第三十話 諸刃の切り札

 次元錬金・強制刻令。


 それは小暮の最大の切り札であり、諸刃の剣であった。


 小暮は自分の作ったルール命令を、強制的に従わせると言う物だ。


 だがその効力が強力であればあるほど、小暮の代償も大きくなる。


 十年前、彼は二回サダルスウドに次元錬金を使用した。


 一回目、サダルスウドが人を喰うことを禁じた。その代償に小暮は残りの寿命の半分を失った。


「いやあ、あれはキツかったなあ」


 二回目、サダルスウドの呪いによって、人を殺し吸収することを禁止した。その代償に、小暮は固有錬金を封印された。


 固有錬金とは、普通の錬金術を応用した高等技術だ。


 能力の強さ順に言えば、次元錬金>固有錬金>錬金術となる。


「寿命は仕方ないにしても、固有錬金封印は代償としては大きすぎたな」


「だまれ、死ね」


「君は死ねしか言えないのかい?」


 そして今三回目、サダルスウドがこの廃墟の教会から出ることを禁止した。その代償に小暮は内臓の組織をいくつか破壊された。


「悪いがここでわたしと共に死んでもらおう。十年分の殺意生きがい、受け止めて貰うとするか」


「そ、の、ぼろ、い、銃、おもちゃ、で、か?」


 サダルスウドは黒い影を伸ばし、辺りを覆っていった。


 不確かなそれは、影を纏っていき、次第に竜のような姿をとった。


 ゆらゆら、ゆらゆら、ゆうらゆら。


「次元錬金・暗夜祭典あんやさいてん


「やはり使えたのか……!?」


 効果が発現しきる前に殺そう。


 そう考えた小暮は、サダルスウドに焦点を当てる。妖には核があり、それを破壊すれば殺すことができる。


 だがサダルスウドは陽炎のようにゆらゆらと不確かで、核の場所が分からない。


 それに加えて、暗くて視界が悪い。壊れた天井から差し込む日の光も無くなっていく。


 ん?


 小暮は異変を感じ取り、空を見上げた。


 するとなぜか昼間であるはずなのだが、空が真っ暗だった。


「どうなってるんだ……?」


「まだ、だ、ぞ? 探偵」


「チッ」


 小暮はサダルスウドに向けて、銃弾を一発発砲する。


 だがそこには何もないかのように通り抜けていった。


「固有錬金・裏影統率かえいとうそつ


 直後、空に無数の亀裂が走った。


「ははは、さっすが高位の妖。兵隊を呼べるのか」


 亀裂は砕けるような音と共に広がり、そこから大小形状様々な妖たちが這い出てきた。


 ざっと百体以上。わたし一人でいけるか……?


 小暮の背筋に冷たい汗がつたっていく。


「どう、し、た? 顔が、目、から、光、消え、たぞ?」


「わたしを舐めるなよ。雑魚を何体呼んだところで……」


 妖たちは小暮に向かって落ちてきたり、飛んできたり様々な行動をとった。だが全ての妖がそうしているのでは無く、あくまで一部だけであった。


「まさか」


 サダルスウドは歪な口角を上げた。


 サダルスウドは人を喰うことができない。小暮の次元錬金により禁じられた。


 つまり普通の妖なら、共食いをしない限り、食事をすることができず死ぬ。


 だがサダルスウドは生きている。共食いをしたからだ。


 小暮の次元錬金は、対象そのものに制限はかけることはできても、関係する対象以外のものには効力はない。


 つまるところ、サダルスウドに呼ばれた妖たちは人を大量に喰う。そしてその妖をサダルスウドが喰うことによって、大量に喰い続けることができる。


「仲間意識も無いのか、クソ野郎め」


「け、いせん、ぎゃ、く、てん、だなああああああああ」


「黙れ……杏子の仇だ。君みたいだが一言、死ね」


 小暮は再び銃を発砲させた。


「むだ、な、こと、を」


「それはどうかな?」


 小暮はうすら笑いを浮べた。


 その時、銃弾は壁に激突するかと思いきや、不自然な方向に弾かれた。


 そしてその弾かれた弾丸は反射を繰り返し、的確に妖たちの核を貫いていった。


 妖たちは一掃され、灰のようになって消えていくも、


「キリが無いな」


 どんどんと妖たちが流れ出てくる。恐らく何体かは撃ち逃しただろう。


「せめてサダルスウドお前だけでも……!」


「小暮さん!」


 振り返ると、そこには見慣れた三人の姿があった。




※ ※ ※ ※ ※


キリ良く三十話まで来ることができました! お読み頂いてくれた皆さん、応援してくれた皆さん。本当にありがとうございます!

不定期更新ではありますが、何卒これからもよろしくお願いします!

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