第52話

時に敵の後ろから襲撃をかけてその首をもぎ取った。



自分でも信じられないようなパワーが全身を駆け巡り、みるものすべてをかみ殺してしまう勢いがあった。



実際、アイリは圧倒されていた。



次々と死んでいく仲間に後ずさりをし始める。



しかし、アイリを逃がさまいとしてこっちの仲間がアイリを後ろから羽交い絞めにする。



倒れた仲間を見る暇だってなかった。



周囲の木々は血で染まり、あちこちに死体が転がる。



それでもあたしたちの乱闘は止まらなかった。



戦いながら、遊星が相手にかみ殺されるのを見た。



頭に牙が突き刺さり、そのままグシュッと音を立てて顔面ごと潰された。



脳味噌が周囲に飛び散り、遊星の体はその場に崩れ落ちて行った。



次にヒナが魔の手にかかった。



相手は二人がかりでヒナの体を押さえつけると、ひとりは牙を太ももに突き刺しだ。



そのまま首を激しく左右にゆすってヒナの右足をもぎ取ると、今度はもう一人がヒナの眼球に針を突き刺した。



針から噴出される毒液にヒナの体は激しく痙攣し、のたうちまわる。



それからも二人は楽しむようにヒナの体を弄び、やがてヒナも動かなくなってしまった。



気が付くと、涙が頬を流れていた。



あたしはなにをしているんだろう?



どうして友人たちが次々と死んでいるんだろう?



ふと周囲を見回してみればあたしと同じように泣いている生徒が沢山いることに気が付いた。



みんな目の前で繰り広げられる乱闘に自我が戻りつつあるのかもしれない。



でも……こんな残酷なことってない。



友人を殺し、殺され、そんな中で我に返るなんて……。



考えていると行動が鈍ってしまった。



あたしはいとも簡単に敵の仲間に捕らえられ、その牙を首筋に突き刺されていたのだ。



牙から入って来る毒液が血液を回って体中に流れて行くのを感じる。



体内にいた蟻たちが危険を察知して、慌てて口や耳から這い出して来た。



ぞろぞろとあたしの顔面を逃げ惑う蟻。



そんなあたしを見て大西さんが落胆の表情を浮かべてため息を吐きだした。



昨日せっかく助けてやったのに、役立たずだったと言いたいのかもしれない。



あたしはなにも言い返すこともできず、ただ毒刃の餌食になる。



「心美!」



意識を失いそうになったとき、柊真の声が聞こえて来た。



目だけ動かしてどうにかそちらへ視線を向ける。



そこには腹部に針が突き刺さった状態の柊真がいた。



柊真もあたしと同じように口や耳、目の隙間から大量の蟻を排出しながら、あたしに手を伸ばしている。



それを見て嬉しさが込み上げて来た。



あたしの好きな柊真がすぐそこにいる。



あたしへ向けて手を伸ばしている。



そのことを、ちゃんと理解できた。



あたしは感染した。



けれど、自我は取り戻した!



「柊真……」



あたしもどうにか手を伸ばし、その手が触れ合った。



指を絡め合うと確かに柊真の温もりを感じた。



「くだらない」



あたしたちを見ていた大西さんがため息を吐きだして呟いた。



それでもあたしたちは気にしなかった。



あたしと柊真は最後の最後に通じ合うことができたのだ。



それは変えようのない事実。



「さっさとアイリを殺してしまいなさい」



大西さんの言葉を合図にして仲間たちが一斉にアイリに襲い掛かる。



ほとんどの仲間を犠牲にしてしまったアイリは逃れることができなかった。



悲痛なうめき声を上げ、それもあっという間にかき消されて行く。



あたしと柊真はほぼ同時にその場に倒れ込んでいた。



強く、手を繋ぎ合ったまま。



「さぁ、これでこの学校はあたしのものよ」



敵対するアイリを退治した大西さんの高笑いが、死にゆく耳にいつまでも聞こえて来ていたのだった……。




END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女王様の言うとおり 西羽咲 花月 @katsuki03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ