第二十一話 理由

「おい、まさか出会って数秒でこけるとは」


 紅城さんはやれやれと言ったジェスチャーをする。


「たはは、すみません」


 一色さんは申し訳なさそうに笑った。


「それで……」


「じゃあまず初めに聞きたいんだけどさ、君何で錬金術師やってるの?」


「え……?」


 一色さんは戸惑いの声をあげる。


 僕が白洲さんに問いかけられた質問と同じだ。


「みんな思ってると思うんだよね。錬金術が、なんで昔みたいに物を価値あるものに変化させる使い方をされていないのか。どうして妖は人を殺すのか。連盟は何の目的で作られたのか」


「……」


「私はさ、何にも考えてない奴が嫌いなんだよ。そこにいる黒葬君、彼は彼なりに考えてると思うんだよ。私から見りゃあすごく非効率的だなあ、なんて思わなくもないけど」


 なぜだか唐突にディスられた。


「正直さ、錬金術なんて別にどうでもいいんだよ、誰が死のうがさ。人なんて結局死ぬし、いつ死んでもおかしくないほど弱い。だからこそ自分が守りたい人は絶対に守りたい。だから私はどうでもいい、目的が達成できればね」


 彼女は狐のお面をくいと持ち上げる。


「私は……!」


 一色さんは一歩前に踏み出す。


「私は尊敬してる人がいるんです。いつも何食わぬ顔で依頼人の依頼を完璧に遂行する。そんな人に憧れています。いつかそんなふうになれたなら、そんなことを思いながら錬金術師になりました。確かに錬金術師は危険が伴いますし、それなりの覚悟があってなるものだとも思います。でも私は誰が死んでもいいとは思いません」


 言い切った。


 僕は基本的に紅城さんの意見に賛成だ。


 助けたくもない人を無理に助ける必要なんてない。


 助けたい人だけを助けられればいい。


 でも一色さんは逆だ。


 ヒーローとはこういう人のことを言うんだろう。


 あきらめずに他を救う。


「へえ、なるほどね。私の意見とは間反対だな」


「す、すみません」


「気に入った。よし、じゃあ始めようか」


「え!?」


 彼女は驚きを隠せない様子で僕のことを見てきた。


 僕は目線をそらす。僕を見ても何も分からないよ、の意だ。


「言っただろ、私は考えて行動する奴は好きだ。別に意見が違ったくらいで嫌いになんてならないよ」


 仮面越しに彼女は笑った、ような気がした。


「じゃあここで重大ヒントをあげよう」


「ヒント?」


「君の尊敬する小暮さんはね、連盟のことをずっと前から調べてる」


「小暮さんを知ってるんですか!?」


 小暮さんは有名な人なのだろうか。


 でも残念ながら僕は一色さんに会うまでは聞いたことも無かった。


「私はこれでもA級だからね。いろいろと情報は持ってる。あと今から話すことは他の誰にも言うなよ」


 僕は固唾をのみ込む。


 もしかすると今一番欲しい情報かもしれない。


「この国と連盟はずぶずぶの関係だ。いや、国と言うか世界かな。おかしいとは思わなかった? あれだけ試験で人が死んでるのにも関わらず、ニュースにもならない。妖の存在は私たち錬金術師しか知らない。もうここまで言えば分かると思うけど、連盟は国と言う道具を使って途轍もない力を持ってる。政府以上の力を持ってるかもね」


 あたりに人がいなくて助かった。


 僕たちにとっては真面目な話だが、周りから見れば漫画や幻想の世界の話だ。


「まあ謎だらけの怪しさ満点の組織を調べてるのが、君の尊敬する小暮さんだよ。きっとあの人は私以上に情報を持ってるだろうね。絶対教えてくれないんだろうけど」


 薄々は気づいていたが、僕も小暮さんは何かを隠そうとしている気がしてならない。


 あの人はきっと頭が良く回るのだろう。


 何か遠回しに使われている気がしてくる。


「妖が人を食べる理由。これは簡単なんだけど、彼らは人と同族しか食べられないようになってる。そりゃ共食いか食材を食すか、だったら人を食べるだろ。それにどうやら人っておいしいらしい」


 空気が一段と冷え切っていく。


 理解すれば理解するほど恐ろしくなっていく。


 連盟は果たして人を守るための組織なのか?


 妖は一体いつから存在していた?


「と、まあ今話したことは秘密の方向性で。他の錬金術師は馬鹿ばっかりでさ、お金につられて何も考えずに妖を狩ってるやつだらけ。だからこうやって考えて動ける味方が欲しかったんだよ。あ、もし今の話したのバレたらワンチャン三人そろって首ちょんぱだから」


 そのレベルの話だったのか……。


 今考えるととんでもないことに首を突っ込んだものだ。


「よし、重めのジャブを挟んだところで特訓を……」


「あ、紅城さん! 最後に一つだけ」


 僕は歩き出そうとした紅城さんを呼び止める。


「どした?」


「昔の僕をんですか?」


「……さあ、何のこと?」


 僕にとっての大きな謎。


 どうして彼女は僕を一目で錬金術が使えると分かったのか。


 どうして初めてあった僕に目を付けたのか。


 彼女は人を見る目だけはある、とだけ言っていたが何かしらの理由はあるはずだ。


 そこで僕は仮説を立てた。


 彼女はんじゃないか?

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