第十九話 思い違い
「……」
「……」
「…………」
「…………」
き、気まずい……。
僕たちは廃墟から出た後、再びまた例のカフェに戻ってきた。
今度は二人とも何も頼んでいない。
ほかに客はほとんどいない。
店員さんはにこにこと見てくるだけで、迷惑に思っているそぶりはない。
だからこそ許されることなのだ。
「まず、一週間後のことを考えよう」
「そ、そうですね……」
一色さんの声のトーンが明らかに下がっている。
それもそのはずだ。
自分の尊敬している人が妖のグループと関係していたこと。
もしかすると錬金術師なのかもしれないと言う事。
「そういえば小暮さんには自分が錬金術師だってこと、話した?」
「いえ。そもそも私の錬金術は、使おうと思って使えるものでもないんです。だから言っても信じてもらえないと思います」
使用制限があるのだろうか。
錬金術も、ものによっては使用できる場面が限られるものがある。
彼女もそういう類のものなのだろう。
「一色さんはどうやって試験を受験したの?」
「私は突然家に手紙が届いたんですよ。どこどこで錬金術師になるための試験があるから、みたいな」
僕は紅城さんに教えてもらったから手紙は来なかったが、普通の人はそうやって参加するのか。
でも連盟はどこで錬金術が使えると知ったんだ?
知り合いでもいない限り、錬金術が使える人を探し出すのは不可能なはずだ。
「……それって小暮さんの事務所に入った後?」
「入った後です」
そうか、なるほどな。
確信したよ、小暮さんは錬金術師だ。
「……やあ、遅かったね」
「そうでもないと思いますよ、小暮さん。あなた一体何を企んでるんですか?」
「はは、企んでることなんてないよ。それで? 今日の調査はどうだった? 何か気になるところはあったかい?」
僕と一色さんは事務所に戻った。
そこでは一仕事を終えた小暮さんが座っていた。
彼の仕事内容は知らないが、彼がもし仮に錬金術師なのだとしたら、きっと連盟つながりに違いない。
「小暮さん、土地開発でもするつもりですか?」
「ふむ、土地開発か。それも悪くない、でもわたしがしたいのは解体だけだよ」
「……小暮さん、今日の星座占いは水瓶座が最下位です」
「……そうか、また君に頼みたいことがある。その時は頼むよ」
久しぶりに僕は学校へ登校する。
本当は行きたくなかったのだが、単位を落とすのはまずい。
作戦は単位を死守しつつ、ギリギリまでサボる、だ。
それに今日は紅城さんは、仕事で他の場所へ行っているので家にいない。
そしてさらに理由はある。
なんと一か月後に母親が海外から帰って来ると今朝手紙が届いた。
これはまずい。
せめて学校の話題程度は持って帰らなくてはいけない。
自分の席に座り、顔をうずめ、友達がいないんじゃなくて寝てるだけですよアピールをする。
というか学校でぐっすり寝れる奴は相当稀だと思う。
まあ僕は家でもあんまり寝れないんだけどね、ははは。
おっと、泣きそうになった。
「あのう、黒葬さん? ……寝てるんでしょうか、いや、でも学校で意識が無いほど寝られる人っていな……」
「ん、んん! 良く寝た」
僕は勢いよく顔を顔を上げる。
わざとらしく目もこする。
だって寝たふりしてました、なんて恥ずかしくて言えるわけが無い。
というかやっぱり僕以外にも同じ考えの人はいたようだ。
「それで、どうしたの一色さん」
「おはようです。あの、ちょっと二人きりで話したいことが……」
……ざわざわ。
クラスにどよめきが走る。
いや、たぶんみんなが予想してるような話じゃないと思うけど。
きっと錬金術師がらみだろうな。
「うん、いいよ」
こうして僕と一色さんは教室を出て、普段は使わない階層の階段の踊り場までやってきた。
聞き耳を立てている人もいないようだ。
「やっぱり話って言うのは小暮さんの……」
「私の話し方のことなんです」
全然違った。
恥ずかしいなー、今日は良くひやひやする日だ。
あと僕と一色さんて話が良くズレてない?
「その、昨日聞きましたよね? 私の方言」
「え? あ、うん」
「誰にも言わないで欲しいんです。実は私数年前に引っ越してきたんですけど、方言がなかなか抜けなくて。それでいつも敬語で話してるんです。標準語って思いのほか難しくて」
「そうだったんだ。でも別に僕は気にしないけどな」
「……でもみんなと違うってのはやっぱり心細いことなんです。意思疎通が正しくできてるのか心配なんですよ」
「じゃあ僕と練習してみよう。ちゃんと会話ができていたら、他の人とも安心して会話できるんじゃないかな」
「……お言葉に甘えても良いですか?」
「うん」
「ありがとね、迷惑かけるかもっちゃけどよろしくね」
ちゃけど?
聞きなれない言葉だが、とりあえず僕は笑顔を浮かべた。
「うん、よろしく」
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