第6話 諦めきれないから……

 階段を降り、リビングへ向かうと、義父は純を待っていたかのように椅子に座ったままであった。


「……義父さん、さっきはごめんなさい」

「いや、俺の方こそ言い過ぎた」


 ケンカしてから時間が経っているのにも関わらず、席から離れた様子はなく、義父も言い過ぎたことには反省しているような反応だった。


「それでね、やっぱり僕は小説家になりたいんだ」

「どうしてもか? 現実は甘くないぞ」


 先ほどと同じように少し義父の顔が引きつる。言い過ぎたとは言ったものの純が小説家になること自体はやはり反対なのだろう。


「分かってる。何度言われようと、僕には諦めきれない理由があるんだ」


 うすい先生に会うためにはこの方法しかない。だからこそ、夢半ばで純は投げ出すという選択肢はとらない。


「正直に言えば、俺は反対だ。いつまでも夢ばっかり見ていると痛い目に遭う。現に純くんは10回も応募して一度も1次審査を通過できたことがないんだろ?」

「うん」

「純くんは頭がいい。だからそれを活かした仕事……教師になった方が純くんのためだと俺はそう思う」


 純の両親は共に教師だった。生徒や他の教師からも人望のあった。だから、純にも2人のような教師を目指せると思っていた。


「確かに、僕には小説の才能はない。義父さんが僕の将来を思って考えてくれていることはよく分かるよ。だけどね、こればっかりは聞けないんだ」

「そうか……」

「だからね、義父さん、僕と一つの約束をしない?」


 紗弥加と話したことで純が義父に納得してもらえる案を純は考えていた。


「約束?」

「うん、今度9月30日にWX文庫で小説の新人賞の締め切りがあるんだ」


 文化祭も近くにあることからこの新人賞に純はもともと応募する気はなかった。去年と同様文化祭準備は忙しくなることが純には予想が出来ていたからだ。


「そこに僕は小説を応募しようと思ってる。それでもし、一次審査を通過できなかったら、その時は僕は小説家になるのを諦めるよ」


 しかし、義父を納得させる以上、今日から一番早く結果が出るこの新人賞が最適だと考えた。締め切りまでもっと長い新人賞を候補に挙げれば受け入れてもらえない可能性があったかもしれないからだ。


「本気で言ってるのか?」

「うん、僕はもう高校2年生で来年は受験生。いつまでも夢ばかりを追いかけてちゃいけないと思う。それに、一次審査をいつまでも突破できなきゃ小説家になることなんて夢のまた夢なんだ。だから、もし今回一次審査突破できないことがあれば僕は勉強に集中するよ」

「……いいんだな?」


 どちらにせよ、今までのようにただなりたいと思うだけじゃ小説家になれるはずもないと感じていた。


 だったら、後戻りできない状況を作って、最後の1作に懸けた方が望みは高いだろう。


「もちろん、覚悟を決めたつもりだよ。先延ばししてたら何時まで経っても小説家になれっこないしね。だから義父さん、一次審査を突破出来たら小説家を目指すことを認めてください」


 それでもし突破できなかったら、うすい先生に縁はなかったんだと諦めると決めた。一次を突破できないようではいつまで経ってもうすい先生に会うことなんてできるはずがないから。


「分かった。好きにしなさい」

「義父さん……」

「その代わり、突破できなくて後から駄々をこねるのはなしだぞ」

「そんなかっこ悪いことできないよ」

「それもそうだな」


 二人は顔を見合わせてフフッと笑った。


「遅くなったけど、夕ご飯食べるか」

「うん」

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