第三章 光と闇と影

第三十九話 墓前の前に花束を

 さんさんと太陽が照り付ける。


 妖は夜にしか活動はできない。諸説あるが、人目に付かないためだとか。


 でも妖の方が、人の何倍も強い。ならばどうしてこそこそと夜に潜むのか。

 そんな中、妖は光が弱点なのかもしれないと、誰かの研究が残されていたそうな。




 日差しが照り付ける中、紅城は歩いていた。


 どこか憂いた表情で、彼女は花束を右手に持っていた。

 その墓地はとても広く、錬金術師たちが殉職した時に墓を建てる場所だ。なんでも、遺体を研究者たちに荒らされるのを防ぐため、ここに眠らせるのだそうだ。


「……」


 彼女は新しく建てられた墓の前に立ち止まった。

 花束を墓前に添え、手を合わせて目を閉じた。


 しばらく経ち、彼女は元来た道を戻り始めた。日差しは強くとも、風がそよぎ過ごしやすい気候になっていた。


 が、新しい墓の前で風に揺られていた。




 錬金術師連盟本部と呼ばれる場所にて、会議が行われていた。本部と呼ばれているだけで、本当に本拠地なのかは不明だ。


「全員そろったから始めますか。まず自己紹介から始めますが、簡単に。私はA級の白洲と言います」


 眼鏡のインテリ風の男はそう言った。この会議は、定期的に現在の状況を報告するためのもので、全国各県代表のA級が一人ずつ。そしてリモートで顔を隠してはいるがS級が一人。そしての連中が数人。


「まず初めに、黄道十二星についてです。奴らは十年前に壊滅状態にさせられたものの最近かなりの力を伸ばし、脅威となっていました。ですがみなさんの働きにより、残るメンバーは天秤座、双子座、乙女座、射手座、獅子座、牡牛座の六人にまで減らすことができました」


 薄暗い会場がざわざわとし始める。


「特に、今現在判明している天秤座、そして獅子座はどちらもレートA。他のメンバーもレートAと考えられる。A級であるみなさんと同等かそれ以上の力を持っています。絶対に戦闘時は二人以上でお願いします。もし敵わないと思ったらすぐに逃げてください」


「はっ! 腰抜けなヤローだ。一度自分が負けてるからってビビりやがって」


 白洲に向けて言葉を発したのは、金髪の男だった。


「相性が悪かったって? 負けりゃ一緒さ一緒。それに俺はお前みたいな腰抜けに司会なんて務めてもらいたくね……」


「少し……黙った方がいい」


 すると隣にいた黒と白が入り混じった髪色の、眼鏡を掛けた男が右手で制した。


「……てめえ、氷瀬ひせか!?」


 氷瀬と呼ばれた男は、すっと腕を下ろした。


 氷瀬皇千こうせん。彼は紅城と共にA級二強と呼ばれている。だが実際氷瀬が戦っている姿を見たものは、ほとんどいない。

 理由は錬金術の代償が重いから、だとか。


「氷瀬さん、来てたんですね」


 白洲は驚きの声を上げる。


「ああ、そろそろ情報が欲しくなった。あと情報を塗り替えるようですまないが、ここに来る途中で牡牛座は殺しておいた。だから……あと六人ではなく五人だ」


 すると氷瀬は赤黒い石のようなものを取り出した。


「上位妖の核……!?」


 さらに現場はざわめいた。


「ひ、氷瀬さん。錬金術使って良かったんですか?」


 白洲は少し声を震わせる。


「いや、錬金術を使わずに殺した」


「は!?」


 彼と言う存在は異端であった。

 同じくA級最強と呼ばれる紅城が王道の強さなのだとすれば、道から外れた邪道を極めたもう一つの最強が彼なのかもしれない。


「おい、仮にもレートAだろ? 錬金術も使わずに殺すとかどんな神業だよ」


「本当に同じA級なのか?」


 会場がざわざわと落ち着かなくなった時、今まで静寂を守っていたS級がついに口を開いた。


「あー、氷瀬さんね。確かに一回S級に昇級させようかって話がででたよ」


 リモートなので、声は変声機で変えられているが、初めて声を聴く人がほとんどだった。一瞬にして会場が静まり返った。


「でも昇級してないってことはそれなりの理由があるってこと」


 情報交換の場として設けられた会議だが、今回はいつもと様子がかけ離れているようだった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


皆さんお久ぶりです。第三章スタートです。

予想していたスタートとはかなり違ったのではないでしょうか。

これから更新を続けていく予定ですのでぜひよろしくお願いします!

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夜刻錬金戦争 多雨ヨキリ @tauyokiri

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