第三十七話 誇り

「おい、しっかりしろ! ぼさっとすんな」


「あ、すすすみません!」


「ったく、何回目だ。お前は一応人の命を預かってんだからな」


 病院に立てこもる避難者たちは、今二人の錬金術師に命を預けていた。


「えと、八頭さん」


「俺を名字で呼ぶな。仁一って呼んでくれ」


「仁一さんはどうして助けてくれるんですか?」


 一色は避難者たちの怪我を癒している所であった。

 一方八頭は、侵入してこようとする妖を一人で迎え撃っていた。


「人を助けるのに理由はいらねえ、とか言えたら良かったんだけどな。ただの嫌がらせだよ」


 八頭は自身の影から黒い槍を取り出した。そして入り口のバリケードに群がる小さい妖たちを、一網打尽に倒していく。


「はあ、いつになったら水瓶座? とやらの次元錬金はとけるんだ」


「それは……小暮さんが頑張ってくれてますから」


「小暮? ……ああ、昔の英雄か」


「知ってるんですか?」


 すると八頭は頭をかいた。


「十年前の戦争、二人のS級の内の一人だろ? 連盟抜けてからの話は聞かなかったけどな」


「十年前?」


「ま、知らなくていい話だ。んで、他に誰が一緒に戦ってるんだ?」


 一色は疑問に思った。小暮さんは元S級だ。妖と戦い負けるビジョンが思いつかないのだ。


 確かに一色は小暮と共に戦いたかった。だが自分が足手まといになり、小暮さんが満足に戦えないと考えたから、小暮さんを一人にしたのだ。


「一人……? 相手は黄道十二星。肝心の小暮はあれだ。普通に考えて……」


 死ぬ。


 最後まで言い切らずに、八頭は口をつぐんだ。


 この一色とかいう女は小暮のことをかなり慕っているらしい。そこで俺が死ぬだのネガティブな考えを話すのは悪い選択だ。

 話せば最悪一人でも助けに行くとか言いかねない。


 そうだな、小暮は気になるが今ここを抜け出すわけにはいかない。せめてあの二人が戻ってきてくれれば……。


「あ、あの化け物は一体何なの!」


 すると避難者の内の一人が騒ぎ始めた。


「ぁん?」


 八頭だるそうに視線を向けた。


「あんな化け物を前にしてどうしてそんなに落ち着いていられるのよ! しかも何!? 錬金術はマジック程度の物じゃないの!?」


 その発言を皮切りに、避難者たちがぞくぞくとネガティブな会話を伝播させていった。


「そ、そうだ! 本当はお前ら錬金術師と化け物は繋がってたんだ!」


「そうに違いない! そうじゃなきゃ何で俺たちは化け物もお前ら錬金術師も知らないんだよ!」


「隠してたからじゃないの!?」


「そうなれば政府が黙ってないぞ!」


「そうだそうだ! この化け物の仲間が! 死ねよ!


「うるせえええッ!」


 八頭は思い切り壁を叩き、声を荒げた。


「黙って聞いてりゃ何なんだよお前ら。そこの一色って言う女の錬金術師に治療してもらったんじゃねえのか? あいつら化け物に勝てねえから守ってもらってんじゃねえのか? 死にたくないから俺たち錬金術師に頼ってんじゃねえのかよ!」


 その言葉に避難者たちは口をつぐんだ。


「俺たちは錬金術師なだけで正義のヒーローでも何でもない。ただの慈善活動ってことを忘れんな。誰もお前らみたいな騒ぐだけの馬鹿が死んだところでな! 悲しまねえしどーでもいいんだよ!」


「仁一さん! 言い過ぎです」


 今度は一色が声を荒げ、八頭の発言を止めた。


「……悪い、熱くなり過ぎた」


「……」


「俺は錬金術師としてに誇りを持ってる。確かに中には俺の親父みたいにどうしようもねえカスもいる。それを見てお前らがどうこう言うのはいい。でもお前ら何にも知らねえだろ。知らねえくせに偉そうなこと言うなよ。こんな時こそ助け合いだと聞かされてきたが間違いだったらしいな」


 その言葉を聞き、避難者たちの中に再び野次を上げようとする人は誰一人としていなくなった。


 そんな時、


「仁一君!」


 二つの人影がこちらへ向かってきているのが見えた。

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