第二十話 過去

「黄道十二星?」


「はい、今各地で暴れ回っている妖たちの組織です。何か知りませんか?」


 紅城さんは眠そうな眼をこすった。


「何でそんなマイナーな奴ら知ってるんだ?」


「え?」


「いや、マイナーは違うか。元々は確かに滅茶苦茶にでかい組織だったよ。でもそのほとんどが十年前に壊滅的なダメージを負って、大分縮小したんだ」


 十年前に壊滅的なダメージ?


 いったい何があったんだ?


「十年前に何があったんですか?」


「んーと、確か当時のS級中心に戦争レベルの戦いがあったんだよ。その時の敵が黄道十二星だった、って話だったと思う。まあ戦争とは言っても、普通妖と一般人が関わることなんてないから、世界大戦とかほどの規模でもないけど」


 彼女はソファにクッションを置き、毛布を広げる。


「私は任務で疲れた。寝る、おやすみ」


「おやすみなさい」


 そう言うと、彼女は数分で寝息を立て始めた。


 当時のS級。


 錬金術師と妖の間で行われた戦争。


 妖は一般の人の目には写らない。


 だが写る時もある。


 それは妖によって襲われるときのみだ。


 妖は特性上、多くの人間がいる場所へ現れない。


 確実に少人数のところを狙いに来る。


 だから妖のことは世間一般に認知されていない。


 もちろん報道規制なども連盟によってされてはいるだろうが。


 十年前にあったと言われる戦争が、黄道十二星との戦いのヒントになる気がした。


 そんなことを思っていた時、自分のスマホからメールの着信音が鳴った。


 自分のメールの着信音を聞くのはいつぶりだろうか。


 僕は自嘲気味に笑う。


 迷惑メールではないだろうかと思い、フォルダを開いてみる。


「明日時間空いてますか? もしよければ錬金術の練習に付き合ってほしいです」


 それは一色さんからのメールだった。


 実は学校の帰りに連絡先を交換していたのだ。


 だけど弱ったな、僕の錬金術は特殊過ぎてあまり参考にならない気がする。


 それに僕自身あまり錬金術に詳しくない。


「ごめん、僕はあんまり錬金術に詳しくないんだ。他の人に聞くと良いと思う」


 僕がそう送ると、すぐに彼女から返信が来た。


「そうですか……。でもほかに錬金術師の知り合いいないんですよね」


「なら僕の先生紹介しようか? 錬金術教えてもらうには丁度いいと思う」


「お願いしてもいいですか?」


「うん。聞いてみるよ、日にちはまた」


「ありがとうございます。おやすみなさい」


「おやすみ」


 僕は一通りメールを終えると、紅城さんの方を見る。


 彼女は毛布をかぶり、気持ちよさそうに寝ていた。


「よっぽど疲れてたのかな。僕も気持ちよく睡眠ができるようになるまで頑張らないと」


 そう、僕の目指すべき場所は、錬金術なんか使わなくてもいい世界。


 すなわち僕が快眠できる世界だ。



 次の日。近所の公園にて。


「まさか君に錬金術師の友達がいるとはね」


「確かに錬金術師の人って少数派ですよね」


「うん、まあそうなんだけど。私が言いたいのは友達がいるっていう方で……」


「……なるほど、僕友達いないと思われてたんですね」


 すると紅城さんは微妙な笑みを浮かべた。


 つまるところ肯定の意だ。


「んで、錬金術を教わりたいのはどんな奴なんだ?」


「どんな奴……? うーん、キャラが面白い人ですかね?」


 紅城さんは、話を聞くなり二つ返事でオッケーと言った。


 僕は意外にもすんなりと教えてくれることに驚きつつ感謝する。


 そして話はものすごく変わるが、今日紅城さんはジャージを着ている。


 だが驚くべきはそこではない。


 なんと彼女は普段、パーカーとジャージしか着ないのだ。


 動きやすいからだとは思うが、毎回同じような服を着ているので、オシャレしたいとか思わないのだろうか。


「何それ」


「会ってみた方が早いと思います」


 紅城さんは狐の面をつける。


 そんな時、丁度彼女の声が聞こえた。


「すみません! お待たせしました!」


 道の先から、一色さんが手を振りながら走って来る。


 だが僕は嫌な予感がした。


「実は先ほどおばあさんに道案内をして……うわあ!」


 彼女は石につまずき、ぐらりと体が傾き、変なステップをふんだ。

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