第10話 トキワ座の幻影 ~trois~


4階の練習場で、俺は南戸さんから主だった部員を紹介して貰った。


「やぁ!僕の名前は春浦はるうら三馬みつま。主人公の三四郎役を担当してるよ。そして南雲くんと同じ代の商学部四回生さ、よろしくね!」


「同じく商学部四回生、扇田おうぎだ叶夢とむ。今回の三四郎では野々宮教授役をやらせて貰ってるよ。

南雲くんの噂は予々かねがね…凄いヤツが人文社会学科にいるってね」


春浦くんは爽やか系、扇田くんはダンディ系、どちらもイケメンでモテそうだった。



「そして僕がサークル長兼監督の白江しろえりく、よろしくね?」


ようやく話の通じそうなヤツが来た。

きっと白江くんとやらも、キスの向こう側に到達していないの人間だろうと思わず目を細めた。



「こんにちは、民研の東雲しののめ南雲なくもです。」

俺は首だけ下げて三人に挨拶した。


「こんにちは、超絶美少女の南戸ナンド茉莉マリです。」

どうして南戸さんはこっち側の顔をして挨拶してるんだろう…?



「なんでマリちゃんがそっち側なんだよ」


「そうそう、我が部のプリマドンナを存ぜぬ訳ないだろ?」


「というか、役職が“超絶美少女”って……」


春浦くん、扇田くん、白江くんの順番で、それぞれが南戸さんへツッコミを入れていた。

扇田くんのキザッたらしい感じがちょっと面白い。


「ま、他にも部員はそこそこいるけど、サークルの主だったメンバーは僕ら四人くらいかな?」

白江くんはそう言って話を纏めに入った。このサークルのサークル長は大変そうだと俺は思った。


「今回お邪魔させてもらったのは脅迫状の件なんだけど」

俺はさっそく本題に入ることにした。


「なら丁度良い、実は脅迫状の件は僕ら4人だけの秘密にしてるんですよ」

春浦くんはそう言った。


「秘密?なんでまた?」


「栗栖くんの立つ瀬が無くなるだろう?」扇田くんが答えてくれた。意外と気の回る人の様だった。


「確かに、あの子は謙虚だし演技も抜群に上手いわ。顔も私の次に可愛いし。

でも、若くして目立つ彼女は周りからの反感も強いの。大々的に犯人捜しして彼女に変な矛先が向いたら……全く、美人って辛いわね…わかるわ……」


「そう、だから南雲くんに来てもらって助かったよ。

他の部員には、提携してる純文サークルの部員が劇の内容解釈のアドバイスに来てるって事にしてるから」

白江くんはドヤ顔の南戸さんをスルーしてそう締めくくった。


「なるほど、それは良くわかった。

でも脅迫状の内容が内容だからね、心当たりが無いか当人に確認がしたいんだけど良いかな?」


「それは構わないよ。ある程度自由に動いてもらって大丈夫だし、なんならこれからリハーサルやるから見ていってよ。観客目線での感想が欲しいな。

でも他の部員に聞き込みをする時はこの件を勘づかれないように、頼むよ?」


そう言って白江くんは一人の儚げな少女を俺の前に連れてきてくれた。



「……こんにちは」

栗栖さんが気まずそうにしていた。


「……この子が?」

俺は南戸さんに訊ねた。


「そう、あの子が私の一番弟子にして未来のプリマドンナ…イマドキ現役女子大生 栗栖くりす多恵たえちゃん18歳よ。入学デビューは今年の4月で近日舞台初解禁」


「AVのタイトルみたいに言わないでくんない?」

俺は南戸さんに訊ねたことを後悔していた。


「マリちゃんは入学をデビューだと捉えてたの?」


「名前の後に年齢が来るのがポイント高いね」


「解禁も地味にポイント高いよ、アダルトビデオのパッケージかマグロ漁でしか聞かないもんな」


春浦くんたちは再び南戸さんの大ボケに一人ずつツッコミを入れていた。仲の良いサークルだなと俺は思った。

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