六. 友

 目を開くと、そこは見慣れた場所。

 でも夏祭り会場でもないし萌音もねちゃんの部屋でもなかった。どこだろうと頭がまだぼんやりとした状態で辺りを見渡す。


「ミルク、起きたか?」

「ニャア(浬?)」

「鞄にお前を入れたまま持ち帰ってきちゃったんだよ。で、萌音が今日は俺んちで預かってってさー」

 それは予想外の展開。

「ん? どうする、今日はここで寝るか、萌音んち帰るか。どっちみち隣なんだけど」

 幼なじみで家も隣同士。家族同然のように家を行ったり来たり。

 すでにかいりはお風呂に入ったようで部屋着姿だった。もうそんな時間になってたんだ。

「ミルク、飯まともに食ってないだろ。これ食ってから寝ろよ」

 そう言えば萌音ちゃんに夏祭りでフランクフルトを一口もらっただけだ。どうりでお腹の虫が鳴ると思った。

 浬の家にもキャットフードがなぜか常備してある。それをプラスチック容器に出すとカラカラと音を立てる。

「いっぱい食えー」

 むさぼりつくように食べた。浬とは一度、男と男同士、腹を割って話したい(どうやって?)と思ってたから丁度いいやと思った。

 お腹いっぱいになった所で浬のベッドに潜り込む。


「布団に潜ったってことはオッケーだな。じゃあ俺と一緒に寝ようなあ。萌音じゃなくて残念かもだけど男同士つるむぞ」

「ニャッ(ほいキタ!)」

「よーっし、よし。可愛い奴だなあ、お前。俺は好きだよ、ミルクのこと。お前は俺のこと、どう思ってんのかな。好き? 嫌い?」

「ニャ」

「そっかそっか好きか。やっぱりな、俺いい奴だもんな」

 ボク、まだ『ニャ』としか言葉発してませんけど……と浬に突っ込みたいんだが。

 ああっ、実にもどかしい!

 今ここで、浬と話せたらいいのにって思う。伝えたいこと沢山あるのに。


「なあ、ミルク。お前になら素直に言えそうだから聞いてくれるか……」


 部屋のベッドサイドの棚に小さなアロマディフューザーというものがあって、夜寝る前にこの灯りだけをつけて過ごすことが多い浬。落ち着くんだそう。

 この舌を噛みそうで言いにくい名前のアロマディフューザー、スイッチを入れると灯りがつく。容器に水と好みのアロマオイルを数滴たらしセットする。

 最大の特徴は霧のようなものを噴霧してアロマの良い香りを部屋中に送り込むのだ。今日の香りはラベンダーらしい。

 ボクの鼻は効きすぎるくらいなので強い香りはちょっと苦手。


「クシュンッ──」

「ミルクごめん。この香り猫にはキツいよな」

 浬はそう言って、灯りはそのままにアロマディフューザーの機能のみスイッチを切った。


 浬はボクの横で枕とクッションを背もたれにして深く座った。ボクも浬のお腹辺りに寄りかかるようにして背を丸める。

 萌音ちゃんの小さくて可愛らしい手とは対照的な、骨格のはっきりしたやや大きな手のひらでボクの毛並みをゆっくりと撫でる。

 暖かみのある色に染まった浬の頬を眺めながら、いつもと違う雰囲気を漂わせている彼の話を聞くことにした。













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