第二十五話 事実

「うん、美味しい」


 小暮さんは美味しそうにコーヒーに舌鼓を打った。


 それにしてもまさか立ち寄った店が、この間一色さんと一緒にきた店だとは驚きだ。


 ここ以外にも店はあるだろうに。おかげで店員にはリピーター扱いだ。


「それでは本題に入ろうか」


 すると雰囲気が一転。


 ピリッと肌を突き刺すような体感に変貌する。


「……隠すつもりは無かったが、わたしは錬金術師だよ。正確にはだけどね。……あまり驚かないか、まあ君たちは優秀だからね。今はみんなも知ってる通り、普通の探偵だよ」


 彼はもう一口、コーヒーを飲む。


 ようやく彼の口から錬金術師という単語が出てきた。だが、元と言う事は今は止めてしまったと言う事。


 つまりやめる理由があったはずなのだ。


 おそらくそこに、重要なヒントが隠されているはず。


「一色君、黒葬君。君たちは黄道十二星、水瓶座、サダルスウドにあっただろ」


―――!?


「何でそれを!?」


「見ればわかる。奴の能力はわたしが良く知ってるからね。奴の能力、錬金術は呪いに近いものだ。十年前、わたしはサダルスウドと戦い相打ちになった。わたしは深手を負ったが、わたしは奴に制約を取り付けた。それの内容は、というものだ」


 だからサダルスウドは共食いをしていたのか。


 妖にとって人を喰うことができないのは、かなりの痛手だろう。


 共食いをして生きながらえることはできるが、人と比べると圧倒的に一体あたりの得られる栄養が低い。


 だから大量に喰い続けなくてはならないのだ。


「小暮さん、その十年前の戦いと言うのは……」


「当時は名前のない戦争だったが、今ではこう呼ばれている。夜刻錬金戦争、と」


 夜刻錬金戦争、それが紅城さんが言っていた戦争であることは間違いないだろう。


「妖は基本的に夜にしか現れない。それは人の生活サイクルに合わせているからだ。妖と唯一戦うことのできる力を持つ錬金術師でも、生活サイクルには準じている。朝に起き、夜に眠る。つまり夜は奴らにとって都合がいい時間帯なのさ」


 そこから彼は、一拍おいて話を続けた。


「だが黄道十二星は違う。なぜなら並の錬金術師が束になっても敵わないからね。夜に戦う必要が無い。だが十年前の戦いでは夜に戦った。他の妖たちと合同で戦っていたからだろう。だが妖よりも何よりも、最も注視しなくてはならない奴がいた。そいつの名前は黒葬 時景こくそう ときかげ。そう、黒葬君、君のお父さんだ」


「父さん……?」


「ああ、わたしと彼は敵対していた。まあ戦争の後のことは知らないけどね。話は変わるが、どうして君たちをあの教会の廃墟に行かせたと思う? 理由はね、私が行っても何も出てこなかったからだ」


「えっ?」


 それはおかしい、サダルスウドは小暮さんが標的のはずだ。


 事実、僕も一色さんも奴から小暮さんを連れてくるように指示された。


 だが小暮さんが行った時、サダルスウドは現れなかった。


「まあ三年ほど前の話だがね。だが一番奴がいそうな場所が廃教会だったからおかしいとは思ったんだ。だから君たちを赴かせた。まさかビンゴだとはね」


「ちょっといいすか、小暮さん」


 紅城さんが話を遮った。


「二人はまだ新米の錬金術師です。そんな危険があるにも関わらず行かせるって、もし水瓶座が出てきたときに死ぬって考えなかったんですか」


「言っただろう、奴はわたしを殺さない限り人を喰うことはできない」


「喰うことができなくても殺さないと言う事にはなりませんよね」


「……うん、いいとこ突くね。君は探偵の素質がありそうだ」


「とぼけないでください」


「安心してくれていい。わたしは二人を死なせるつもりはない。


 僕は小暮さんが、重要な部分をうまく隠しながら話しているようにしか聞こえなかった。



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