0-3 俺たちの部室は、プラネタリウム喫茶
この小径は校庭と校舎の間にあって、自転車置き場にもなっている。俺たちが通学用の自転車を停めているのは我ら一年G組の、教室の窓のすぐ横当たりだ。
この辺は上級生が自転車を停めないため、自転車の数もまばら。すぐに自分の自転車は見つかった。
「ちょい待ち、どっちに行く気?」
そのまま自転車に跨り、西門の方へ自転車を漕ぎ始めようとする俺の制服の裾を、いつの間にやら追いついてきた桐山が引っ張った。バランスを崩しかけた俺は、慌ててハンドルを握って足を踏ん張り、転倒をなんとか免れる。
「何すんだ、危ないだろ」
「そっちの方向は違うっしょ。僕たちの部室は正門の方」
そう言いながら桐山が自分の自転車を引いてくる。俺は呆れ顔をして空を仰ぎ見た。
ああ、早く帰りたいのに。――と、いうか、そもそも。
「あそこを部室扱いするのは違うんじゃないか……?」
「まあまあ、固いこと言わない。あ、そういえば今日、新作のメニューを試してほしいって叔父さんが」
帰りたい帰りたいと念じていると、桐山が聞き捨てならない言葉を言い出した。俺はゆっくりと奴の方へ顔を向ける。
「本当に? なら行く」
「……僕から言っといてなんだけど、君って食べ物に弱いよね。悲しいくらいに」
「あの人の作るメニューにゃ、外れがないからな」
――それに、あの場所だって嫌いじゃない。むしろ自分の好みだ。
それを、面と向かってこいつに言うのは癪だけれど。
「それは何より。じゃ、行こうか」
「……ああ」
悔しくも桐山の言葉に乗せられて、俺は正門の方へと自転車の向かう先を変え、ペダルを漕ぎ出した。
教室から聞こえてくる吹奏楽部の楽器の音。背後に遠ざかっていく運動部の掛け声、漏れ出てくる軽音部のベースやギター、ドラムの音。それらを突っ切って、俺たちは正門の外に出ていく。俺たちの「部室」は、校内にはないからだ。
都会の人波の喧騒から切り離された、わりと広々とした喫茶店。桐山の叔父さんが営むその店は、普通の喫茶店じゃあない。
二階くらいまでの高さほどある天井を持つその喫茶店は、その滑らかな壁面いっぱいにしっとりとした夜空と、それを彩る宝石箱をひっくり返したような星々を全視界に映す――プラネタリウムと喫茶店を融合させた空間だ。
それが俺たちの、活動拠点。
さっき「方向を間違えたエネルギー」なんて言ったけれど、俺らもなかなか方向を間違えているかもしれない。いや、「かもしれない」じゃない、間違えているとは思う。でなければ何が悲しくて野郎二人でプラネタリウム喫茶まで行かねばならんのか。
後で他のメンバーと合流するとしても、だ。
そんなことを思いつつ、今日も俺たちはプラネタリウム喫茶――『星空喫茶』まで自転車を漕ぐ。
そう、これは「方向を間違えたエネルギー」を持て余した結果、色々と奔走する羽目になった俺たちの物語だ。
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