第14話 もっと前から会ってるよ
「あの、菱村さん。相談に乗ってもらいたいことがあるんですが」
綿原と笠原が付き合っていることを龍樹が信じていると伝えてから魂が抜けたように作業をしていた綿原だったが、正午になり作業を切り上げようとした純に話しかけてきた。
「相談?」
「ええ、このあと時間ありますか?」
夢花との約束まであと3時間。ここから夢花の家まで10分程度で着くとはいえ、今日見せる約束のプロットは完成していない。ネタ探しから始めなきゃいけないから作成にかなりの時間を使う。昼食を食べることも考えると、1分1秒も惜しい。
「このあとか~、明日なら……」
「龍樹くんのことで相談したいこと……」
「今から聞くよ」
時間がないから明日にでもと純は言おうとしたが、辞めた。だって、いいネタの香りがしたから。こんなの聞かないわけがない。もし、明日ならと言ってしまえば、明日には気が変わって話を聞けないかもしれない。だったら、プロットを書く時間が無くなってでも、話は聞いておきたい。あと、純粋に龍樹のことは気になるのもある。
「このあと何か予定があるのでは?」
「今無くなったから大丈夫!」
「予定ってそんな簡単になくなるものですかね……」
態度が急変した純を見て綿原は首をかしげたが、「話を聞いてもらえるなら」とごにょごにょしていた口を開いた。
「あの、龍樹くんって今好きな人いますか?」
おいしいネタ発見と純は心の中でガッツポーズをした。決して顔には出していない。そんなことをしたら綿原に失礼だから。
「いないんじゃないかな?」
強いて言えば、紗弥加ぐらいであろうが、あの人は龍樹の実の姉だからノーカウントだろう。となると、純が知っている人で該当する人は浮かび上がらなかった。
「そうなんですね」
嬉しそうな顔をする綿原を見て、龍樹のことが好きなんだと純は確信した。
「でも……龍樹くんのこと好きな人っていますよね?」
「え?」
そんな人いるだろうか。龍樹は一応顔が整っているからもてそうではあるが、浮いた話は聞いたことがない。中学の時から一緒にいる純がそのことに気づかないことなんてあるのだろうか。
「遥夏さんって、龍樹くんのことどう思ってるんですかね?」
「遥夏?」
確かに、遥夏は純や龍樹の周りをいつもうろちょろしている。もしかして、龍樹に気が合ったのだろうか。小学生からの付き合いであるし、龍樹を惹かれててもおかしくはない。
「聞いてみるわ」
「ええっ‼ 答えてくれますかね?」
オーディション中の遥夏に電話するわけにはいかないので、メールを送っといた。『遥夏って龍樹のこと恋愛的な意味で好きなの?」と。デリカシーのないやつと思われるかもしれないが、長い付き合いだ。訳を話せば許してくれるだろう。
「今、メール見れてないみたいだからもう少し待たないといけない。僕は昼食を買いにコンビニ行くけど、綿原はどうする?」
「私も着いていきます」
昼食を買い終え、再び学校へ戻ってくると、ポケットにしまっていた携帯が振動するのが伝わった。相手は遥夏だ。
『もしもし、純? 急に何なのよ、あのメール』
「龍樹とは付き合い長いし、どうなのかなって思って。案外龍樹のこと異性として好きなのかなって」
『それはない』
照れとかを一切感じさせない声で即答された。
「本当?」
『今まで一回も龍樹をそんな風に思ったことないわよ』
「そっか。なら安心だ」
『ちょっと待って、なんでこんなことを急に聞いてきたの? 私オーディション中なんだよ』
綿原の方も一度見て頷くのが見えたため、少しだけ情報を伝えることにした。綿原の名前は隠して。
「龍樹のことを好きだというやつがいて、遥夏がどう思ってるのか気になるって言われたから」
『何それ面白そうじゃん。帰ったらその話聞くからね』
「分かった。それよりも調子どう?」
『うん、緊張してたけど、純の変なメール読んで気が抜けた。これならいつも通りの演技ができるかも』
「それは良かった。じゃあ頑張ってね、楽しみにしてるから」
『了解! 絶対に勝ち取ってくるよ』
オーディションで緊張をしていないか心配だったが、元気になってなりよりだ。まさか、龍樹にこんな形で助けてもらうとは思いもしなかった。今度会ったらお礼をしておこう。
「それで、遥夏さんなんて言ってましたか?」
「興味ないから、どうぞご勝手にみたいな感じだったよ」
「それは良かったです。もし、遥夏さんのような相手なら私じゃ勝てないと思ったので」
直接、綿原の口から龍樹のことが好きだとは聞いていないが、話の節々で間接的に言っているようなものなので、ぶっこんでみることにした。
「綿原は龍樹のどこが、というより、いつから好きなの?」
「へっ?」
綿原の顔が真っ赤になり、両手で顔を抑えながらごにょごにょとつぶやき始めた。
「なんでぇ、私がたちゅきくんのことをしゅきだとわかったんでしゅか」
「態度見てればバレバレだよ」
逆によく今までバレてこなかったなって思うぐらいだ。実際自分は鈍感ではないと思っている純も気づけたぐらいだから、多くの人にバレてそうだけど。
「そんな顔に出ているのでしょうか?」
うん、と純が頷くと、「それで、笠原君たちにもバレたのか」と右手の人差し指で頬をかきながら笑っていた。
「待って、笠原は知ってたのそのこと」
「ええ、かなり前から」
(笠原め、図ったな……)
仕事の分担を決めたのは笠原だ。うちの射的だけ、4人と妙に人員が少ないと思ったらそういうわけか。できるだけ、2人で話す時間を増やしてあげようとしていたのだろう。実際は、龍樹が補習に参加しちゃったせいで、まともに話せていないけれど。
「かなり前って、龍樹と綿原が初めて話したのってこの前の催し物決めの時だと思うんだけど」
「自己紹介したのは、そこが初めてです。ただ、初めて会ったのは高校受験の日です」
高校入試当日は、いつものように純は龍樹と遥夏と行動していた。試験を行った教室も同じだったし、龍樹が受かるか心配だった純は当日も龍樹のことを目にやっていた。綿原なんていた記憶がない。こんな美人だ。美人と話したら嫌でも目に入るはずなのに、その記憶は一切ない。
「え……、綿原いた?」
「分からないのも無理ないですね。私、入試の時と今では格好が全然違いますから」
理解が及んでいない純を見て、綿原は長い髪の毛を一本に結び、バッグの中から眼鏡を取り出し、かけた。
「あっっ!」
「思い出しましたか? 私高校デビューなんですよ」
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