第九話 生

 僕は錬金術など、自分に使えるものはすべて使って急いだ。


 仁一君はああ言っていたが強がりだ。


 勘違いされそうだから言っておくが、仁一君は相当強い。


 僕は直感でそう悟った。


 だがあの妖は桁違いに強い。


 もはやレベルが違うと言ってもいい。


 悔しいが、今の僕のレベルでは仁一君の足手まといになってしまう。


 でもただの足手まといにはならない。


 凌士君を肩に担ぎながら、足をせかせる。


 すると入り口が見えてきた。


 だがやはりは発動していたようだ。


 多くの人が血を流し倒れていた。


 否、倒れている全ての人間が全て死んでいた。


 妖とは明かりが強いほど出現しにくくなる。


 だから比較的明るいこの場所は妖が出現しにくく、ほぼほぼ安全地帯と言って相違ないだろう。


 だから仕掛けを作ったのだろう。


 この場所には妖を呼び寄せる錬金術式が埋め込まれていた。


「起動型の錬金術……それもかなり高度」


 僕は何となくでしか判別できなかったが、仁一君ははっきり気づいていたはずだ。


 このまま真っ直ぐ入口へ向かって行きたいところだが、そううまくはいかないようだ。


 大型の妖。


 トカゲのような見た目をしているそれの口には、多くの人間を喰った時に付いたであろう血が光っていた。


 以前の僕なら足がすくんで動くことができなかっただろう。


 しかしあの人型の妖を見た後では、特に何の感情も覚えなかった。


 沸き上がった感情と言えば、


「邪魔だな、時間が無いんだよ」


 僕は錬金術をフルに使って木刀で妖の脳天を貫こうと考えた。


 だが、妖の手には女が一人捕まっていた。


 妖がそれを見せつけて笑う。


 どうやら知能があるらしい。


「た、助けてください!」


 彼女はそう叫んだ。


 だが彼女が捕まっているとしても、凌士君を助けるためには無視するのが最適解だ。


 何度も言うが僕は他人が死のうとどうだっていい。


 だって他人を助けたところで、何か得するわけでもないし、助けなかったからと言って自分にペナルティがくだる訳でもない。


 が、僕は凌士君を肩に抱えたまま妖に向かって走った。


 妖は僕の行動は予想外だったのか、一瞬たじろいだ。


 だがその一瞬で良かった。


 錬金術を使い妖の懐まで入ると、木刀を女を掴んでいる手めがけて思い切り叩きつけた。


 女が妖の手から落ちる。


 妖に人質がいなくなったのを確認すると、僕は錬金術を木刀に使用し、その木刀で妖の顔面を吹き飛ばした。


 妖が死に、ボロボロと灰のように消えていく。


 僕は人質になっていた女に声をかけた。


「大丈夫、ですか?」


「は、はい! ありがとうございました」


 彼女はぺこぺこと頭を下げる。


 怪我がないことを確認すると、僕はインテリ男の元へ走った。


 あの人は強そうには見えなかったが、一応この試験の監督役だ。


 仁一君を手助けすることぐらいはできるだろう。


 外に出ると、五人ほどが外で待機していた。全員血が出たりと、怪我をしている人がほとんどだ。


 だが一番の違和感は、やはり人数の少なさだ。


 他の人たちはもうほとんど生きていないのだろうか。


 いや、今はそんなことどうでもいい。


 僕は大きな石の上に座っている監督役の男を見つけると、彼の元へ急いだ。


 彼の元へ着いた時、僕の息は完全に上がってしまっていた。


「はあ、はあ、すみません。中で、妖に襲われている人がいるんです」


 僕は凌士君を地面に横たわらせる。


 凌士君の出血は止まっていたが、顔色が悪い。


 急いで病院に向かわなければならない。


 だが監督役の男の返答は、僕の想像とはかけ離れたものだった。


「それで、なんでしょう」

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