第7話 「先に報酬の話をしましょうか?」



蜥蜴人間リザードマンの事件からもう大分日にちが経っていた今日この頃、俺は楽単の授業の最後に配られる出席シートを取るために終業5分前に後ろの扉から教室へ侵入し、その時を待っていた。

しかし、待てども待てども出席シートは配られなかった。



「………え?…アレ?」

俺がテンパりながらキョロキョロしていると、周りにいた生徒が「授業初めの小テストが今日の出欠確認ですよ」と帰り支度をしながら教えてくれた。


そして、人も散り散りになった大教室でガックリと項垂れてる俺に話しかける生徒がいた。



「東雲さん。今ちょっといい?」

敬語とタメ語が混ざったようなチグハグな言葉だった。


「ん?……あぁ、南戸なんどさん…?だったよね。どうしたの?」

俺はハキハキと喋るこの短髪ボーイッシュな女の子の名前をどうにか思い出して返事をした。


「え?なんで疑問系なんですか?クラスメートの私のこと忘れちゃってたんですか?」

彼女はズケズケと俺の隣の席に腰かけた。名字の読み方をナンドかミナミトで迷ってたなんて言ったらどうなっちゃうんだろう……


「クラスメートって……履修そんなに被ってないじゃんか…」

俺は組まれた二本の白くてムチムチの足から目を逸らしながらそう答えた。


「は?普通にヒドイです。四月頃、留年して居心地悪そうにしてた東雲さんに最初に話しかけたのって私ですよね?」


「自信家だねぇ、他の授業で誰かから既にあったかもしれないだろ?」


「違うんですか?」


「……まぁ違わないけどさ」


「そうやってナナメに構えてるから周りからキショがられるんですよ?」


「……お疲れ、俺帰るわ」

俺は涙目で敗走しようとしていた。


「あ!ウソウソ!キショがられてないって(笑)」


「……そう?」


「まぁ座ってよ。で、実は升田君から聞いたのよね。蜥蜴人間リザードマンの事件を解決したのって東雲さんなんでしょ?」


「まぁそうだけど…升田くんは顔が広いなぁ…」


「らしいね(笑)

…で、その升田くんが言うのよ、『困ったら民研に行け』って。そんで相談したいのはウチのサークルの事なんだけど…あ、ウチのサークルは」


「演劇サークルでしょ?」


「……正解、えっなんで?」


「ボーイッシュで快活だから一見体育系サークルみたいな印象を受けるけど、舞台女優みたいにハキハキした喋り方、カツラが被りやすいベリーショート、日に焼けてない肌とスポーツマンとは思えないムチムチの足から考えて……」


「え?キモいんですけど……」


「……今のは俺が悪かった、まぁ吹奏楽やってるにしては筋肉もないし、演劇サークルかな?って思ったのよ」


「ふーん……合格」


「…合格?えっなんで俺は依頼者側にイニシアチブを握られてんの?」


「先に報酬カネの話をしましょうか?」


「グイグイ進むなぁ…」


「報酬は、私の彼氏が所属してる微生物研究サークルが作った脱法ビール10リットルでどうかしら?」


「えっ!!?それってもしかして、あの幻の…!」


「そう!お察しの通り、我が刻磐ときわ大学幻の地ビール、その名も“アル・カポネ”!それをなんと500ml瓶20本の1ケース!!どう?やる?」


「やる!やるやるやるやる!!」


「交渉成立ね!じゃあ行きましょう!依頼内容は向こうで話すわ!」

南戸さんは立ち上がり、俺にも立ち上がる様に促した後、教室の後ろ扉に向かった。


「?……まぁいいや、行こうぜ!!」

俺はウキウキしながら土屋さんに付いていった。


そして、依頼内容も聞かずに安請け合いしたことを後悔するのはこれよりもう少し後の話になる。

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