第二十四話 追跡

「どこへ向かってるんでしょう?」


「さあな」


 僕たちは小暮さんの約十メートル後ろをつける。


 すると、彼はとある廃墟へと入って行った。


「ここって元々は会社だったらしいですよ」


 一式さんは、スマホを片手にそうつぶやく。


「そうなんだ。どうしようかな、中に入ってもいいけど隠れられそうなところ無さそうだからなー。すぐに見つかりそう」


「あの人ためらわずに廃墟に入っていきましたけど、大丈夫なんですかね……」


「大丈夫だろ、バレなきゃ犯罪じゃないって言うし」


「……」


 中に入るのは簡単だ。


 だが入った後が一番大変だ。


 中は暗く、身動きがとりづらい。


 それは小暮さんも同じだが、見つける側よりも見つけられる側の方がリスクが大きい。


 だが中に入らなければ、小暮さんが何をしに来ているのかは不明なままだ。


 確実に小暮さんとサダルスウドは、何かしらの関係がある。


 調べておいて損はない。


「僕が一人で行ってくるよ。僕一人なら見つからないかもしれない」


「じゃあ私は応援してますね。頑張ってください!」


「私たちは何かあったらすぐ動けるようにはしとく、ガンバ」


 なんだか仕事を丸投げされた気がする。


「お願いします、じゃあ行ってきます」


 僕は今は必要のない忍び足で廃墟へ向かう。


 そしてつまずいてこけかける。


「あいつ……本当に大丈夫か?」


「ははは……」



 中は、埃っぽくて視界が狭い。


 所々備品が破壊され、足元に散乱していた。


 廃墟に忍び込むのは二度目だが、様子がかなり違っていた。


 中は確かに古く、長年人が立ち入っていないようだが、不気味な雰囲気は全くなかった。


 小暮さんを追って進んでいく。


 小暮さんは何かを探しているかのように、きょろきょろと顔を動かしながら歩く。


 そして最上階まで来た。


 最上階とは言っても、景色は何ら変わりない。


 小暮さんはこの建物で一番大きいであろう部屋へと入って行った。


 ドアは開けっ放しにされ、外からでも中の様子がうかがえた。


 だが特に変わった様子はない。


 違和感と言えば、小暮さんはどうしてこんな何もないような場所に一人で来たのか。


 毎日ここへ来ているのか、それとも今日たまたまここへ来ただけなのか。


 だがなぜ?


 小暮さんは一人部屋に立ちつくし、誰に言うでもなく呟いた。


「ここもハズレか」


 ハズレ?


 どう意味だろう。


 すると考える暇も無く、彼は元来た道を戻り始めた。


 マズい、このままだと鉢合わせてしまう。


 僕は方向転換し、逆向きに早歩きをする。


 だが、足元に転がっていたガラクタに足を引っかけ、盛大にこけた。


「痛……」


「誰だ!」


 終わった。


 小暮さんは一秒も立たないうちに僕の目の前へと現れた。


「黒葬君!? どうして君がここに?」


「あはは……かくかくしかじかで……」



「大丈夫ですかね、黒葬さん」


「いやー十中八九見つかって来るだろうな」


「え?」


「君は知らないと思うけど、黒葬君はびっくりするぐらい頼りないんだ。きっと大事な局面で転んだりするよ」


「助けないんですか?」


「うん。助けたら助けられ癖ができるからね。失敗しても誰かが何とかしてくれる、段々そんな考えになってくる。私はそうなって欲しく無い。かわいい子には旅をさせよって言うだろ」


 すると案の定、黒葬と小暮が並んで廃墟から出てきた。


 黒葬は目を泳がせ、申し訳そうな顔をしている。


 一方小暮はやれやれと言った表情を浮かべた。


「全く、三人して付いてくるとは。それに久しぶりに見る顔があるな」


 紅城は目線をそらした。


「あー、そ、そういやそうですね。久しぶりですね小暮さん」


「それで、どうしてこんな所にいるのか。話を聞かせてもらってもいいかな」


 すると黒葬は、


「分かりました。でも僕たちも小暮さんに聞きたいことがあります。いいですか?」


「……まあそうだろうね。ここじゃなんだし、近くでコーヒーでも飲みながら話そうか」

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