他に聞きようがなかった。

 

 そして、返って来た答えは……


『パパ!』

『貴方っ!』


 答えはOK!

 『家族ごっこ』は、『継続』という、厳命であった。

 リュウは念の為、またも確認する。


『まさか……天界へ戻ってからも? 続ける……とか?』


『当然!』

『常識!』 


 今度は、はっきりとした意思表示である。

 リュウは小さく肩を竦め、


『はぁ……分かりました。メーリ! グンヒルド!』


『パパ!』

『貴方っ!』


 嬉しそうなふたりの女神の声が響く中、リュウは無言。


『…………』


 こうして3人の関係、否、チームワークは更に良く?なったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 暫し、今回のミッションに関して情報交換をし、予備知識を万全にしたリュウ達は……

 メーリの発動した転移魔法で、速攻、古城前に移動した。

 後は、もう古城内へ潜入し、事実を確かめるしかない。


 常識だが、転移魔法は距離を著しく、スキップ出来る。

 ちなみにリュウは、勇者の際には使用可能だった転移魔法の能力もはく奪され、現段階では発動出来ない。


 転移して、気が付けば、リュウ達の目の前には古びた城がそびえたっていた。


 異世界の城には、あまり詳しくはないリュウだが……

 この城は、そんなに規模は大きくはないと感じている。

 多分、野戦用の小規模な砦を、ふた回りくらい大きくした規模であろう。


 古城自体は、この地に1,000年以上前から存在するらしい。

 5代前の領主が、当時廃城だった城を修復し、住み始めたという事である。


 リュウが見れば、城の中は灯りがなく真っ暗、「しん」と静まり返っていた。

 まるで、リュウ達3人の様子をうかがっているようだ。


 また周囲に人の気配はない。

 そもそも不死者アンデッドがうろつく状況で、夜のこのような時間に、出歩くなど自殺行為なのある。


 多分、人外共は虎視眈々とリュウ達を、待ち構えている事だろう。

 臆病な者なら、躊躇してしまう仕事である。


 しかしリュウは勇者の時に、散々不死者共と戦ったし、女神ふたりにも恐怖の色は見えない。


 先程……

 3人が家族なら、父親役のリュウがリーダーだと、メーリから強引な指示があった。

 こうなったら、リュウはもう父親&夫役に徹しようと決めている。

 等級が上の、娘役メーリから呼ぶのが、不自然ではあるが……


『よっし! メーリ、グンヒルド、行くぞっ!』


『了解、パパ!』

『了解だ、貴方っ!』  


 念話だが、大きな声で潜入の指示を出すリュウに、女神ふたりは力強く返したのであった。

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