九. 願

 七月七日、夜二十一時一分。

 藍色に染まる夜空は特に綺麗だった。

 朝からよく晴れていたのもあって、都会だというのに星がよく見える。幾つかの星々たちも輝いている。

 年に一度だけ天の川で逢う、おりひめさまとひこぼしさまを祝福するかのように、その星々たちは順番に輝きを増していく。

 ボクは萌音もねちゃんのためにお気に入りの出窓に座る。目を閉じて天の川へ願いごとを込めた。


「ミルク、今日のお星さま綺麗だねえ。天の川で二人が出会えるように私も願わなくちゃ!」


 萌音ちゃんの声は聞こえているのに、いつものように反応できないでいた。

 それでもボクは聞こえてくる声に耳を澄ませる。







ミルク。

ミルク、聞こえていますか?

七夕に私達に会いに来てくれてありがとう。

ミルク、貴方は本当にそれでよいのでしょうか?

私達はミルクに幸せになってもらいたくて人の言葉を聞き、理解する力を与えました。

友達思いの貴方に話す術を与えました。

自らの想いを胸に閉じながらも、彼らのために願おうとする心に胸を打たれました。

しかしミルク。

私達が貴方に与えた力は必ずしもそれだけのために与えたのではありません。

貴方が、貴方の気持ちを伝えるために与えたのです。

友達に強い想いを伝えたように、今度は自らの想いをぶつけても良いのです。

貴方の願いごとを叶えましょう。

さあミルク。

その胸に秘めた想いを彼女に伝えてあげてください。

きっと彼女の未来も晴れることでしょう。







 そばにいたキラの温かな体温に気づく。前にも同じように感じた温もりだ。

 もしかしたら──。おりひめさまと、ひこぼしさまがキラを通じてこうして話かけてくれたのかもしれない。姿見の前で人間の姿になったあの日も今日も。

 そうしてボクの目の前に、目を開けていられないほどの光が雷鳴とともに降り注ぐ。

 もう目を閉じて成り行きに身を任せてみた。

 姿見に映るのは以前に見たが映っている。

 陶器のように透き通る白い肌。口元は小さくて青い瞳。真っ黒な髪の毛をサラサラとなびかせて彼はそこに立っていた。







 




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