1-15 どうせ面倒なことになると思った
が、明らかに広告目的と分かるパンフレットだけでは配布物がなかなかハケない。その対策としてか、彼らはあの手この手の策を練ってくるのだ。
俺の所感としては、まず圧倒的に配布物の中に消しゴムを入れてくるところが多い。次点で塾の名前入りのボールペンやシャープペン、または蛍光ペン。
そして今回のようにお菓子を入れてくるケースもある。大体がガムや飴、タブレット菓子やチョコレートなど、割と持ちが良いものが多い印象だ。今回のクッキーも賞味期限は長いだろうし。
ついでにレア物、変わり種がルーズリーフを綴じるバインダーやクリアファイルだ。これがおまけについていると、目に見えて配布物を受け取る生徒が増える。学校生活でとてつもなく重宝するからだ。
そんなこんなで今挙げたようなものを塾の広告パンフレットと一式セットにし、透明なフィルム袋に包装して、彼らはやってくる。鞄やら小ぶりなスーツケースやらにぎっしりとそれらを詰め込んだ大荷物をしょっ引いて。
配る本人たちが中身を取り出すところを以前ちらりと見たことがあるけれど、みんな割と入れ物ぎちぎちに袋を詰め込んでいて、「重そうだな」と思った記憶がある。
「まあよくあるっちゃよくあるけど、明らかにおかしい点が一個」
桐山が頬杖を突きながら言った言葉に、俺は眉を顰める。
「だから、何が」
「恐らくだけどこのクッキー、塾側としては配る気はなかった物だろうね」
「あ?」
「僕さ、思ったわけ。このクッキーが売っているのは、この高校の近くなんじゃないかって。それが正解だったってのが、さっき分かった」
そう言い切って、桐山は飄々と欠伸を一つ。
「……は?」
俺の戸惑いの声は、ちょうど鳴り響いた一限の予鈴にかき消されていった。
◇◇◇◇◇
「どうせ、こういうめんどくさい展開になると思った」
「まあまあ、いいじゃん」
「何が悲しくて男と洋菓子店に行かなきゃならん」
「おし、ついでに美味しそうなもの物色していこうか」
「桐山、お前はまず人の話を聞け」
昼休み。いつも通り弁当を午前中の短い休み時間のあいだに済ませた俺は、いつもとは違い学校の西門を出て、住宅街のアスファルトを踏みしめていた。
『この袋にクッキーが入ってるのは明らかにおかしい、何かがある』とのたまう桐山に付き合わされた形だ。
「だってさー、碓氷くんどうせ暇だろ?」
「どうせって言うな、どうせって。しかも勝手に暇人扱いするな」
「暇じゃないん?」
「俺はいつも忙しい」
「んじゃまず、探偵心得その一の実行な。まずは聞き取り調査」
「全然『じゃあ』ではなくないか?」
人の話を聞いちゃいない。やれやれと肩を落としながら歩いていると、桐山はある店の前でぴたりと立ち止まった。
「ここだ。今朝、女の子たちが教えてくれた洋菓子店」
「……おお、ここが」
朝のクッキー談義の終盤で分かったことだが、桐山に話しかけてきた女子たちはあの塾の広告パンフレット袋に入っていたクッキーの製造元を知っていたらしい。彼女らいわく、この高校では結構有名な店らしい。部活勧誘の際に客引きとしてここのお菓子が配られていたりもするのだとか。
俺たちが知らなかったのも無理はない。なんせ俺も桐山も、部活勧誘には一切顔出しをしていないのだから。
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