第三十一話 A級の戦い方
「丁度いいところに来た! わたしはサダルスウドとその他数体を相手する。君たちは外に出た妖を頼む」
「で、でも小暮さん」
「頼む」
小暮さんがもしも全力を出せる状態だったのなら。
もしも小暮さんが、口から血を流していなければ。どんなに早く行動に移すことができただろう。
「行こう」
「紅城さん?」
「あれが小暮さんの望みだよ。それに腐っても元S級。簡単には負けないさ」
そう言っている紅城さんの表情も明るくはない。
だが僕がここにいる事で、小暮さんにどれほどのメリットがあるだろう。
紅城さんならまだしも、僕なんかが残って下手に足手まといになってしまったら。
「……ぐっ」
僕は拳に力を込める。そして小暮さんに気休めにもならない言葉をかける。
「頑張ってください」
「はは、それは依頼でいいかい?」
彼の浮べた笑みは、僕には重かった。
「私は、ここに残ります」
一色さんは立ち止まった。
「一色さん、君にできることは何も……」
「そんなことわかってます!」
一色さんは、紅城さんの言葉を途中で断ち切った。
「でも、そばに居たいんです。私の錬金術は人を癒せます、足手まといにはなりませんから……」
「駄目だ」
今度は小暮さんが話を断ち切った。
「言っただろう。わたしは君たちを死なせるつもりは無い。紅城君と黒葬君は妖を連盟の連中と頼む。一色君はけが人を癒してくれ」
「で、でも!」
すると小暮さんは、空に向けて一発銃を放った。
「頼んだよ」
それは拒絶だった。
これ以上自分に関わるなと、そうとれる意味合いの号砲だった。
僕たち三人は廃墟の外に出た。廃墟には結界が張られ、中に入りなおすことはできないようになった。結界がどちらの錬金術なのかは分からない。
そして外の様子はまるで地獄のようだった。
昼間のはずなのに空は昏い。普通の日常を送っていた人々は化け物に襲われている。たった一体の妖がこれを引き起こした。
「ひどいな……こんなに妖がうろついてるのは初めて見る」
紅城さんは肩から掛けてある細長い布袋を手に持つ。
「私と黒葬君で一色さんを病院まで送り届ける。恐らく病院が避難所になってるだろうし、けが人がいるはずだ。君の錬金術は人を癒せるんだろ?」
「……」
一色さんは返事はしなかったが、首を縦に振った。
「話は聞かせてもらったぜ黒葬」
その時、僕は背後から名を呼ばれた。
「仁一君!? どうしてここに」
「よお、久しぶりだな。連盟から要請があったんだよ」
そこにいたのは、試験を受けたときに共に行動をした八頭仁一の姿があった。
「護衛は俺に任せろよ。ここから病院までは俺一人で事足りる。お前と紅城センパイは住民を守ってくれ」
「仁一……矢頭家か」
紅城さんは神妙な面持ちで呟いた。
紅城さんも彼を知っていると言う事は、彼は有名人なのだろうか。
「黒葬君、行こう」
紅城さんは狐の面を被ると、僕の手を引いた。
「はい。じゃあ仁一君、頼んだ!」
「任せときな」
再会もすぐに終わり、仁一君は一色さんを連れて走って行った。
「さあ黒葬君、特訓の成果の見せ場だ。一気に行こう」
「が、頑張ります!」
すると紅城さんは前方に大きく跳躍し駆けて行った。
相変わらずとんでもない身体能力だ。約十メートル先まで一瞬で跳ねる。
僕も全力で走って追いかけるも、後ろに追いつくことで精いっぱいだった。
「私が妖を倒すから、討ち洩らしを確実に頼む!」
紅城さんは布袋から、日本刀を取り出した。
そして前に巨大な鶏のような見た目をした妖が現れた。
彼女はその妖に向かって跳躍し、日本刀の柄を握り、さやから一気に引き抜いた。だがその日本刀には刃が付いていなかった。
「紅城さん!」
彼女はそれを知っているのか知っていないのか、気にする素振りも無く空中で横に一閃。
普通ならば空ぶって終わっていただろう。だが次の瞬間、
「!?」
妖は上下に切断され、切断面からあふれるほどの業火に焼かれていった。
すぐに炎は全身を包み込み、妖は消滅し始めた。
あの妖もそこそこの力を持っていたはずだ。だが紅城さんの一撃で絶命した。
以前の自分なら何が起こったか分からず、混乱していただろう。
だがいまなら少しわかる。紅城さんは刃のない刀で妖に斬りかかった時、自身の錬金術で、一瞬だけ炎の刃を作り出していたのだ。
斬り終わった後は錬金術を切ってしまえば、あたかも妖は自分から勝手に切断されたように見えるわけだ。
それは素晴らしい圧巻の技術だ。
これがA級の戦い……!
「さ、どんどんペース上げていくぜ」
「ははは、僕の仕事ありますか……」
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