第七話 馬鹿と言う男

「言ったぞ、これで俺たちゃ仲間だな」


「……」


 八頭君は苦虫を潰したような表情をしている。


 だが何を言っても諦めてもらえそうになかったので、僕の時と同じようにため息をついた。


「……八頭仁一だ」


 すると鉢巻男は満面の笑みを見せ、グッドサインを出した。


「俺は汀 凌士みぎわ りょうじだ。凌士と呼んでくれ、よろしくな!」


「僕は黒葬歩です」


「よし、歩と仁一だな。覚えたぞ、三人で合格しよう!」


 テンション高いなあ。


 というかこんな感じなら、他にも組んでくれそうな人がいただろうに。


 なんでわざわざこっちをつけてきた来たんだ?


「なぜ俺がこっちをつけて来たか、疑問そうだな歩」


「え、ああ、はい」


「簡単だ、お前らが強そうだったからだ」


 あ、結構安直だった。


「俺の術は正直言って妨害向きで攻撃に向いてない。だから攻撃が強そうなやつらが良いと思ってたんだ」


 確か物質をガラスに変換するんだったよな……。


 普通にその能力を聞いただけでは、あまり戦闘向きではなさそうだが、どう戦うのだろうか。


「おい、お話は後だ。来たぞ」


 仁一君の声に反応し、周りを見渡してみる。


 すると多くの妖たちがこちら迫ってきていた。


 体も小さいので、そこまで強い妖ではなさそうだが数で押されると厄介だ。


 一点に力を集中させ、そこから脱出するのが最適だろう。


「よっしゃあ!全員ぶっ飛ばすか!」


 ああ、うん。


 なんか違うんだよなあ。


 こう僕と仁一君のノリと、凌士君のノリがかみ合ってない気がする。


 まあ生き残って合格できればどうでもいいことだけどさ。


「ふんッ!」


 凌士君は地面に手を付けると、錬金術を発動させた。


 すると何が起こったか。


 妖たちの体の半分が地面に埋まったのだ。


 いや、正確には落ちたというべきか。


「それがお前の錬金術か……?」


「おう! 俺の錬金術は変換系の奴だからな。一番代償のリスクが少ねえし、何より足止めに便利だ!」


 錬金術を使うには代償が必要だ。


 紅城さんも言っていた通り、一から二を作り出すことはできても、ゼロから一を作り出すことはできない。


 代償を支払い、その対価として自分の望む事象を起こすことができる。


 だが変換系の錬金術に関しては、が代償となる。


 つまりほとんどノーリスクで発動させることができるのだ。


「それにしてもこれは……すごいな」


 妖たちの周りには割れて砕け散ったガラス片が散乱しており、妖たちの大半がダウンしていた。


 おそらく彼は妖たちの足元の材質をガラスに変化させたのだ。


 そうすることによって、妖たちの重みに耐えきれなかったガラスが割れ、妖たちを動けなくしたと言う事だろう。


 なるほど、さっき全員ぶっ飛ばすと言っていたのもあながち嘘では無かったわけだ。


「お前、何で俺たち付けてきたんだ? 一人でも生き残れるだろ」


 すると凌士君はちっちと指を振る。


「妖って見た目怖いじゃん。一人の時にあんなに一気に来られたら普通に失神するわ」


 

 それからかなり進むと、少し開けた場所に出た。


 天井からは少し光が洩れ、その光のおかげで洞窟の中だけで言えばかなり明るい場所でもあった。


「よし、じゃあここで残りの時間潰すか」


「そうだね」


「ええ、歩かねえの!? もっと探検しようぜ」


「んじゃお前ひとりで行け。面倒なのはもうこりごりなんだよ」


「ちぇっ、面白くねえの」


 凌士君はいじけて、ずっとぐるぐる回っていたが、僕は仁一君と同じ意見だった。


 無駄なリスクは極力避けたいし、もし錬金術を使う強力な妖が出てくればかなり大変なことになる。



 それからどれだけの時間が経っただろう。


 インテリ男の錬金術である、頭の上の時計が光り出したのだ。


 よく見るとあと十分で時間が経つようだ。


 なんだ、意外と試験も楽だったな。


 凌士君のおかげもあるだろうが、これなら普段の紅城さんとの修行の方がよっぽどキツイ。


 僕たちがそろそろ入り口に戻って帰ろうとした時、そいつは現れた。

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