第12話 四編 付録

 本論を発表したら、二、三の質問反論があった。よってそれを付録として記す。

 ひとつ。「事をなすには有力な政府の力を借りてするのが便利なのではないか」。答えよう。「文明を進歩させるには政府ひとりの力だけに頼ってはいけない。それは本文に書いた。政府と人民が一丸とならなければ、文明は進歩するものではないのだ。それに政府の力によって事をなすのは、この数年に政府がいくつかの試みがあったけれども、未だそれがよい結果を出したのを聞いたことがない。私立の事もその効果があるかどうかが判りにくいが、議論上や机上において明らかな見込みがあればそれを試みなければならない。試みもせずにその成否を疑う者は勇者とは言えない」。

 ふたつ。「政府には人材が少なく、有能な人物が政府を離れれば、官務に支障をきたすことになる」。答えよう。「決してそうではない。現在の政府に官員が多すぎるのを心配しているのだ。事を単純化して官員を減らせば、その事務は整理されて円滑に進み、離れた人員は世間でよく用を果たすだろう。一挙両得だ。ことさらに政府の事務を複雑多端で、有能な人物に無用なことをさせるのは下策の中の下策であろう。それに、政府を離れる人物も外国へ去るわけではなく、日本にいて日本の事をなすのだ。心配することでもない」。

 みっつ。「政府と他の場所に私立の人物が集まると、それが自然と政府のようになり、本政府の権を落とすことになってしまうだろう」。答えよう。「この説は小人の説だ。私立の人も在官の人も同じ日本人である。ただ違う地位で事を行うだけだ。その実はお互い助け合ってともに全国のために働くのだから、それは敵ではなく盟友なのだ。それにこの私立の人物たちの一人が法律を冒すことがあれば、政府はこれを罰してもいい。少しも恐れるに値しない」。

 よっつ。「私立をしようと望む人物がいても、公職を離れれば生計が立てられなくなるではないか」。答えよう。「この言葉は士君子の言葉ではない。すでに自らを学者と唱えて天下を憂う者が、どうして無芸無才の人物であろうか。芸や才をもって飯を食っていくのは難しいことではない。それに官にあって公務を司るのも、私にいて事業を営むのも、その難易は異なるものではない。もし官の事務が簡単労少で、その利益が私立の事業より多いことがあれば、その利益は働き以上の利と言える。働き以上の利を貪るのは、士君子の行いではない。無芸無能で、思いがけない幸運で官途に就き、むやみやたらに給料を貪って贅沢をして、遊び半分に天下の事を談じる者は、わが輩の友ではない」。

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