第4話 俊貴

 日曜はたいていゴルフに行っている。仕事の付き合いもあるが、ゴルフをしている時は仕事を忘れて一打のための自分との闘いに没頭出来るからだ。ただ今日は午後から木曜に亡くなった英恵さんの葬式に出席するため、ゴルフをキャンセルしたのだ。

 英恵さんとは近所で、息子の貴洋と同級生の駿君の母で、私の会社のソフトの英語の翻訳をお願いしており仕事でもお世話になっていたのだ。プログラミングの専門用語もなぜか詳しくとても頼りにしていたのだ。一か月前に打合せした時は、とても元気だったのに、本当に驚いている。

 朝食を食べて久しぶりに「モーニングサンデー」というテレビ番組をつけた。私が起業する前から続く人気の長寿番組であり、ネットでたたかれることも多いが、ぶれない骨太な報道番組で家にいる時はいつも見ている。

「続いてのニュースは2週間前に突如出現した今話題のアプリ、「コンプレックス フリマ」略してコンフリに関してです。SNS上には本日午前0時に取引終了と同時にコンプレックスが治った、奇跡だ、という喜びのコメントが多数アップされています。先週に続き、今週は二回目ですが先週よりコメントが数倍増えています。ただこのようなことが本当に起こりえるのでしょうか。一重から二重、身長が伸びたなど比較写真など掲載されていますが、美容整形したものをアップしたかもしれませんし真偽のほどは分かりません。関本さん、いかがですか」

「こんなフェイクニュース、扱うだけで番組の品位が下がる。あり得るわけがない。コンプレックスを寿命と引き換えに交換など。もし本当に実在するなら、私は寿命伸ばすため、いくらでもコンプレックスもらって醜くなりますよ。まだまだ生きていたいからね」

 俊貴は馬鹿らしいニュースだと思いながらも、フリマという言葉に反応した。昔、息子の貴洋がマスクを転売していたことを思い出した。あの時は、まっすぐ育てている自信があっただけに本当にショックだった。

 仕事でも少し話題になっていたコンフリ、この際だからと少し見てみることにした。

 ただの悪戯であるだろうし、会員登録など面倒でやめたが、シンプルながらもしっかりした作りに感心して下にスクロールして目に入ってきた「Distorted by ヒデ」。


 ふと10年前ほど前、会社を退職した頃を思い出した。

 私の部下であった英寿はとても優秀なプログラマーで、私は彼の才能に惚れて幾度も一緒に独立の話を持ち掛けた。しかし、彼は全くそのようなことに興味がなくいつも心ここにあらずで新しいソフトを開発し続けていた。今でも覚えている、あの革新的なソフトを見た時の感動を。私はプライドを捨てて彼にこのソフトを譲ってほしいとお願いしたのだ。

 彼は、顔色一つ変えず、全てを悟って承諾してくれた。本当に変わった奴だった。

 でも一つだけ彼は条件を提示してきたのだ。

「このセキュリティソフトを世の中に出す際の名前は「FUTURE EYE」にしてください。それだけは約束してください。」

 私は名前の由来を聞いたら彼はこう答えたのだ。

「タイムマシーンからやってきたくらい革新的なセキュリティソフトですから。私の最高傑作はこれを超えるものになるはずですが。」と静かに語っていたのだ。

 10年経った今も私の会社の主力商品は、このタイムマシーンからのギフトである。

 そろそろ英恵さんの葬式の時間。貴洋の奴、急な出張で参列出来ないといっていたな。

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