第22話「ニンジャを希望」

 リュウ達が、これから潜入しようとする領主の城は……

 いわゆるファンタジーでお馴染みの、地球の中世西洋風な石造りの城ではない。

 通常の城というよりも、大きな砦に近い城塞である。


 また外柵は石壁ではない。

 やはり砦というか、丸太の先端を鋭く尖らせて堅く組んだものである。

 同じ中世風でも、もっと初期に建てられたモット・アンド・ベリーという形状の城だ。


 ちなみに、モット・アンド・ベリーのモットは丘という意味。

 城内にある丘は、城の周囲に作られた堀から出た土を使用し、盛り土をする。

 更に言えば、盛り土をした場所が、領主の居住する館を建てる敷地となる事が多かった。

 またベリーは前庭と言う意味であり、領主とその家族以外に、城内に住む者達の為の居住区となった。


 閑話休題。

 人外となった領主が巣食うという、この城の中へ入る入り口はひとつしかない。

 リュウ達がこれから渡ろうとしている、堀の上に架けられた粗末な木橋の先にある、正門のみである。


 リュウが先頭に立ち、音も立てずに疾走する。

 まるで、何かを真似したような走り方だ。

 続いて、グンヒルドが同じような走りで追随し、最後尾を「とてとてとて」と、可愛く走るのがメーリであった。


 この木橋は……

 領主が籠城戦を決め、外敵が攻めて来た際には、即座に焼き払って落としたと言われている。


 その通りで、もし渡っている最中に、橋ごと落とされたら堀へ真っ逆さまに落ちてしまう。

 現在の堀は水がなく空堀で、底まで約15mはあった。

 常人なら間違いなく、命は失うに違いない。


 だが橋を落とされたって、リュウ達は全く平気だ。

 飛翔、浮遊の魔法を使えば、堀へ落ちる事などないから。


 ならばどうして、最初から魔法を使い、飛ぶなりして柵を超えないのか?

 そんな疑問が出る。

 

 その疑問の答えとは、グンヒルドの『趣味』であった……

 実は城に向かう直前の事、グンヒルドはリュウにせがんだのである。


『リュウ、私はニンジャのように、肉体を駆使し、闇に紛れて忍び込みたいぞ』


『はぁ? ニンジャ?』


 グンヒルドの物言いを聞いても、リュウは最初、わけがわからなかった。

 しかしグンヒルドは熱く熱く語る。


『ああ、そうだ! ニンジャは限界ギリギリまで身体を鍛えた超人だ。そうだろう?』


『うん、ま、まあな』


『魔法を使って、瞬間移動したり、ぱぱっと飛翔すれば簡単に中へ入れるだろうが……全く面白くないっ! ロマンがないっ! 夢も希望もないっ!』


『おいおい、ロマンって……あのね……』


 そう言いながら、リュウは思い出した。

 グンヒルドは、『サムライ』の大ファンである。

 どこで知ったのか、見たのか分からないが……

 『ニンジャ』も同様に、大好きであっても全然不思議ではない。


 そこへ、


『パパ、私も大が付く賛成! ニンジャみたいにが、良いのっ!』


 とメーリも大賛成。

 強力に、プッシュされてしまった……


 これで2対1……

 大勢は決した。


 H・S・W・P、天界特別遊撃隊の新人神リュウにとって、先輩女神達の意見は……

 絶対なのである。

 リュウは基本、仕事には真面目で取り組むという主義であったが、もう『やけ』であった。


 ようは、仕事を無事完遂させれば良い。

 結果さえよければ、問題ない。

 それに、リュウは天界では新参者。

 変に意固地になって、先輩女神達との、人間関係?にひびが入るのも困る。


 そもそも単に城を破壊するだけであれば、リュウ達3人の攻撃魔法で容易く破壊出来るのだ。

 だが城を破壊するのは、何も手を打つ方法が無い場合の、最終手段。


 今回ルイ隊長から出されたミッションの目的には、領主が人外となった原因の解明がある。

 城を木っ端みじんにしてしまえば、全てが失われ、瓦礫しか残らない。

 『城まるごと破壊』は愚策なのだ。


 さてさて、

 橋を渡り終わり、正門の前に着いたリュウ達は中の様子をうかがう。

 城内は相変わらず「しん」と静まり返っていた。

 3人が発動した、索敵の魔法にも反応がない。


 となれば、とても嫌な予感がする。

 敵が居るのは間違いがないのに、神の使う索敵魔法にも引っかからない。

 

 理由は明確だ。

 神に匹敵するくらいの力を持った、とんでもない奴が噛んでいる。

 多分、そいつがリュウ達の使う索敵魔法を無効にする細工をしているのだ。

 それ故、一瞬3人に躊躇があった。


 だが……

 誰かが、突破口を開かねばならない。

 となれば、ここは新人の役目だ。

 即座に、リュウは言う。


『虎穴に入らずんば虎子を得ずって言います』


『おお、素晴らしいことわざだ! スリルとサスペンスだっ!』


『パパ、素敵っ!』


『というわけで、俺が単独で先に潜入します。偵察して何も異常がなければ、念話で連絡します。OKを出したら、飛翔して続いて下さい』


『え? リュウ? ひとりで大丈夫か?』


 さすがのグンヒルドも心配するが、メーリからは、


『さっすが、パパ! たのもし~』


 と称えられてしまった。

 こうなると、リュウは覚悟を決めるしかない。


『じゃあ、行きまっすよ』


 開き直ったリュウは、「にこっ」と笑った。

 引き受ける時は、「うだうだ」言わず快く!

 というのが、前世からリュウのモット―であった。

 その為に働き過ぎて、過労で倒れ死んでしまったのだが……


 リュウは手を振ると、飛翔魔法を発動。

 「ふわり」と身体を持ち上げて、飛び……

 城の木柵を超えると、身体をかがめ、着地。

 左右を、じっくり見渡したのであった。

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