第三十八話 レベル

「うわっ、なんだかお通やみたいな雰囲気になってるけど……」


「ああ、ンなことはどうでもいい。それよりも話したいことが……」


 すると仁一君は僕の隣にいる紅城さんを見た。


「お前があれか、A級の最強候補」


「えっ!? 紅城さんってそんなに強いんですか!?」


「ふふん。まあねー、君はそんな人に稽古つけてもらってるんだ。自信出てだただろ?」


 紅城さんは狐のお面をかぶっている為、表情は見えないが、きっと渾身のどや顔を作っているに違いない。


「それで、少し遅くないか? 紅城の力を使えば、もっと早く殲滅できたと思うが」


「ああ、さっき強めの妖が湧いてきてね。そこで黒葬君の出番ってわけ」


「強そうな妖……? あのでかいゴリラみたいなやつか!? あんなのどう見てもレートB以上だろ!?」


 仁一君は紅城さんに詰め寄った。


「分かってんのか? 妖のレートは錬金術師の等級と同等。つまりB級以上の錬金術師と互角ってことだぞ!? 黒葬がまともに戦える相手じゃない!」


「でも現に今ここにいるよね? 生きてるよね? つまり黒葬君の勝ち」


「……お前確か人を癒す能力も持ってたよな。黒葬も今は平気な感じだけど、一回死にかけてから治したんじゃないだろうな」


「大正解。よくわかったね」


「てめえ!」


 八頭は紅城の胸ぐらをつかんだ。


「お前の弟子だろ!? 弟子の面倒を見るのが師匠の務めだろ!」


「違うよ八頭仁一。弟子を育てるのが師である私の務めだよ」


「狂ってんな……! おい、黒葬も分かってんのか? こいつはお前がどれだけ傷つこうが死のうが、最後には治すからオッケーってことを言ってるんだぞ。いくらお前を強くするためとはいっても狂ってる」


 僕は疑問を感じた。どうしてそれがおかしいのだろうか、と。

 苦難を乗り越えた先にはきっと光が待っている。それは確実ではないが高確率だ。だというのに仁一君はおかしなことを……ああそうか。


 仁一君は優しいんだ。だから僕が傷つき果てて、本当に死ぬことをを恐れているんだ。でも僕も錬金術師。傷つかない選択肢はない。


「はは、ありがとう仁一君。でも僕は大丈夫。さっきの戦いでより強くなれたし、紅城さんにも感謝してるからさ」


「……なんだよ、お前は常識人ポジションかと思ってた俺が馬鹿だった。お前も十分狂ってるよ」


 僕は少しだけ微笑んで見せた。


「いや、そんなことは今はどうでも良かったんだった。そろそろ小暮の状況を見に行ったらどうだ?」


「え、なんで小暮さんのことを」


「その辺の詳しいことは後で話す。それにお前らに言わないといけないことがある」


 仁一君はどこを見るでもなく、ただたんたんと話した。


「小暮は確かに昔は強かった。でもな、十年前の連盟と今の連盟の錬金術師ではレベルが違うんだよ。だから今の連盟のA級に入れるか入れないかのレベルだ。それに十年前の戦争で、小暮はもう戦える状態じゃない。このままじゃ多分死ぬ」


「そ、そんな!?」


 僕は小暮さんの顔がフラッシュバックする。


 どこかずれていて、それで秘密だらけで分からない人だった。それでも僕たちの味方で、良い人であったことに違いはない。


「僕は今から小暮さんの元に行く」


「私も行きます!」


 一色さんも名乗りを上げた。


「私も一応ついて行く。もし最悪の状況だった場合、私が黄道十二星を倒さないといけないからな」


 三人の意向に、仁一君は静かに頷いた。


「分かった。じゃあ俺はここで応援が来るまで守っておく。あとで俺も向かうから絶対に死ぬなよ」


「生意気な奴だなあ。私がいるんだから死ぬわけ無いだろボンボンめ」


「一番心配の種がお前なんだよ。お前が自殺志望者だとしても、他の二人は違うんだからな」


「へーへー反省しておりやす」


「こんのクソ女……!」


 一通りのやり取りが終わった後、避難者を守るため残った仁一君を置いて、僕たちは小暮さんの状況を調べに向かった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 これにて第二章は終了です。

 話が中途半端で終わっているように見えますが、安心してください、そういう仕様です。もちろん三章はこの話の続きからです。

 そして中途半端に見えるとは思いますが、一応キリがいいところまで来ました。という訳で、三章でまたお会いしましょう!

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