第51話

「どうしてこんなことをするの? あたしはあなたを産んで育ててあげたのに……」



暗闇の中、ゴトッと物音が聞こえてきて身構えた。



音のする方向へ視線を向ける。



暗闇に馴れて来た目が捕らえたのは、床に転がるゴミ箱だった。



ゴミ箱が自然に倒れるはずない……。



心臓が早鐘を打ち始めた。



やっぱり近くにソレがいるんだ。



「お母さんをからかって遊ばないで」



強い口調でそう言った。



ソレは物に触れることもできれば、すり抜けることもできる。



姿が見えないのをいいことに、遊んでいるようにしか感じられなかった。



ゴミ箱を起こそうと立ち上がったとき、今度は逆側にある窓をコンコンと叩かれる音がした。



勢いをつけて振り返る。



しかしそこにはなにもない。



「いい加減にしなさいよ。お母さんだって怒るんだから」



そう言いながらも声は震えていた。



すぐ隣の部屋で眠っている透のことを思い出す。



起こしに行こうか……。



そう思った瞬間、突然部屋の電気がついたのだ。



「きゃあ!!」



思わず悲鳴を上げてきつく目を閉じた。



「どうした友里? さっきから1人でぶつぶつ言ってただろ?」



その声に目を開けると、ドアの前に透が立っていた。



電気をつけたのは透だったのだ。



そう理解した瞬間、体中の力が抜けて行くのを感じた。



全身から力が抜けて行き、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。



「友里?」



かけつけた透があたしの体を支えてくれた。



「大丈夫か?」



「どうしよう透……あたしのせいで、みんなが死んだら!」



あの夢が現実のものになる日は近いのかもしれない……。


☆☆☆


元々悪魔なんていなかった。



得体の知れない菌やウイルスに名前を付け、怖がった結果、産れたんだ。



「それなら、怖がらなければ消えるかもな」



学校までの道のり、透にそう言われてあたしは「え?」と、聞き返していた。



「恐怖心が作り上げた悪魔なら、俺たちだけでも平気な顔してようぜ」



透はそう言って笑った。



「そんなに単純なものなのかな……」



「ネット上でも拡散しよう。悪魔山の本当の由来をあちこちに書き込んで、悪魔なんていないって知ってもらうんだ」



膨大な量の恐怖を払拭すれば、すべて元通りになるんだろうか?



透の言っていることはわかるけれど、自信はなかった。



「そんな暗い顔すんなって。絶対に大丈夫だから」

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