第二十七話 起源
小暮は錬金術の研究にて、一つの仮説を立てた。
「錬金術の起源は、中世ヨーロッパから始まった。当時の資産家たちが、鉄を金へ換えて儲けようとしたのが始まりだ。結局鉄を金にすることは不可能という結果にはなったが、その過程で得る物はたくさんあった。現代の化学の原点は錬金術だと言えるだろう」
小暮は、スーツを着た男たちにスピーチを披露していた。
「とまあそんな前置きは置いておきましょう。わたしが話したかったのはここからです。そう、今言ったように、元の錬金術は今の時代のような魔法みたいなものでは無かった。そこでわたしは考えました、現代の錬金術は錬金術ではないのではないかと」
すると空気が乱れ始めた。
ざわざわと誰かと誰かの話し声がひしめき合っている。
「つまり、今わたしたち連盟に求められていることは一つ。現在錬金術と呼ばれているナニカを知ることです。ブラックボックスの力をあてにするほど、世界は甘くない。だが逆に考えれば、この力をもっと知ることで世界をも変えることができるかもしれないと言う事です」
会場は拍手に包まれた。
見渡せば、総理大臣、政府の重役、世界で指折りの研究者などの顔が見えた。
きっとこれは何かの茶番だ。小暮は拍手の盛り上がりと反比例するかのように、心が沈んでいった。
この頃、小暮は錬金術に対する特別な思いは無く、ただの研究対象でしかなかった。
初めは世界をも変える力だと思っていた。
それは今も変わってはいないが、その力が汚い政治や大人たちの財産になっていくと思うと、どうしても意欲が失せていったのだ。
だが彼は人生で最も気分が高揚していた。
それは数日前のこと。杏子から妊娠していることを告げられたのだ。
最新のエコー機によると女の子らしい。
小暮にとって、生きる意味とは妻と娘を守ることであり、仕事を完璧に行う事ではなくなっていたのだ。
その生きる意味が、彼に光をもたらしていた。
そんな中、とある一人の連盟錬金術師の裏切り、そして黄道十二星の台頭によって大規模な戦いが勃発。
人々は、後に夜刻錬金戦争と名付ける。
時は進み、夜刻錬金戦争終盤にて。
「杏子!!」
小暮は声がかすれるほど、何度もその名を呼んだ。
だが彼女には恐らく届いていないだろう。
杏子は、全身から光の無い影に蝕まれていた。
それは夜刻錬金戦争の一連の被害の一部であった。
「どうして、何で……」
彼女は反応を示さなかった。
研究室でずっと寝たきりだった。
杏子は呪いにかかっていた。呪いとは、黄道十二星の水瓶座と呼ばれる妖による錬金術だ。
周りから見れば、ただ眠っているように見えるが、妖の見える錬金術師には呪いがはっきりと見えた。
呪いの被害は杏子だけではない。その他大勢の民間人が被害にあった。その数ざっと二千五百人。
呪いは人の身体を蝕み、破壊し、術を使ったサダルスウドに吸収される。
つまり呪いを受け、完全に発動してしまえば確実に死ぬ。
一見チートのような能力だが、欠点はある。
それは―――
「杏子、安心してくれ。わたしが必ず助けるから。水瓶座なんてすぐに倒せる。だからもう少しの辛抱だ」
「……ろ……て」
「!?」
杏子が何か言葉を発したのだ。
小暮は一言一句聞き逃すまいと、耳を杏子の口元に近づけた。
「私を殺して。あなたに殺されたい……」
「は、はは、何を言ってるんだ。大丈夫だ、今君は弱気になっているんだ。でも諦めなければきっと助かる。わたしはS級なんだ、強力な錬金術が使える。きっと助けるから」
「殺して……苦しい……どうか楽に」
「ッ―――!」
小暮は心が傷つけられているのを、音として感じ取った。
ガリガリ、ガリガリ、ミシミシ、と。
呼吸の仕方も忘れ、変な音を喉から出していた。
「わた、しは……」
「馬鹿な奴だな、お前は」
夜刻錬金戦争の原因の一つとなった人物が、研究室の入り口に立っていた。
「黒葬……時景!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます