第六話 試験開始
「あ、あの、僕と一緒に行きません……か?」
声をかけたのは、僕と同じく一人でいた男だ。
彼は一瞬面倒そうな顔をしたが、元の顔に戻すと言った。
「嫌だ」
「え、その流れで断るんですか……」
彼はそれから何も言わずにすたすたと奥の方へ歩いて行ってしまった。
だが彼の他に同類らしき人は見当たらない。
「あのー、一人じゃ心細いというかなんというか」
「付いてくんな」
「一人で生き残れる自信あるんですか?」
「当たり前だ。逆に無い奴らの方が危機感が無くておめでたい。死ぬ前に帰った方が良い」
彼は恐らく本気で言っているのだろう。
冗談を言っているようには聞こえないし、何があるか分からない奥に怖気付かずに進んでいく。
彼はあの入り口の仕掛けにきっと気づいている。
気づいているからこそ、人より早く行動を始めたのだろう。
だからこそ僕はこの人と組みたい。
「お願いします、確かに僕は未熟ですが盾くらいにはなれます。死ぬつもりはありませんが、死ぬ気で頑張りますので」
「……はあー、まあいいや。俺は
「僕は黒葬歩です。よろしくお願いします」
「黒葬? ああ、そういうことか」
「?」
「いや、何でもない。さっさと行くぞ」
彼は僕の名前を聞いた時、一瞬不思議な顔をしたが、すぐにまた前を歩き出した。
「あのー、八頭さん」
「仁一でいい。苗字は嫌いなんだ。あと敬語止めろ、面倒だし年齢もほとんど変わんねえだろ」
「わかりまし……分かった。それで聞きたいんですけど、今どこに向かってるの?」
仁一君はふっと笑った。
「知らねえ」
「ええー……」
「ベストは妖が沸かねえところ。まあそんなところはねえと思うから、湧きにくいところかな」
そう、妖とは出現しやすい場所としにくい場所がある。
暗ければ暗いほど出現しやすかったり、人の思いなどがたまりやすい場所などが出現しやすい。
お化け屋敷に本物のお化けがいた!
とか言う事例が発生しやすいのも、こういう背景があるからなのだ。
しばらく歩いてきたとき、後ろから誰かの気配がした。
結構前からいたのだが、こちらに何もしてこないので特に気にしていなかった。
だがずっとついてくるのはさすがに怪しい。
妖か、それとも他の参加者か。
ルールには人を殺してはいけないと言っていたが、妨害や攻撃は特に指定されていなかった。
つまり悪意ある人間か、機会をうかがっている妖か。
……というかすごいな。
僕たった三カ月で気配とか言っちゃってるよ。
「おい、後ろ」
「うん、気づいてるよ」
僕は後ろを振り返り、腰から木刀を引き抜く。
二十、いや十歩で行けるな。
僕が木刀を構え、詰め寄ろうとした時、
「お、おいちょっと待ってくれ!」
気配の主が、両手を上げて出てきた。
「俺も仲間にしてくれよ。一人は心細くてよう」
気配の主は、頭に鉢巻巻いた男だった。
チラッと仁一君の方を見ると、あからさまに面倒くさそうな顔をした。
「なあー頼むよう」
仁一君は頭をかくと、鉢巻の男に詰め寄った。
「仲間にしてやってもいい。だがお前の錬金術を教えろ。話はそれからだ」
ああ、これは駄目だって言ってるんだな。
自分の錬金術を相手に明かすことは、自分の奥の手を晒すに等しい行為だ。
仮に自分の錬金術を教えたとして、その相手が裏切り自分を攻撃してきた場合、奥の手が知られている自分は圧倒的に不利になってしまう。
つまり仁一君は仲間にするつもりは無いからどっか行け、と言っているのだ。
「ああ、俺の錬金術? 物質をガラスに錬金できるんだ。無機物だけだけどな!」
……ああ、こいつ馬鹿なんだな。
きっと僕と仁一君の頭の中は同じことを思っているはずだ。
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