第十五話(番外編) デート・by・バトル

「なあ、ゲームも飽きたしデート行こうぜ」


「ぶふうう!」


 僕は飲んでいたお茶を吹き出した。


 デート?


 デートってあれだよな、あの恋人同士が話したり遊んだりするあれ。


 僕と紅城さんは付き合ってないし、いや、でも同棲はしてるのか。


 あれ、よくわかんなくなってきた。


「反応の面白い奴め。男女が一対一で遊びに行くのは基本全部デートって名前が付くんだよ。覚えとけ」


「は、はい」


 ドキドキしている心臓の音がまだ消えない。


 そういうことに全く耐性が無いのも困りものだな。


 僕は今まで積極的に人と関わらなかった過去の自分を、少し恨めしく思った。



「んで、どこ行く?」


「決めてなかったんですね……」


 家の外には出たものの、特に遊べるようなところが思い浮かばない。


 天気は良好。


 気温も丁度いい。


 行こうと思えばどこでもエンジョイできそうな日和だ。


 だが僕には全くと言っていいほど気分転換ができそうな場所を知らない。


 そんな僕をあざ笑うかのように、神社のお稲荷さんの身体が光を反射して輝いている。


「とりあえず散歩でもしながら……ってその狐のお面付けていくんですね」


 彼女はなぜだか知らないが、外出する際などは大体狐の面をつけている。


 僕と出会った時に壊れたはずだが、次の日にはもう同じものをつけていた。


 スペアでも持っているのだろうか。


「妖と言うのはさ、普段錬金術師じゃない一般人には見えないの。でも、妖が現実世界に干渉して、人を殺したり食べようとした時にだけ姿を現す。でも錬金術師は姿が見えない状態の妖ですら見えちゃうからね。妖は目が合った人を集中的に襲うっていう習性があるから目線をできるだけ隠しておきたい」


 なるほど。


 それでお面をつけて無駄な争いが無いようにしているのか。


「まあ正義感強い人は一日中戦ってるけどね。私は無理」


 そうはいってもお面は目立つと思うけどなあ。


 と、素直な感想は胸の奥にしまう。


「もう思いつかねえしゲーセンでいっか」


「外に出てもゲームするんですか。もう達人ですよ」


「褒めても何も出ないぞ。……帰ったらとっておきの紅茶をいれようか」


 そうしてゲームセンターにやってきた。


 店内は数々のゲームのBGMによって楽し気な雰囲気を纏っていた。


 だが僕はあまりゲームセンターに良いイメージを持っていない。


 どちらかと言えば、不良のたまり場というイメージが強い。


 まあ人一人の偏見として聞いてくれれば。


「なあ黒葬君! あれやろー! あのお菓子がぐるぐる回ってるやつ」


 店内に入るや否や、彼女はテンションが上がり切って爆走。


 店員は、彼女のお面を見てぎょっとする。


 僕は必死に彼女に付いて行く。


 この繰り返し。


 僕は何度かクレーンゲームなどをやってみたが、取れる気配すらないので止めた。


 すると紅城さんがさっそうと現れ、


「ほい」


 一瞬にしてクレーンゲームを成功させ、景品を僕に渡すとすぐにまた消えていった。


「どこ行ったんだろ」


 紅城さんを探すも、ゲームセンター自体がそこそこ広いのでなかなか見当たらない。


 そんな時、大学生くらいの男たちが集まっているところを見つけた。


 いずれも髪を染めたりピアスを開けたりと、普段なら近づきたくないような人柄だ。


 だが、なんだか胸騒ぎがするので近づいてみる。


 こっそりと気づかれないように近づき、会話の内容を聞いてみる。


「頼むからあ、お金ちょーだい。絶対次返すからさあ」


「そーそ、俺たち嘘つかねーもん」


 なるほど、お金をたかってるのか。


 絡まれている人はご愁傷さまだ。


 だが僕は先に紅城さんを見つけないといけない。


 そっと離れようとした時、


「頼むからさ、狐のお面の君も痛い目合いたくないでしょ」


 嫌な単語を聞いた。


 僕はよく目を凝らして、男たちの中心にいる人物を覗いてみる。


 そこには案の定、僕が探していた人がいた。


「悪いな、見ず知らずの人にやるお金は一銭も無いね。そんなこと言ってる暇があったらバイトでもすればいいのに」


「んだとこのガキ!」


 今にも殴り合いが勃発しそうな勢いだ。


 まあ本気になれば一人で蹴散らせるだろうが、心配しない理由にはならない。


 すると男の一人が殴りかかった。


 もちろんフリだろうが、僕は自然と体が動いた。


 僕は紅城さんと、男の丁度真ん中あたりに割り込んだ。


 だが中途半端に入ったせいで、見事顔面にクリーンヒット。


「痛ッー」


「うわ!? なんだこいつ!?」


 男たちは戸惑いの声を上げる。


 それもそうだ、突然知らない人が割り込んできたときは純粋に恐怖だ。


「おい、なんかもう怖えよ」


「ああ、行こうぜ……」


 男たちは若干引き気味に去って行ってしまった。


「おい、大丈夫か?」


「鼻血が出たぐらいだから大丈夫です」


「何でかばったんだ、私一人で全員ボコボコにできるのに」


「それでも……やっぱり駄目ですよ。女の子ですから」


「……はふー」


 彼女はぎゅっと狐の面を抑えた。


「ありがと。……帰ったら紅茶とお菓子もだすよ」


 そう言うと僕の顔をハンカチで拭いてくれた。


「ほら、帰るぞ」


 僕にはそれが照れ隠しにしか見えなかった。


 顔は確かに隠れていて見えない。


 だが耳の色味が赤くなっていることに、本人も気付いていないようだった。


「楽しかったですね」


「君殴られただけじゃ……」


「一緒に遊べて楽しかった気持ちの方が大きかったですよ。……え、ちょっと何で殴ってくるんですか、え、何でですか? ちょ、痛たたたた!」


 とある二人の奇妙な日常より。

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