第20話「愛妻&愛娘で行こう」

 リュウは先輩女神ふたりと……

 今回の目的地、第17世界アイディール王国南方ディーノ村へ到着していた。

 

 ちなみにメーリの魔法により、ゾンビとの激闘でついた腐汁などの汚れは綺麗に浄化され、逆に3人には良い香りが漂っていた。

 そしてメーリは白の法衣ローブから、リュウの着るモノに近い煉瓦色の革鎧へと着替えている。

 グンヒルドの方は、救援に来た時から、真っ赤な革鎧を装着していた。

 革鎧のデザインは全く一緒なので、同じ隊の隊員という趣きは一応あった。


 リュウ達を出迎えたのは、村長から指示を受けた村民である。

 一行は表向き、人外退治を請け負った冒険者という事になっていた。


 村長の家へ案内されたリュウ達は上座に座るよう勧められる。

 

 リュウ達との会話を他の村民へ聞かれたらまずい……

 そんなフロランの判断で、人払いがされていた。

 フロランの妻子も例外ではなく、現在村長宅はフロランひとりきりなのだ。

 漸く創世神への願いが通じて、村を救う為に、神が派遣された。

 本来ならば、涙を流すくらい嬉しい筈である。


 しかし村長のフロランは訝し気な表情を浮かべていた。

 一体、何故?


 暫し、沈黙の後……

 恐る恐るという感じで、フロランが声を掛ける。


「あ、あのぉ……」


「うむ、何だ」


 重々しく答えるのはリュウ。

 当初のミッションでは、ベリアルを率いて事にあたる予定となっていた。

 なので、3人の中で一番上級神のメーリではなく、リュウが受け答えをする事になったのだ。


 フロランはいきなり、とんでもない事を聞いて来る。


「本当に……貴方様は、神様なのですか?」


 本当に神様?

 誇り高いスオメタルあたりが聞いたら、激怒するようなセリフである。


 しかし、リュウはついこの前まで人間であった。

 なので、全く動じない。

 再び、重々しく答える。


「間違いなく、神様だ」


 リュウの答えを聞いて、フロランは更に首を傾げた。


「でも……私が夢で、事前に頂いた神託とは内容が」


「違うと……」


「はい! 確か、頂いたご予定では、お見えになるのが、男性の神様おふたりだとお聞きしておりましたが……」


「聞いてはいたが、何だ?」


「実際にいらしたのが、ご夫婦とお子さんのファミリーとは……全然、話が……」


 フロランが、再び言いかけた時!

 いきなりグンヒルドが叫ぶ。


「あなたぁ!」


 そして、お約束でメーリも。


「パパぁ!」


「…………」


 だが、リュウはといえば……無言であった。


『どうした、リュウ! ノリがひどく悪いではないか。妻である私の、熱い呼び掛けに応えよ』


 すかさず、グンヒルドからは、非難の感情を込めた問いかけが飛んだ。

 こちらの会話は、フロランに聞かれないよう念話である。

 ちなみに念話とは、魔法の一種。

 心と心の会話である。

 そして……メーリも、しっかり同意。


『そうよ! グンヒルドの言う通りよ、パパぁ』


 ここまで責められては、返事をしないわけにはいかない。

 しかしリュウの口調に、呆れたような感情が籠められているのは否めない。


『俺のノリが悪いって……逆におふたりとも、ノリが、すっごく軽くないですか? 俺達、神様なのに』


 しかし!

 グンヒルドは、きっぱりと言い放つ。


『良いじゃないかっ! 折角の家族っぽい構成なのだから……それに私だって一度くらい、妻という奴を経験してみたいぞ』


『で、でも……』


『メーリ副隊長の許可もちゃんと取ってある、全く問題はないっ!』


 グンヒルドが胸を張ると、メーリも、


『へへん! 私は最初からパパの子に、なりきりだもんねぇ』


『…………』 


 仕方がない。

 こんな時、先輩方にはけして逆らってはいけない。

 それがリュウが人間であった頃からの、処世術であった。

 それに……何となく、前世で親子3人で幸せに暮らしていた頃を思い出して……悪くもない。


 ?マークを浮かべる村長フロランへ、リュウは言う。

 いかにも尤もらしく……


「村長、天界にも都合がある。今回は当初の予定だった男性神ではなく、愛する妻グンヒルドと、愛娘メーリの3人で来た次第」


 状況説明するリュウに続いて、女神ふたりも、


「そうだ、何か文句があるのか、村長! 代理とはいえ、私の力は当初の男神より全然強大であるっ!」


「そうよ、そうよ、私だって、こんなに可愛いのにっ!」


 女傑グンヒルドのひと睨み。

 そして、可憐なメーリの何かを訴えるような眼差し攻撃。


「わ、分かりましたっ!」


 こうして……

 フロランも漸く、納得?をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おお、それは! あ、ありがとうございますっ!」


 リュウ達が、ゾンビであふれていた村の墓地を、一切綺麗に浄化した話を聞くと……

 それまで半信半疑だったフロランの顔色が、はっきりと変わった。


 リュウ達でさえ難儀した、あのゾンビである。

 常人であるフロラン達がどれだけ難儀したか想像に難くない。

 否、難儀などと生易しいものではなく、村は多数の犠牲者を出していたのだ。


「それで、怖ろしい人外共が居る古城とは?」


 リュウが聞くと、


「はいっ、実は……」


 フロランはまるで堰を切ったように話し始めた。

 話を聞きながら、リュウ達は情報を整理した。

 天界から与えられた情報とのすり合わせである。


 結果……

 リュウ達は、今回のミッションクリアに必要な情報を得る事が出来た。

 後は『現場』に赴き、裏付けを取りながらの、実践である。


「話は分かった。ならば、俺達は出撃する」

 

 リュウが出立を伝えると、フロランは驚いた。


「へ? い、今からですか?」


「うむ、そうだ。少しでも早く人外の脅威を取り除き、村へ平和をもたらしたいのだ」


「た、大変に、あ、ありがたいお話ですが…… で、でも……もう夜ですよ」


 驚くフロランが指さす窓から見える外はもう真っ暗であった。

 しかし、リュウは首を横に振った。


「全く平気だ。神である俺達に昼夜は関係ない……それと分かっているだろうが、報酬は要らぬ」


「え? 神託ではお聞きしていましたが……報酬が要らないなんて、や、やはり、本当なのですか?」


「本当だ、報酬など不要! その代わり、人外を倒したら、創世神様に深く感謝をし、丁寧に心の底から祈りをささげてくれよ」


 創世神へ祈りをささげる……

 これ、実は間接的な報酬の依頼である。

 

 神とは、人々の信仰心から大きな力を得ている。

 リュウ達の救済により、この世界において、創世神への信仰が上がるという使命が、天界特別遊撃隊、最大のミッションでもあるのだ。


「そ、それはもう! 当たり前でございますっ!」


 リュウの話を聞き、「当然!」というように、フロランは言葉に力を入れたのであった。

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